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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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晃城の願い

どんなにキーボードを打っても、画面のエラーの文字が消えることはなく、操作すら一切できない。一島和飛はヒステリックになりながらディスプレイをたたいていたが、悔しそうにその手を止めた。


「奏寺、いったい何が起こったの?」


一島和飛がおとなしくなったのを確認してから、希月は俺に聞いてきた。


「情報部だからな。情報関係が相手なら、お手のものってこと」


答えになっていなかったが、希月は察してくれたらしく追求はしてこなかった。咲宮も特に言及はしなかった。



それにしても、香藤先輩はさすがだな。

地下一階に着いて電波が届いたため、俺は香藤先輩にメールを送った。そしたらすぐに一島和飛のパソコンにクラッキングして、操作を乗っ取るとは…。


恐らく、今は監視カメラの動画などを消しているところだろう。


「ふぅ、やっと帰れたか」


俺たちが一息ついていると、地下高校の入り口から聞き覚えのある声がした。その声に向かって、俺はクレームをつける。


「遅いぞ、篠川」

「早いほうっしょ。探すのめちゃくちゃ大変だったんですけど」


階段を下ってきた篠川に、一同が目を向けた。そして、やがてもう一人の人間が視界に入る。咲宮があきれた声で篠川に話しかけた。


「おい、パシリ。お前まさか人探しを頼まれていたのか?」

「パシリじゃねーって。まあ、うん。そこの奏寺くんに頼まれて、ちょっと」


篠川に続いて、オレンジの髪の少女が地下高校に現れた。


「…え、君はもしかして」


希月が驚きの声を上げた。オレンジの髪の少女はそんな希月を無言で睨む。

俺はその少女に声をかけた。


「久しぶりだな『春城(しゅんじょう)(あきら)』」

「そうね。で、何の用よ。こっちは時間が無いのよ」


その時、咲宮が笑いを交えて呟いた。


「なるほどな。そういうことか」


春城は怪訝そうな顔で咲宮を見た。俺は校長室から持ってきた古代宝を、春城に渡す。


「お前が探していたのは、これだろう?」

「……………え?」


春城は目を見開き、古代宝を受け取った。そして古代宝に書かれた名前を見て─────涙を流した。

一同は驚き、一島和飛も驚いて隠し部屋から顔を出す。

しばらくして、希月が「そっか」と呟いた。


「『晃城冬地』と『春城晃』か。春城さんの名前を逆にすると『晃城』になるんだ!つまり、君の…春城晃と言うのは偽名?」


希月の優しい問いかけに、春城は涙ながらに頷いた。


「うん。ごめんなさい。私の名前は晃城(こうじょう)(はる)。祖父の遺言で、どうしてもこの日記を回収したくて…」



その後、春城…いや、晃城春は全てを語ってくれた。



夏休みによりこの土地から実家に帰省する、生徒を迎えにくる船に潜り込んだこと。


かつて敗北した生徒会長の一族がこの島に行ることがバレると危険であるため、偽名を使ったこと。


地下高校の場所が分からないため、各学校の生徒会長に晃城冬地に似た名前で、助けを求めたこと。


そして相手にされず、この土地をさまよっていたこと。


「祖父は、後悔してたのよ。この土地の秘密を暴露するような日記を置いてきてしまったことを」


涙を拭いて、いつもの表情に戻った晃城春は、溜め息をついた。


「でもね、私の祖父には双子の弟がいたの。

しかも当時からこの土地に居たらしいんだけど」


その言葉で一島和飛の表情が固くなる。それに気付いていない晃城春は、そのまま話を進めた。


「なんでその弟に頼まなかったの?って聞いたら『これ以上の迷惑はかけられない』だって。自分を守ったせいで、その人の立場も危ういとかなんとかで。なんか可哀想だった」

「ああ」


なるほどな。それで俺が悩んでいた時にあんなことを。


「だから晃城春は、俺が情報部にいる理由について答えられなかった時に『人がそこに居るのは、自分自身がそこに居たいからでしょ』って言ったのか」

「春って呼んで。何でフルネームなのよ。…そう。だって、間違ってはいないでしょ?」


春はにやりと、あの日見せた笑顔を俺に向けた。その後、思い出したかのように篠川を見る。


