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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第三章 『情報部』の戦闘
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望まぬ外来者

暑さも薄れ、徐々に過ごしやすい気候へと変わっていく。食欲だの読書だの運動など、様々なことがしやすくなるこの季節。


だからだろうか?



情報部に所属する俺は、平日の午後である「放課後」に、校舎の三階の廊下の真ん中にいる。マイク付きのヘッドホンを付け、廊下の窓から広い校庭を見下ろしていた。

放課後になるとこの第一高校の校庭は、普段は戦闘部や守衛部たちの練習場となる。たまにスクープを求めて新聞部が徘徊する事もあるが、少なくとも俺が気にするべき場所ではない。


しかし、俺の神経のほとんどが、今は校庭に注がれている。

そして俺のすぐそばにいる守衛部の希月徳(きつきさと)の神経は、廊下に注がれていた。その右手には、守衛部員の中で彼だけが扱える木刀が握られている。




一応言っておくが、希月が俺の殺害を目論み、人が居ないのを確認して木刀で叩こうとしているわけではない。


希月は俺の守衛をしているだけだ。



廊下を注意深く見渡す希月が、俺に目を向けずに話しかけてきた。


「どう?校庭の様子は」


俺はその問いに、自分なりの解釈を含めて答えた。


「第一高校が優勢だな。校庭の半分くらいで敵を抑え、だんだん優勢になってきてる」


しかし希月は俺が話し終える前に、廊下の端に向かって走り出した。俺は校庭を見たままであるため詳細は分からないが「うわぁっ」「わあ?!」という聞き慣れない声の悲鳴が聞こえた。恐らくここに侵入してきた、第五高校の奴らが、希月に負けたのだろう。


─────そう。今、第一高校は第五高校と「戦闘」を行っている。しかも第一高校は攻められる側だ。


ここで負ければ、第一高校は敗退となり、この土地から消えてしまう。

攻め込んでいる第五高校に俺たちが勝てば、第一高校は今まで通りでいれる。ただ、第五高校は攻め込んでいる側なので、負けてもこの土地から退くことはない。まあ、敗者という名は与えられるが。



そのとき、ヘッドホンから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「こちら…………カエルの大魔王。…奏寺、聞こえるか?」 

「はい、オッケーです」


嫌々ながらに合い言葉を言う俺の通信相手は、もちろん香藤勇雅(かとうゆうが)部長だ。

香藤部長は気持ちを切り替えたのか、真面目な声に変わる。


「今、第五高校のとあるパソコンに侵入している。次だが、校庭から少しずつ撤退し、校舎に入るそうだ」

「了解です。…って、校舎ですか?やだな」


俺が居るここが、次の戦場となるのか。よし、早めにここから出よう。


香藤部長との通信を切った後、今度は俺の方から電話をかける。呼び出し音が数秒流れた後、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「もしもし、奏寺くん?」

「ああ。城戸(きど)、新しい情報だ」


戦闘部にて戦略をたてている城戸に、俺は先ほど仕入れた情報を伝える。城戸は一度も聞き返すことなく、静かに聞いていた。そしてこちらが話し終えると、嬉しそうに話し出す。


「ありがと!よし、叩きのめしてやる!」

「こ、心強いな」

「まあね!できるだけ校舎への侵入はさせないようにするから、安心して」


城戸はテンションをあげたまま、通信を切った。そして休む暇を与えることなく、次の通信が入る。


「もしもし」

「奏ちゃん?…ええと、…カマキリの銀行員だけど…」

「お疲れ様です」


カマキリの銀行員という合い言葉と、この喋り方といえば、春崎(はるさき)先輩しかいない。

春崎先輩は俺と同じく、この校舎内に居るはずだ。俺と違って単独行動をしているので、どこかに隠れているのだろう。


「今、校舎の入り口あたりにいるんだけど…結構な数の敵が校舎に侵入したの。…だから気をつけて」

「ありがとうございます」


春崎先輩は小声で別れの言葉を言い、通信を切る。俺はすぐさま廊下を見渡し、敵がまだここに来ていないことを確認した。


「奏寺、どうしたの?」

「それがさ、結構な数の敵が校舎内に入ったらしくて」


希月はそれを聞くと、気を引き締めたのか真剣な顔つきになった。

それもそのはず。俺は完全なる非戦闘員である。自分の身すら守る自信すらない。そんな生徒を守らなければならないのだから、希月も笑ってはいられない。


とりあえず後は希月に任せ、俺は再び窓の外に目をやった。相変わらず、校庭は二つの高校の生徒で賑わっている。


その端の方に、雪平先輩が見えた。雪平(ゆきひら)先輩はいつも通り、救護班の手伝いをしている。それ故に、雪平先輩が携帯電話を通話中にしてくれると、戦闘員たちの声がここにも直接聞こえる。



背後で風を感じた。恐らく希月が敵を見つけ、走り出したのだろう。今度は、俺はしっかりと近くの教室に身を隠す。


十数秒、いや数秒で片付けた希月は、焦った様子で俺がいる教室に走り込んできた。


「ちょ、奏寺!」

「…なんだ?恐ろしい数の敵でも攻めてきたか?」


ありとあらゆる最悪のケースを想像しながら、俺は希月の方を見た。だが、俺のマイナス思考な考えははずれているらしい。希月が首を横に振った。


「逆なんだ!皆、校舎から出てった」

「………は?」


想定外すぎる答えに、俺は呆気にとられた。


今攻めてきた敵が、すぐにいなくなった?

