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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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世間話ができる関係

俺は夏休みの宿題や書類を鞄に入れ、寮を出た。


朝早いだけあって、人は少ない。夏休みが終わったという感覚をいまいち味わえないまま、俺は黙々と足を進める。


たまに吹くそよ風が心地良い。そんなことを思いながら、どんどん寮から離れていく。


「ね、ちょっと待って」


突然、誰かの声がした。辺りを見回すと、見慣れたオレンジ色が視界に入る。


「お、春か。まだこの土地にいたのか」


道の隅に隠れていた春が、にこりと笑った。


「ええ。今日ここを出るの。だから最後に、ちょっとお話いい?」


俺が頷くと、春は手招きをしてきた。俺たちは第一高校の通学路から外れた場所で、立ち止まる。


「とりあえずさ、色々とありがとね。奏寺くん…だっけ?」

「ああ。別に大したことはしてないし」


結局、あのとき地下高校にいた全員の賛同のもと、古代宝は春の所有物となった。もう、二度とこの土地の生徒の目に触れないためにも、それが一番良い。


「なんかさ、あの一島って人のおかげで、安全にこの島から出れるようにはなったけどさ。バタバタしちゃって皆にお礼言えなかったんだよね。皆に伝えといてくれる?」

「ああ、分かった」


まあ、広報部に今後会う機会があれば、だが。希月には今日言ってしまおう。

それより、ずっと気になっていたことが一つある。


「なあ、何でお前、髪の毛オレンジ色にしてるんだ?普通、この土地に不法侵入するなら目立たなくするべきだろう」


きょとんとした後、春は自分の髪の毛をいじり始める。


「もともと私はどっかの生徒会長に会って、地下高校の場所を聞き出す予定だったから…。ある程度、印象に残る容姿にした方が良いって聞いたのよ」

「聞いたって…お祖父さんとかにか?」

「ううん。この土地に来る前日に偶然会った『津辻(つつじ)』っていう人」


知らない人の言ったことを聞き入れて、オレンジ色の髪に染めたのかよ。

まあ、それは…もういいか。


俺は携帯電話の時計を見た。


「そろそろここには、朝のランニングを始める飛脚(ひきゃく)部が通るんだ。場所を変えるか?」

「ひ、飛脚部ってなによ?!」

「早い話が郵便部だな。どこにいるか分からない相手に、渡したい物がある時に便利なんだよ」


春は、信じられない!という目つきで、こちらを見てきた。まあ、しょうがないだろう。俺だって最初は目を疑ったものだ。


春は頭を切り替えて、話題を元に戻した。


「いいえ、場所は変えなくていいの。私はお礼さえ伝えられれば良かっただけだし。何より、あなたには学校があるでしょう?その膨らんだ鞄は、夏休みの宿題かしら?」

「ああ、四割は宿題だ。残りは新聞部に売りつける情報の書類」


春は驚きを越し、半ば呆れ顔になった。俺は鞄を肩に掛け直す。


「それじゃあ、元気でな」


笑顔で別れを告げると、春も笑顔で手を振ってきた。


「ええ。あなたも」


遠くに見え始めた飛脚部の群れを横目に、俺は通学路へと戻った。






春と話したため、時間が経ったせいか登校する生徒の数が明らかに増えている。


やっと、新学期って実感がわいてきたな…。



鞄の重さを忘れ始めたころ、やっと校舎が見えてきた。その時、後ろから俺を呼ぶ声がした。


「奏寺、おはよ」

「おはよ」


希月はいつもの明るさを持ちつつ、顔に疲れを見せていた。恐らく、夏休みの宿題を夜な夜なやっていたのだろう。

そのまま俺たちは世間話をしながら歩く。気付くと校門にまで辿り着いていた。


「そういえば霧丘さんは?」


希月がふと思い出したように、俺に聞いてきた。部活やら宿題やらで忙しかった希月は、地下高校に行ったとき以来、霧丘と会っていないらしい。


