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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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鬼ごっこ

希月は竹刀で二人の攻撃を受け止めていた。


「木刀くん…じゃなくて今日は竹刀くんだっけ。意外と強くね?」


篠川は素手で戦闘を行い、その後ろから咲宮があの謎のボールを投げつけていた。


各学校への攻め込みの戦闘とは違い、この戦闘には規定や暗黙の了解がない。そのせいか、ものすごく無茶苦茶な戦闘が俺の前で行われている。なんというかドラマよりアニメに近い戦闘だ。


希月は篠川の前衛の攻撃と、咲宮の後衛の攻撃を全て防いでいた。時が経つと慣れてきたのか、篠川に竹刀で叩きつけたりと自らの攻撃をする余裕も出来ていた。


これなら、希月の勝ちも時間の問題か。


そう思ったとき、篠川がいきなり不吉な笑い方をした。


「はははっ。竹刀くんは戦闘においては凄いね!第三高校の広報部二人相手に、こんなにできるなんて」

「無駄口叩いてる暇、あるんですか?」

「無駄じゃないって。それにこんなに強いなら、竹刀くんにはそれなりの信念があるのかな?」


希月はそれには答えず、竹刀を下から斜めに勢い良く振り上げたが、篠川はそれを軽く避ける。希月が竹刀を振り切った直後に咲宮がボールを投げてきたが、希月はすぐに竹刀を振り下ろし、ボールを床に叩きつけた。

それを見た篠川が口笛を鳴らす。


「素早いねー。さっすがは正義の味方ってやつ?悪い広報部は倒さなきゃね」

「…別に、倒そうとは思ってません」


冷静に希月がそう答えるが、篠川はマイペースにしゃべり続けていた。


「でもさ、広報部が悪い奴なら、情報部も君にとっては悪い奴なんじゃない?」

「情報部は悪い奴ではありませんから」

「本当にそう思ってんの?君の性格からして、情報部とか嫌いそうなのに」


篠川の話が進むにつれ、希月の顔に怒りが見え始める。それにいち早く気付いた俺は、希月に向かって急いで叫んだ。


「希月!篠川の話術に乗るな!」

「…そっか。言葉で攻撃するのが、この人の得意技だっけ」


希月が小さい声で呟く。しかし急に心を完璧に戻すことはできず、動きが悪くなっているのが俺でもわかった。

その隙を突かれ、篠川と咲宮は一気に希月と距離を詰めて同時に殴りかかった。希月はなんとか地面を強く蹴り回避をするも、咲宮の拳が肩に少し当たる。体勢は崩されず、倒れ込むことは無かったものの、希月は苦い顔をして肩をおさえていた。


