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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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利用された者たち

俺と希月と咲宮は、机の上に開かれた古代宝を囲んだ。

希月がページをめくり、やっとの思いで俺たちは古代宝の中を拝む。


書籍の中には、褒められない程度に雑な字で、ぎっしりと文章が書かれていた。俺たち三人は、じっくりと目を通す。


「…」

「…」

「…」


一日に一ページ、その日あったことが晃城冬地の目線で書かれている。三ページ目、つまり三日分を読み終わったところで、咲宮が低い声で呟いた。


「つまらん」


俺と希月は苦笑いでそれに応える。確かに、本当につまらない。本当にただの日記だ。


例えば、親しい人や親類の日記ならば楽しく読めただろう。だが顔も知らない、本日初めて足を踏み入れた高校の生徒会長の日常生活の日記など、面白くない。


「希月、最後のほう。最後あたりを見よう」

「だね。えっと…」


ぱらぱら、と軽やかにページがめくられていく。ちらりと見える日付を目で追う限り、時が過ぎることに日記を毎日書くのは止めたらしい。日が数週間飛ぶことが多くなった。


ページが残り十分の一ほどになったところで、希月は手を止めた。俺たちは開かれたページを見るため、再び覗き込む。


先ほどまで退屈だった日記は、一変。内容は緊迫感に満ち溢れていた。


「『今月も五名ほどの生徒が体調不良で退学』だと…?」

「こっちには『さらに十名の生徒が、精神的にふさぎ込んだ』って書いてある…」


咲宮と希月が困惑した表情で、日記の文章を読み上げた。俺は二人が読み上げた場所より、だいぶ後の文を読み上げる。


「『僕自身も頭痛が酷い。だが、僕より症状の悪い生徒ばかりだ。ついに健康な者が、全生徒の半分を切った』…」


三人に沈黙が流れた。


焦り、困惑、絶望…筆者である晃城冬地の気持ちが、嫌でも伝わってくる。


なぜ、生徒達はこんなにも苦しむのか?なぜ、こんなに病人が後を絶えないのか。


そして。


なぜ、自分もこんなに辛いのか?