どういうことだ?

まるで誰かに操られて…、いる、ような…。


…。


…ああ。そういうことか。



苦笑いを浮かべながら、俺はある人物に通信を入れた。


「もしもし?あなたは?」

「はいはい、どじょうの公務員だね」


俺が通信を入れた人物、それは白池和攻(しろいけかずせ)先輩だ。

どじょうの公務員という微妙なコードネームを持つ白池先輩は、その名前を意外と気に入っている。


俺は白池先輩に、この状況について尋ねてみた。すると、予想通りの答えが返ってくる。


「うん、僕だよ。校庭にいる敵の方に、ちょーっとした誤情報やら何やらを投げたんだ。そしたら、皆急いで校庭に戻って行ったんだよね」


爽やかかつ優しい声とは裏腹に、やっていることは相変わらず容赦がない。抜け目もないのか、誤情報だとバレることも少ないのが凄いところだ。


通話を終えたところで、希月に簡単かつ曖昧に事情を伝えた。


「うん、とりあえずここは安全になったんだね」


希月ももう慣れたのだろう。それで納得してくれた。

俺たちは今までいた場所に戻り、再び戦闘部や守衛部との連携プレーを始めた。騒がしい校庭の声はここまではそんなに届かない。そのため、この静かな校舎内に響く冷たい足音は俺の耳にも届いた。


「なんだ?」


不安を隠しきれない俺が、廊下をキョロキョロと見渡す。希月は冷静に、足音がしている方向をじっと見つめていた。


「…来るよ」


希月は低い声でそう呟くと、木刀と構えた。こちらに背を向けているため、希月の表情は分からない。しかし、その気迫はここまで伝わってくる。


さすがは守衛部のエース、ってやつか。


しばらくすると、足音の主の男子生徒がこの階にあがってきた。足音の主とは離れているものの、その巨大な図体はここからでも目立った。


「うわ、でかっ」


希月が思わず言葉をもらしていた。だが、確かにデカい。縦だけではなく、幅もある。その生徒の制服のラインの色は茶色。…第五高校生の証拠だ。

こちらに近付いてくるデカい第五高校生は、見た目通りの太い声でこちらに話しかけてきた。


「へえ…こんな所にも生徒がいたんだ?木刀持ってるってことは、君も戦闘員か」

「戦闘員といえば、まあそうなります」


力強い声で希月が答える。デカい第五高校生はニヤリと笑うと、自分の得物である木製の長い棒を取り出した。その長い棒は眩しいほど明るい黄色で塗られている。



デカくて、黄色い長い棒を使う、第五高校生。



その情報たちが俺の記憶に結びつく。気がつくと俺は言葉を発していた。


夏間英流(なつまひでる)、第五高校の二年生。身長203センチメートル、体重85キログラム。彼が扱う武器の黄色く長い棒は、実は金属が仕込んであり、かなりの重量。弱点は方向音痴」


すらすらと並べられた自分の情報に、近くまできたデカい第五高校生の夏間は動揺していた。


「な、なんなんだよお前?!」


夏間の大声で、俺もはっとして我に返る。やはり情報を並べてしまう癖は、簡単には治ってくれないらしい。

夏間は黄色い棒を強く握り締め、俺に突進してきた。だが残念なことに、俺の元につく前に、夏間の頭は働いてしまったらしい。彼の顔に再び動揺が現れる。


「ま、まさかお前が噂のじょ…」


全てを言い終える前に、希月は夏間の腹に木刀を叩き込んだ。夏間が咳をしながら倒れ込むと、あっという間に拘束具を巻き付ける。

そして、最後に一言。


「動揺しすぎですよ」


希月はそう言い放つと、携帯電話で仲間を呼んだ。駆けつけた仲間の守衛部が、速やかに夏間を連れて行く。


「…それにしても奏寺、あの情報の羅列はなに?」

「俺の癖なんだよ。普段は頭の中で流れるだけなんだが…今日は口に出していた」

「へ、変な癖だなぁ」


半ば呆れながら、希月は再び警戒体制に入った。しかし、ふと疑問にでも感じたのか、俺に話しかけてきた。


「それにしても、どうしてあの夏間って人は、この校舎内に居たのかな?他の人は校庭に戻って行ったのに」

「ああ、それはたぶん……」


俺は夏間の情報を頭の中で確認した後、笑いながら説明する。


「あいつの弱点は、重度の方向音痴だからな」


それを聞いた希月も、吹き出しながら納得した。


「なるほど。この校舎内で迷子になったんだ」


校舎内に二人の笑い声が響き渡る。その頃には校庭での戦闘もだいぶ落ち着き、第一高校は見事、第五高校を退けた。






次の日の朝、各クラスの教室の黒板には、新聞が貼られていた。恐らく、新聞部が勝手に貼っていったのだろう。

もちろん俺のクラスの黒板にも例外なく貼られている。一面には大きな字で「第一高校、勝利!!」と書かれていた。その横には、戦闘部の暮谷(くれたに)の写真が大きく載っている。



ほう。

ということは暮谷が活躍したのだろうか?



昨日、俺は新聞部にある程度は情報を提供した。だが、向こうから情報を与えられることは滅多にない。だから暮谷の活躍については、一切知らなかった。



記事が気になるところだが、放課後まで待つことにした。今日は放課後に、新聞部に別の情報を渡す予定がある。

その時に、新聞を買うとしよう。

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