他の来訪者
俺と希月は早足になり、地下二階をひたすら歩いていた。廊下を半分過ぎたところから、特別教室が増えてくる。その一つの教室を、俺は覗いてみた。
「家庭科室か…。ミシンや布はまだ残っているんだな」
「ほんと?備品として湖上高校で使っちゃえばいいのに」
俺に続いて中を見た希月は、不思議そうに教室内を見渡していた。その隣の教室は図書室になっており、やはり本はそのまま残っているようだった。
違和感を感じながらも、俺たちは階段をさらに下り、地下三階に辿り着く。ここも地下二階と同じように、特別教室がいくつかあった。
「理科室に調理室…。うーん」
通り過ぎた特別教室の名前を呟きながら、希月は少し考え込む。
「ねえ、奏寺は古代宝はどこにあると思う?」
「やっぱり、校長室じゃないか?生徒会室もあり得るが、他の生徒会員に見られる可能性もあっただろうし」
「じゃあ校長室をとにかく探そう」
辺りを見回してもそれらしい教室はなく、また移動して…を繰り返した。気が付くと、先ほど希月が言っていた足音が俺にも聞こえてくるようになった。
それを警戒してか、希月は地下高校についてから、しまっていた竹刀を手に握っていた。
「そういえば、今日は木刀じゃないんだな?」
希月がきょとんとして、自分の竹刀を見た。その後、少しだけ苦笑いをする。
「ああ。地下高校に行くのに湖上高校を経由するからね。さすがに湖上高校に木刀を持ち込むのはやばいかな、と」
「なるほどな」
「正直、使い慣れているいつもの木刀じゃないから、少し使いづらいのは確かだね」
希月と会話しているうちに、俺たちは一番下の階である、地下四階に辿り着いた。下りてきた階段の近くで、俺たちは足を止めた。
「暗いな」
地下四階の廊下の電気は消えかかっているものが多く、薄暗く見える。その頼りない灯りを頼りに、廊下に取り付けてある各教室の名前が書かれた札を読んだ。
「ここは…職員室に生徒会室、校長室もあるみたいだな」
「じゃあ、この階を探せば…」
ここから一番近くにある教室は職員室。次に生徒会室、校長室という順だ。
だが、俺たちが古代宝がある確率が一番高い校長室に向かおうとしたとき、階段の方から「ダン、ダン」という、何かが弾むような音がしてきた。
「な、なんだ?!」
「奏寺、気を付けて!」
驚いて階段の方を振り返ると、上の階から大量のボールが音をたてて落ちてきた。恐らく、数は五十を軽く越えている。大きさはテニスボールほどだが、地面に落ちて弾んだときの音が少しおかしい。なにか鈍い音もたまにするような…。
気が付くと大量のボールは、俺たちのすぐそばまで迫っていた。
「奏寺、職員室に!」
希月の叫び声と共に、俺と希月は職員室に飛び込む。勢いがよすぎて俺が転んでいた時、希月は職員室のドアを力強く閉めた。例のボールは弾みながらも廊下を通過していく。
とりあえず一安心した直後、三つくらいのボールがこの職員室のドアのガラス戸にぶつかった。
『ガシャン』という音と共に。
「は…?」
俺は思わず目を疑った。
階段の上から落ちてきて、散々弾んでスピードを落としたボールは、軽々とドアのガラス戸を割ってしまっていた。破片から逃れるため、俺と希月は職員室の奥に走り込む。途中、希月が机の上に飛び乗ったりしていた。
ボールの音がだんだん静まってくると、ずっと聞こえていた何者かの足音が大きくなってくる。
「ごめんねー。キャッチボールしてたら、咲宮がまたボールを取り損ねちゃって」
「…ふん」
聞いたことのある声と咲宮という名前に、俺たちは思わず目を合わせた。
まさか、こいつらがここまで来てしまうとは。
床に飛び散ったガラスを避けながら廊下に出ると、やはりそこにはあの二人の広報部がいた。
「咲宮に篠川か…」
嫌そうにする俺に対して、篠川は楽しそうに話しかけてきた。
「やっほやっほ、元気だった?情報部の奏寺くん」
篠川は両手をポケットに突っ込んでいた。その横にいる咲宮は、壁に寄っかかりながら腕を組み、希月を見ている。
「今日は竹刀か」
「はい」
希月は竹刀をしっかりと右手に持ち、広報部の二人を睨んでいた。
このままでは戦闘が始まるだろう。
だが、それは困る。
戦闘の訓練をしている三人と違って、俺はただの情報部だ。
「広報部、おまえらも古代宝探しているんだろ?もし、古代宝を見つけたらどうする?」
俺はとりあえずこの空気を変えようとした。この緊張状態が少しでも緩めば、と思い。
「そりゃあ『見つけたこと』をこの土地に知らせるって。それで古代宝が何だったのかは、第三高校の生徒にだけに伝える」
篠川が楽しそうに話す。
そうか。
篠川は古代宝が何なのか、第三高校に知らせようとしている。つまり、古代宝が何なのか知ろうとしている。
「古代宝の正体が気になるんですか?」
希月が驚いて篠川に質問していた。
「いや、正直どうでも良いけど。でも俺たち広報部だぜ?皆に知らせなくてどーすんの?って話」
「なるほどな」
気が付くと、俺は溜め息をついていた。
広報部は確かに俺たちの予想通り、自分たちが古代宝を見つけることを第一としていた。しかし、こいつらは広報部としての自覚を、俺たちが思っていた以上に持っていた。
これには素直に感心してしまった。
しかし広報部により第三高校の生徒に、この土地の秘密が知らされるのはまずい。しかも下手したら内容が内容なだけに、この土地中に広報される可能性も無くはない。
それだけは叔父さんのためにも避けたいが…。
俺は改めて、余裕そうな笑顔を浮かべる広報部の二人を見た。
自分が冷や汗をかくのが分かる。
「さーて、もうこれは避けられないね…」
篠川が大きく伸びをして、こちらを見てきた。咲宮も壁に寄りかかるのをやめ、地面に散らばっているボールを一つだけ蹴り上げ、手でキャッチした。それを見た希月は俺の前に立ち、竹刀を構える。
喧嘩はだめだ!
なんて言える雰囲気じゃない。言ったとしても、止まらないだろう。
こんな閉鎖された高校で戦闘をしても、問題にはできない。証拠を持って役所に駆け込めば良いかもしれないが…。
俺はちらりと希月を見て、溜め息をついた。
この守衛部、やる気だ…。
諦めたのが伝わったのか、篠川と咲宮が一斉にこちらめがけて走り込んできた。