「霧丘は一島和飛に謝られたみたいだ。霧丘はあいつに散々利用されていたからな」


この情報は、霧丘本人の口から聞いたものである。そして謝罪の過程で、この土地の秘密を霧丘は知った。


これであのとき俺たちが、霧丘にこの土地の秘密を教えなかった意味が無くなってしまった。


「霧丘さん、怒ってなかった?」

「怒っていた。一島和飛に対してな」


希月が心配そうにして、下を向いた。


「だが一発叩いただけで、霧丘は一島和飛を許したらしいぞ」


笑いながら俺がそう言うと、希月もおかしそうに笑った。


「霧丘さんの一発叩く、か。霧丘さん本人からすれば、かなり軽い処罰なんだろうけど」

「あの強い力で叩かれたら、まあ…完全に痛みがひくのは一週間後だっただろう」

「うわー」


完全な笑い話になり、俺たちは校門をくぐった。目の前に、大きな第一高校の校舎が現れる。


久しぶりに、我が校の校舎に入るな…。


遠くにある靴箱に目線を向けた、まさにその時───また後ろから俺たちを呼ぶ声が聞こえてきた。


「おっ、奏寺くんに竹刀…じゃなくて木刀くんじゃん」

「第一高校は今日から新学期なのか」


夏休みに散々聞いた、この声の主を俺と希月は恐る恐る振り返って確認する。…やはり俺と希月の後ろには、あの広報部の二人がいた。二人の手には、ダンボール箱が抱えられている。


「お前ら、何でここに…?」


俺はつい反射的に聞いてしまった。周りの生徒から送られる視線が痛い。そんなことは全く気にしない篠川が、ダンボール箱の中身を俺たちに見せびらかした。


「俺たちの新学期は来週からだから。今日は広報部の仲間でこれ食べるんだよ」


ダンボール箱の中にはスイカが丸々一玉、すっぽりと入っていた。羨ましすぎるが、それを言葉に出すと篠川が調子に乗りそうなので黙っておく。そのとき、篠川の隣に居る咲宮が、希月を見て話しかけていた。


「お前、眠そうだな?」

「そ、そんなこと、ないですよ?」


希月が慌てて、愛想笑いをする。徹夜して宿題をしただろうことを、咲宮は見抜いたのだ。


というか俺たちはいつの間に、広報部とこんな世間話ができる関係になったんだろうか。


ふと感じた疑問を解決するため、過去を頭の中で探ってみる。しかし、それを阻害する声が、新たに聞こえてきた。


「奏寺くん、新学期からなに目立ってるのよ!」


朝の挨拶もなしに、戦闘部の城戸が走りながら俺に文句をつけてきた。城戸は夏期休暇中は実家に帰っていたため、会うのは久しぶりだ。



だが確かに城戸の言うとおりだ。ただでさえ情報部という危うい立場にいるのに、第三高校生と仲良くするのは悪目立ちしすぎたか。


彼女の言葉はまだ続く。


「守衛部と仲良くしだしたと思ったら、今度は第三高校の生徒と友達になったの?」

「いや、広報部と仲良くなったわけでは…」

「というか、校門の前で敵の学校の生徒と世間話なんて…前代未聞だから!」


俺は慌ててあたりを見渡す。第一高校の生徒たちは、不審な目でこちらを見ている。よく見ると、その集団のなかに香藤部長と白池先輩の姿があった。


あ、白池先輩は楽しそうな笑顔でこっちを見てる。けど、香藤部長の顔が、怖い。



俺は青ざめた顔のまま、広報部の二人を見る。彼らはこの状況を楽しんでいるのか、いい笑顔をしていた。もちろん、咲宮は無表情に限りなく近いが。




その時、俺は一瞬、何かを思い出した。


だが、すぐにその記憶は飛んでいってしまった。



はて、なんだ?


広報部の制服の青いラインを見ていたら、記憶のどこかで、何かが引っかかった気がするが…。





しかし、そんなことを気にしている場合ではない。


とにかく、俺はこの場を上手く切り抜けなければ…!

ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。

これにて二章は終了となります。

最終章となる三章は、本日(7月23日)より十日以内には投稿し始める予定です。

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