ここまでずっと無表情を貫いてきた咲宮が、少しだけ笑う。


「動揺に弱いな」

「…!」


悔しそうな顔で希月が咲宮を睨む。そして竹刀を強く握り締めて、咲宮に走り込んでいった。それを見た篠川は、不適な穏やかな笑みをこぼす。


「安定を崩した竹刀くんは自滅コースだね。さーてと、次は…」


篠川はゆっくりとこちらに顔を向け、やがて俺と目があった。その後、こちらに近付いてくる。


「さて、戦闘慣れしてない情報部の奏寺くんなら、俺一人でも倒せるな」

「お、おい。ちょっと待てって」


俺は篠川と距離をとるため、後退していく。その姿を見て、篠川は顔を横に振った。


俺の顔が青ざめていく。


俺が危機を感じたとき、篠川に向かって竹刀が飛んできた。篠川はそれを驚いた顔で避けて、飛んできた方向を見る。

その目線の先には、真剣な顔をした希月がいた。


「奏寺に攻撃する事は許しません。それが、守衛部の役目ですから」


希月が強い口調で言い切った。


「…守衛部?完全な戦闘系の部活じゃないのか…」


篠川がぶつぶつと呟きながら、下を向く。そして数秒後に、顔を上げた。


「なるほど、生徒を守るために戦術を身につける部活ってとこ?だから非戦闘員の奏寺くんを守るってわけか。…なかなかカッコいいこと言うじゃん、竹刀くん」


希月は黙って竹刀を走って取りに来た。そして、俺の方を向く。


「ってことで奏寺は校長室あたりに避難してて」


校長室あたり。つまり古代宝を探せと言っているのだろう。



だが、篠川の言葉であそこまで動揺する希月を放っておくのは、少々後ろめたい。

俺は、俺に背を向けた希月に、ものすごく小さな声で話しかけた。


「希月、十分だ」

「へ…?」

「そのくらいなら、篠川だけなら俺だけでなんとかできる。そのあいだに咲宮を拘束してくれ」


希月が動揺しているのが、後ろ姿だけでも分かる。どう答えていいのかわからない、と言うところか。


「もちろん、俺には逃げ回ることしか出来ないだろう。だから十分以内に咲宮を片付けて、俺を助けてくれ」

「でも………。いや、それがいいかな。でも、怪我はしないように」

「わかった」


希月は何もなかったように、咲宮に向かって竹刀で叩きかける。その隙に、俺は校長室へ逃げるフリをした。


そうすれば、きっと篠川は…。


「おっと、逃げるなよ奏寺くん」


予想通り、篠川は駆け足で俺の後をつけてきた。俺は急に進路を変え、職員室に入り込む。もちろん、篠川も俺についてきた。


職員室の横に位置する廊下では、咲宮が投げるボールの音と、希月の竹刀の音が響いている。俺が廊下の方を見ていると、篠川が浅い溜め息をついた。


「咲宮の方が、純粋な戦闘技術は俺より上だからねー。ま、良い勝負になるんじゃない?あっちは」


篠川は最後の言葉を馬鹿にしたように、語尾を上げて言った。俺は少しイラッ、としたがここは耐える。それは確かな事実だし。


とりあえずここでは逃げ場がない。

そう思い俺は入ってきたドアとは違うもう一つのドアから、職員室を出た。そして廊下に出て階段を駆け上がる。


「はぁ…、せっかく君の挑発にのってあげたんだから、覚悟はしなよ?」


不吉な篠川の声が背中から聞こえくる。地下三階の廊下に辿り着いた俺は、とにかく廊下を進む。



瞬間的な速さなら、俺でも篠川に勝てるかもしれない。だが、持久力は篠川の方が遥かに上だろう。十分間ずっとただ鬼ごっこをするなんてできない。



考えを巡らせながら、俺はふと足を止めた。俺の目線の先にあるのは『調理室』。

そういえば、この先には理科室が、地下二階にも色々と特別教室があったな。


これらを上手く利用すれば、もしくは…。



深々と考えを巡らせていると、地下四階で咲宮が使っていたボールが俺の左腕に直撃した。俺は横に倒れそうな体をなんとか持ち直す。


「な…」

「このボールを扱えるのは光時だけじゃないよ」


篠川が十メートルほど離れたところから、だんだん近付いてきた。俺は左腕をおさえながら、調理室に逃げ込む。



しかし、あのボールはなんなんだ?異常なまでの腕の痛みがおさまる気がしない。走る衝撃だけで、左腕はかなり痛む。


体を休めるためにも、調理室の壁に寄りかかった。ここだと扉から入ってくる篠川と思いっきり向かい合うことになるが、まあ仕方ない。


しばらくして、あのボールを片手に持った篠川も調理室に入ってきた。どうにかして逃走手段を考えなければ…。


調理室の出入り口は俺たちが入ってきた扉と、もう一つある。素早く調理室の中を見渡すと、洗面台付テーブルが十台に、それと同じ数の電子レンジ。そして皿やコップをしまう戸棚に、まな板や包丁、鍋やフライパンの収納場所が目に入った。


包丁…。いや、だめだろ。


護身用として手にしたかったが、喧嘩に持ち込むものじゃない。というか、喧嘩ではなくても、包丁は料理以外の用途で使ってはだめだ。

とりあえず、ボールを防ぐためにフライパンでも持っておくか?


色々と考えながらも、その心情を隠すために、俺は篠川に今一番聞きたいことを聞いた。


「おい、そのボールは何なんだ?」

「え、これ?」


篠川はひょいとボールを軽く上げた。その後、天井に向かってボールを放り投げる。


「広報部の戦闘能力を補うための物だよ。扱うのには練習が必要だけど」


篠川により宙に上げられたボールは、天井のコンクリートと接触した。ボールは篠川の元に返ってくる。

しかしボールが当たった部分の天井のコンクリートは、少しだけ欠けていた。


「おい。それは凶器だろ」

「はははっ。安心しなって。俺は光時みたいにこれを巧みに使えないからさ。重いんだって、これ」


恐らく、ボールの中に何かの金属がつめられているのだろう。見た目は遊びで使うボールなだけに、たちが悪い。


俺は篠川と距離をとるために、この部屋の出口方面に移動する。もちろん、篠川も同じように移動する。そのとき、ふと俺はテーブルの下に収納された紙袋を見つけた。


「なんだ?これ…」


しゃがんでよく見てみると、紙袋には『小麦粉』と書かれていた。これは何年前のものなのか非常に気になったが、今はそんなことを考えている暇はない。

俺は小麦粉の紙袋を手に持ち、一気に調理室の出口に走った。途中でボールが飛んできたが、今度はしっかり避けれたため、そのまま廊下に飛び出す。


「ちょっと奏寺くん、その紙袋って地下高校の物でしょ?勝手に持ち出しちゃやばいんじゃない?」

「ガラスを割ったり、天井に傷つけたおまえらには言われたくないな」

「ははっ、そりゃごもっともだ」


篠川はそう言った後、今までとは比にならない速さでこちらに向かってきた。その速さに驚き、俺は近くの特別教室の扉に手をかける。しかし、その扉を開こうとしたときに『理科室』と書かれたプレートが目に入った。つまり、この扉の先は理科室なのだろう。


「…」


俺はその扉を開くのを諦め、全速力で上りの階段に向かった。


「へえ?そこに隠れるのはやめるんだ?!」


篠川は言葉を発しながら、ボールを投げてきた。それが俺の左足をかすったが、大した痛みではない。


俺は勢い良く地下二階への階段を駆け上がり、ポケットにしまってある携帯電話を見て時間を確認した。



────篠川と鬼ごっこを始めてまだ三分か。

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