俺は静かに目を閉じた。


「当たり前だろ…」


俺は吐き捨てるように呟き、目を開き、さらに言葉を続けた。


「こんな日の光も当たらない、圧倒される空間にずっといれば、体の一つや二つ、壊れるだろ」

「なんで晃城冬地はそれに気付かなかったんだろう?」


希月も独り言を呟く。咲宮は日記を睨むように見つめていた。


再び沈黙が流れる。それを破ったのは意外な人物だった。


「『慣れ』だよ。この地下に慣れたと思っていたが、みんな無意識に苦痛を感じていたんだ」


現れたのは、湖上高校の生徒会長の一島和飛だった。今の彼には、入り口で会ったときのふざけた雰囲気はない。そして彼もまた、真剣な眼差しを日記に向けていた。


「当時、湖上高校と地下高校の生徒会長は、血のつながった双子が勤めていた。その湖上高校の生徒会長は、俺の祖父にあたる」


いきなり昔の話を始める一島和飛を、止める者は居なかった。


「どんどん弱っていく双子の兄を、弟にあたる俺の祖父は心配していた。だから、地下高校ごと滅ぼし、兄を助けたんだ。その日記にも、そのことが記されている」


俺は確認のため、口を挟む。


「…その双子の兄と言うのが、晃城冬地か」

「そうだ。袋のネズミだった地下高校は敗北。晃城冬地は晴れてこの土地から解放された」


一島和飛は、苦い顔をしていったん口を休めた。彼の表情からして、ここからが話の核心なのだろう。

予想通り、一島和飛の顔は怒りに満ち溢れ始める。


「なのに!他の高校の奴らは、湖上高校を非難した。あろうことか、各高校の生徒会長達までもが!」

「…」

「己の兄を救いたかっただけなのに!…その非難による攻撃を受けないため、祖父は湖上高校への橋を一つと定めた」


湖上高校が隔離されていたのは、そのような理由のためだったのか。


人の為と起こした所業を否定され、逃れるように己を守った。湖上高校も、昔は平和主義なんて言えない学校であった、と。


「だから、ですか?」


希月が真剣な表情で、一島和飛に問いかけた。


「だからですか?古代宝を探させたのは…地下高校との件を公にして、自分の祖父の非難を返上させるため、なんですか?」


一島和飛は、何かを企んだような顔で、深く頷いた。その後、まるで演説をするかのように、堂々とした声で話し出す。


「苦難に耐える兄を助けたのに、何の手も差し伸べない奴らに非情だと言われた祖父。…祖父の無念を晴らすため、俺は古代宝の存在を、皆が興味を持つような形で噂にしたのさ」


偉そうな一島和飛の態度に、咲宮が反応した。咲宮は憎しみを込めたような、苛立ちを隠さない態度をとる。


「つまり、俺たちを利用していたのか。…いい度胸してるな、この弱虫人間」


うわっ。


口が悪いのは篠川だけだと思っていたが、咲宮もなかなか…。



咲宮が暴力に走る前に、希月が慌てて話題をねじ込んだ。


「そ、それより!古代宝が世間に露見したら、確かにあなたの祖父の無念は晴らされるかもしれない。ですけど!それはだめでしょう?」


希月の言葉を引き継ぎ、今度は俺が話を進める。


「この土地の生徒会長の秘密も、同時にバレることになるんだぞ?」

「そんなの構わない」


俺が全てを話し終える前に、やや食い気味に一島和飛が断言した。


咲宮の苛立ちはおさまっていないのか、まだ目つきがやや悪い。一島和飛の気持ちも分からなくはないが、叔父さんの為にもこの土地の秘密は守りたい。


だが─────。


「なあ希月、さすがに生徒会長と戦うっていうのはまずいよな?」


小さい声で俺は希月に確認した。希月は小さく頷いた後、俺と同じ音量で答える。


「かなりまずい。他校への侵略の際、生徒会長が卑怯な手で狙われないために、様々なルールで守られてるから。それを破っちゃったら退学ものだよ」


恐らく一島和飛も、それを十分に理解しているからここにひとりで居られるのだろう。


それにしても、一島和飛の作戦には欠陥がある。


「おい、一島和飛。俺たちはこの古代宝を世間に発表する気はない。な?」


俺は希月と咲宮を見た。


希月は「当たり前」と呟く。咲宮も無言で頷いてくれた。


というか、咲宮は今起こったやり取りで、この土地の秘密を知ったはずだ。それなのに状況を理解し、冷戦な判断が出来るのは凄い。



しかし俺たちの固い意志を、一島和飛は軽く笑った。


「証拠は揃ったから、もういいんだ」

「…証拠?」


希月が思わず聞き返す。すると一島和飛は、校長室の部屋の角を指差した。そこには、監視カメラがあった。


しまった。

本当にしまった。


俺は舌打ちをする。監視カメラを避けるのは専門分野でもあったのに、油断した。



悔しそうな俺をみた一島和飛は、嬉しそうに笑った。


「悔しそうだねぇ?そりゃそうだ。『第一高校生と第三高校生が古代宝を発見』こう名を打ち、世間に流せば誰もが古代宝の内容を知りたがる」

「だけど、そんなことしたら古代宝を破り捨てますよ?」

「残念。古代宝の全ページはスキャナーでスキャンしてある。君たちの監視カメラの映像と共に───インターネットに、今から流すから」


意外に用意周到な一島和飛は、校長室から全速力で出て行った。



って、インターネット?

この土地ってそういう類のものは遮断されているのでは?