「だから、あなたの考えは間違っているってこと、おわかり?」

「うん。わかってるよ?だってあれは奏寺くんを追い込む為のでっち上げだし」


篠川が得意げな顔をすると、春の表情に怒りが溢れ出す。俺と希月は心の底から、何ともいえない感情を吐き出すかのように、深い溜め息をついた。

春は悔しさを隠しきれず、苛立たしそうに古代宝を強く抱きしめた。


「っていうか、なんなのよこの土地って!話には聞いていたけど、なんか馴染めない」

「…まあ、そうだろうね」


希月が曖昧な返事をする。


確かに俺も初めてこの土地に来たときは、この独特な雰囲気やしきたりにすぐには慣れなかった。だが数ヶ月もすると、自分でも驚くほどこの生活が当たり前になる。情報部とかいう怪しい部活に入っているという、変な違和感や緊張感も、今では全くない。


春はここに来てまだ数週間。ここの生徒としてではなく、いわゆる不法に侵入したのだから、慣れるわけがない。


その春はまだ不満をあげていた。


「だいたい、何で学校の周りに湖が!?しかも橋は簡易的だし」

「…俺のせいなんだよ」


ここにきて、やっと一島和飛が口を開いた。


「俺が古代宝の噂を流すと、決まって橋を壊される。恐らくどこかの高校の生徒会長の仕業だろうが」


そういえば霧丘が、過去にも橋が落とされたことがあると言っていたな。元凶はコイツで、犯人はどこかの会長かよ。


まあ、叔父さんは行動力は無いから、絶対に犯人では無いだろうが。逆に怪しいのは、古代宝探しにやたら積極的だった…。


「第三高校の生徒会長なら、やりかねないんじゃないか?」


俺が篠川と咲宮に向かって聞く。篠川は笑って「そうかもね!」と答え、咲宮は「否定はできない」と真顔で答えていた。



やや穏やかになった空気に、一人乗り切れていない一島和飛は、春に向かって話しかけた。


「君のお祖父さんは、これを回収してほしいといったのか?」

「そうよ。…祖父はずっと心の中で後悔していたみたい。この土地で頑張っている生徒会長たちの秘密が、これによってバレてしまったら、って」

「…」


一島和飛は春から目を逸らし、床を見つめた。一島和飛が古代宝を悪用しようとしたことを知らない春は、言葉を続ける。


「でも、本当によかった。これがまだここにあるってことは、バレていないのよね」

「そうだよ」


一島和飛は弱々しい声で春に返答をした。それを聞いて無邪気に微笑む春を見て、一島和飛はとうとう、笑い出した。


「あっはっはっは!…もう、俺の負けだよ」

「え?」

「あ?」


インターネットのくだりを知らない春と篠川が、いきなり負けを宣言した一島和飛を不審な目で見た。

事情を知っている俺たち三人は、よかったと心の中で安堵する。だが、咲宮だけはそれで良しとはしない。


「お前、日記の筆者の考えだけで計画をやめるような、その程度の意思でこんな騒動起こしたのか?」


咲宮の突き刺さるような声は、一島和飛を少しだけ怯ませた。


「ま、まあね。確かに心残りはちょっとあるけど」


おいおい。

まあ、監視カメラの動画も古代宝のスキャンをした画像も、香藤先輩が消してくれただろうから、もう何もできないだろうが。


俺が心の中で少し呆れていると、一島和飛は咲宮に向かって、悲しそうな笑みを向けた。


「遺言に残すまで、この日記を気にしていたと知ったら、さすがにね。それに…俺も生徒会長として、この秘密がどれだけ重いものなのか、改めてわかった気がする」


この土地で体調と精神を崩し、敗者として追い出されても、守りたかったこの土地の秘密。

生徒会長達が背負わされた責任の重さを、一島和飛は思い出したのだろう。


そんな深く重い雰囲気を壊したのは、春だった。


「あなた、生徒会長だったの?!」


失礼な発言をした春を見て、一島和飛は苦笑いをしていた。だんだん可哀想に思えてきたのか、希月がさりげなくフォローを入れる。


「い、一島さんはこの土地の生徒会長のなかでは、若いほうですもんね?」

「う、うん」


困惑する一島和飛は、苦笑いを止めない。


今、一島和飛はどんな気持ちなのだろう…。








こうして、古代宝まみれの俺たちの夏休みは幕を閉じた。


その余韻を感じる間もなく、新学期の幕が上がる。

次の話が二章ラストの話になります。

できるだけ、明日には投稿できるよう頑張ります。

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