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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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笑う咲宮

「…うわぁ」


静まり返った地下四階に辿り着いた俺は、一瞬目を疑う。


俺がここにいたときは、あの重いボールが廊下に大量に転がっており、そこで希月と咲宮が戦っていた。そして職員室のドアのガラスが、一枚だけ割れているくらいの景色だった。


しかし、今は。

大量のボールが転がっているのは変わりないが、コンクリートの廊下の壁は所々にひびが割れていた。割れてしまったドアのガラス以外のガラスにも亀裂が入っている。さらには、信じがたい物を発見してしまった。


俺は床に落ちている、その信じがたい物をよく見るためにしゃがみこむ。そしてそれを拾い上げた。


「この重いボール…壊れてる」


壊れていくつかに別れてしまったボールは、廊下のど真ん中にあった。俺はそれをそのままにしておく。


俺たちの戦闘でも、散々地下高校を荒らし回ったが、こいつらもなかなか…。



ところで、希月たちはどこに行ったのだろうか?



未だに音がしない地下四階の廊下を、ゆっくりと進む。実は二人ともどこかに潜んでいて、俺の足音を相手の足音と間違えて攻撃してくる…なんてことはないだろう。多分。


俺はふらりと職員室をのぞき込むが、そこに人はいない。

次に生徒会室に行くが、やはり誰もいない。


残るは最奥の校長室。

恐る恐る取っ手に手をかけると、中から叫び声のような、希月の大きい声が聞こえた。何を言っているのかははっきり聞こえないが、ぞっとした。



まさか咲宮に負けた?


咲宮の投げたボールが頭に命中したか?


それとも布の手錠をされて、ボールで殴られたか?



俺は慌ててドアを開けた。


「あ、奏寺。遅かったね」


希月は驚くこともなく、こちらを振り返った。その隣には咲宮もいる。そして希月の手には、古い書籍が握られていた。


そしてなにより、この二人の雰囲気は穏やかだった。廊下にはあんなに傷があるのに、この二人はぱっと見たところ、かすり傷一つ無い。


これは、どういうことなのだろう。


「訳が分からない…という顔をしているな、情報部」

「あ、へ?」


咲宮が低い声で、少しだけ口角を上げて俺に話しかけてきた。


「そ、そうだな。えーと、希月?何でこんな穏やかな雰囲気なんだよ?」


希月はにこりと笑うと、廊下の方を指差した。


「廊下、見たよね?あの跡の通り、おれたちは途中まではお互いの得意な戦法で戦ったんだ。

投げられたボールを竹刀で叩いて弾き、そして振りかざされた竹刀を避け、ボールを投げて、と。

だけど、お互いに終わる気がしなかったんだ。だから、ちょっと戦法を変えた」


俺はもう一度、あの痛々しい廊下に目をやった。


終わる気がしなかった、か。俺にはその感覚は分からないが。というか、むしろあの廊下からして、死人が出そうだとしか思えないのだが。


「で?戦法を変えたって、何で戦ったんだ?」

「一本勝負って言うのかな?」


俺の問いに、希月は問いで返してきた。突っ込もうかとも思ったが、希月の顔が咲宮の方へ向いたため、咲宮への問いだと悟る。


「さあな、俺も正式名称は知らない」


咲宮が壁に寄りかかりながら、腕を組んで答えた。希月は「あれだよ」と言いながら、俺に説明を始める。


「相手と睨み合い、何かの合図とともに武器と共に動き、一瞬で一発の攻撃を加えるやつ」

「ああ…。あの映画とかでよくあるやつか。その攻撃とやらが終わって、しばらくの間が空いた後、負けた方が崩れ落ちるという…」

「そうそう、それそれ!」


希月は嬉しそうに、生き生きと説明を続けた。


「奏寺が途中、校舎の電気を消したよね?そこで、明かりがついた時を攻撃の合図にしようってことになって」


篠川に対する逆転の作戦が、合図に使われているとは。…まあ、いいか。

俺は納得して頷いたが、途中で動きをぴたりと止めた。


「ちょっと待て。希月は竹刀を使っただろ?咲宮は何の武器を?」

「咲宮さんはもちろんボールを」

「そんなんで決着つくのかよ?」


希月は苦笑いすると、机の下に手を伸ばす。そこに竹刀を置いていたらしく、手に持った竹刀を俺に見せてくれた。

その竹刀の姿を見て、俺は一瞬目を疑った。


「竹刀が、折れてる…」


二つに別れた竹刀を、希月は少し寂しそうな目で見つめている。


「そう。一本勝負でお互いの攻撃が、見事に相手の武器に直撃してね。竹刀は折れて、ボールは壊れたんだ」


俺は廊下に落ちていた、壊れたボールを思い出す。


そうか。あれが一本勝負に使われたボールだったのか。


「というか竹刀は良いとして、ボールでどう一本勝負したんだよ?」


やはりボールで殴りつける形なのか?疑問に感じ咲宮に聞いてみる。


「投げた。かなり近距離だったが、こいつは構わないと言ったからな」


希月と咲宮が合図と共に距離を詰め、片方は竹刀を振るい、一方は近くからボールを投げつける。その結果、二つの武器は壊れた、か。



例えば希月の持つ武器が日本刀で、咲宮のボールが…そうだな、ちょっと変わりすぎるが弓矢だったのならば、格好いい絵が出来ただろう。

竹刀は良いとして、ボールとなると…なんだかなあ。



自然とため息が出てしまう。


「と、言うことで、おれたちの勝負は引き分け。だけど奏寺が勝ったから、まあ、第一高校組の勝利ってことで」


希月が嬉しそうに言った。咲宮も異論は無いのか、表情に曇りは見えない。


「…ちょっと待て。何で俺が篠川に勝ったのを知ってるんだよ?」

「…俺とこいつの勝負が引き分けとなった瞬間、こいつは情報部のところに向かい、全力で走っていったからな」


意外なことに、咲宮が説明をした。希月もそれに驚いていたが、すぐに元に戻る。


「だって奏寺が十分しか保たないっていうからさ。…って言っても、おれが地下二階の所に来たときには、もう篠川が負けを認めてたけど」

「だから先に校長室で探し物をしてたのか」


俺はやっとこの状況を理解した。そのため、改めて希月が持つ書物に目を向けた。


希月が大切そうに持っているため、恐らくこれが古代宝なのだろう。


「おい、情報部。史也はどうした?」

「史也…ああ、篠川のことか」


古代宝に集中し始める前に、咲宮が声を低くして聞いてきた。顔も少し険しくなっているところを見ると、彼なりに篠川の心配しているのだろう。


俺は咲宮の方を向き、天井を指差した。


「ちょっとした『おつかい』を頼んでいてね」


悪戯っぽい、悪い笑顔を俺は浮かべる。それを聞いた咲宮は、意外にも声を上げて笑った。


「ははっ!史也をパシリにするとは。さすが情報部だな」

「パシ…いや、おつかいだって」


俺は溜め息をつく。そして希月の方を向いた。俺の視線が書物に向いていることに気付いた希月が、小さく頷いた。


「奏寺、この書物の著者は『晃城冬地』。これが、古代宝だよ」

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