…あ、この土地専用のとかあってもおかしくはないか…。



俺たち三人も、急いで一島和飛を追いかけるが、距離は開く一方だった。さすがは成人男性、と言ったところか。

足に痛みを感じた頃には、地下一階にまで着いていた。だいぶ先にいる一島和飛は、俺たちが彼と初めて会った、地下高校の入り口の前で止まる。そして次の瞬間、彼は壁を蹴り始めた。


「えいっ!えいっ!」


コンクリートの壁を蹴るって何がしたいんだよ…、と呆れたとき、壁が機械的な動きで横にスライドした。


「…は!?」


希月が驚き、走りながら叫んだ。

スライドした壁の向こうには、小さな部屋が見える。どうやら、隠し部屋のようだ。


咲宮は吐き捨てるように、不快な感情を隠さずに呟いた。


「あそこが監視カメラのモニタールームか。…ふざけやがって」


咲宮の言うとおり、テレビのような映像を映すディスプレイがここからも見えた。俺は慌てて携帯電話を開く。


驚くことに、地下一階には電波が届いていた。携帯電話の画面にも、アンテナが多く表示されている。

つまり、ここではインターネットも使える。あそこの隠し部屋から、インターネットに監視カメラの映像をアップロードする事が可能と言うことか。



それなら…。


俺は携帯電話をいじりながら、希月達の後を追った。



何とか俺たちは、一島和飛のいる隠し部屋の目の前にまで着いた。


隠し部屋の中は狭く、歩ける場所は畳三畳ほどしかない。この部屋のど真ん中に設置された椅子には、一島和飛が堂々と座っており、その目の前には一つの大きなテレビ型のディスプレイがあった。

そのディスプレイの画面には、古代宝を覗き込む俺たちの動画が流れている。やはり、これは監視カメラの映像らしい。


一島和飛はディスプレイの前の椅子に座り、手元のノートパソコンをいじっている。


咲宮は手にボールを持ち、ディスプレイに向かって投げた。希月も折れた竹刀を投げる。もちろん、生徒会長である一島和飛に当てないように。

…本当は全力でぶつけたいのだろうが。特に咲宮は。


ボールと竹刀は、ほぼ一直線にディスプレイに向かって飛んでいった。しかし、ディスプレイにたどり着く前に、急に落下してしまう。


「…え?」


驚いた希月と咲宮が、急いで隠し部屋のなかに入ろうと駆け込んだ。しかし、隠し部屋の敷地と俺たちがいる廊下の間に、透明の壁があった。透明の壁はすっぽりと隠し部屋の入り口を覆っているらしく、部屋に入ることができない。


「ボールと竹刀はこれにぶつかったのか!」

「なぜこんな変な仕掛けを…」


希月と咲宮が、透明の壁に怒涛の蹴りと殴りを入れる。だが、壁はびくともしない。


俺は右手で携帯電話を持っていたため、左手で電気スイッチを押す。すると、地下高校の明かりが一瞬で消えた。しかし…。


「これもだめか…」


一島和飛の居る隠し部屋は、別電源になっているらしい。地下高校が暗闇に包まれても、隠し部屋だけは光っていた。


勝利を確信した一島和飛が、パソコンの画面を俺たちに見せ、満面の笑みを見せる。


「このパソコンに監視カメラの映像を移した。後はもう、簡単な操作で終了だ」

「くっ…!」


希月と咲宮は諦めずに透明の壁に攻撃し続けた。それを見た一島和飛の笑い声が聞こえてくる。


その時、俺の右手にある携帯電話が動いた。


「さて…そろそろ始めるかな」


一島和飛はわざとこちらにパソコンの画面が見えるようにして、作業を開始した。


「性格悪いなあ!もう!」


苛立った希月が言葉を漏らす。希月がこんなに声を荒げるのは、珍しい。


「なんとでも言えって」


余裕しゃくしゃくな一島和飛を、希月と咲宮は透明の壁の向こうで睨んでいた。そして俺は、携帯電話の画面を確認した後、二人にだけ聞こえる声で言った。




「大丈夫だ」



「…え?」

「何だと?」


少ししてから、希月と咲宮が俺の方を振り返った。


しかし、俺が言った言葉の理由を説明する前に、隠し部屋から一島和飛の悲鳴が聞こえてきた。


「なんだ?!これは!」


再び希月と咲宮の視線は、一島和飛の元に戻る。俺も、それに続く。



パソコンの前でパニックを起こす一島和飛。


だが、俺たちの目が捉えたのは、パソコンの画面を埋め尽くす『エラー』の文字だった。

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