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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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地下高校

「よくきたね」


俺が懐中電灯で照らした先には、長髪の男子生徒がいた。腰くらいまである長い髪は、束ねられることなく自由にされている。

顔をじっくり見ようと懐中電灯の光を男子生徒の顔に当てると、彼は眩しそうな顔になった。


「ちょっと、君、なにすんの。眩しいって」

「あ、すみません」


俺はやや下に光をずらす。しかしそれでは顔がしっかり見えない。もう一度、気付かれないようにゆっくりと顔に光を近付けたところ、男子生徒が何やら手を動かした。

すると、辺りがいきなり明るくなった。眩しさに目を細めて天井を見ると、蛍光灯が光っている。


あの男子生徒が灯りをつけたのか。


この明るさに慣れてきて目に入ったのは、辺り一面の灰色のコンクリートだった。どうやらここは廊下なのか、長い通路が奥に見える。ただ、長い通路には窓など一切無く、換気扇らしき装置が天井に見受けられるだけだった。いつの間にか横に並んでいた希月もそれに驚き、周辺を見渡していた。


「灰色のコンクリートの床に壁…これは転んだら痛そうだね」

「ああ。地下だから窓が無いのも分かるが、圧迫感があるな」


どこを見ても灰色しかない。しかも冷たいコンクリートのみ。


俺と希月が建物内にばかり気を取られていると、先ほど懐中電灯の明かりで見えた男子生徒が俺たちに手を振ってきた。


「ちょっと、君たち。俺への興味はどこいったの?」

「あ、すみません」


希月が男子生徒に謝った。恐らく反射的に謝ったのだろう。申し訳無さそうな顔を全くしていない。


それでも男子生徒は満足したのか、嬉しそうに頷いた。


「うんうんよしよし。それで、君たち。君たちは俺が誰だかわかるかい?」

「…」


俺は考え込む。


…フリをした。正直言って、考えるまでもない。


「湖上高校の生徒会長の『一島和飛(いちしまかずひ)』だろ?」

「な、なんで分かったの?て言うか、なんで呼び捨て?」

「さあな」


地下に入れるのは生徒会長だけだと、霧丘が言っていたからな。


「というか、おれたちが来るのを暗闇の中でずっと待っていたんですか?」


希月が呆れながら一島和飛に質問をしていた。一島和飛は堂々と頷く。


「ああ!地下の電気のスイッチを持ちながらね!」


そう、それが問題だ。


こいつ…俺たちを待ち伏せていやがったってことか。



俺が一島和飛を警戒し始めると、それが一島和飛にも伝わったらしい。一島和飛は腰に手を当てて溜め息をついた。


「やれやれ。…ところで君たちはあれでしょ。霧丘のご友人でしょ」

「…霧丘?」


希月は霧丘を守るため、知らないフリをする。しかし、一島和飛は意外な答えをした。


「いいのいいの。霧丘は君たちをここに案内するだろうと思ったから。うん。作戦通り」

「…」


これは、演技だろうか?

嘘を言って、本当のことを言わせる気なのだろうか?


俺が疑っていると、今度は希月が一島和飛に質問をした。


「霧丘という人物は分かりませんが…あなたはここで、何をしたいんですか?」

「君たちを捕まえる、なんて言わないよ。君たちは俺が招待したようなものだからね」

「…へ?」


一島和飛はにやりと笑うと、持っていた電気のスイッチを俺に手渡してきた。


「古代宝探しだろう?待っていたんだよ、古代宝を持ち出してくれる部外者をね!一番乗りした君たちにはご褒美として、ここの電気スイッチをあげよう」

「ちょっと待て!あんた、いったい…」

「安心したまえよ。霧丘に被害はでない。むしろ、君たちを案内してくれたこと、心から感謝しているからね」


一島和飛はそういうと、俺たちが下ってきた階段の方に移動し始めた。


「逃げる気ですか?」


希月が少し怒った口調で、一島和飛に叫びかける。あたりまえだ。あれだけ意味の分からないことを言われて、逃がすわけにはいかない。


その時、俺は自分の手の中にあるものの存在に気付いた。


「えいっ」


黒い無愛想な電気スイッチの、円いボタンを押してみた。すると、辺りは一気に暗くなる。


「ひゃっ!暗いっ」


暗闇の向こうから、一島和飛の小さな悲鳴が聞こえてきた。その声がした直後に、隣にいた希月が走り出したのが分かった。しばらくすると、一島和飛の声が響く。


「痛い痛い痛い痛い!暗いし!電気スイッチの使い道悪いよ君たち!」


俺はもう一度、ボタンを押した。そうすると辺りの電気が一気につく。明るくなったため一島和飛の方を見ると、希月に腕を掴まれていた。希月が強い口調になる。


「変な説明だけして、どこに行く気だったんですか」

「ちょ、ちょっと待って、なんか間違ってるよ君たち!俺はまた、ここで来訪者を待っていようとしただけだって」


焦りながら、一島和飛は腕を振り回す。希月の方が明らかに力は強いはずだが、意外と一島和飛の抵抗は激しい。見た目からして、恐らく彼は大学を卒業したくらいの年齢の生徒会長なのだろう。

その若さで義務を負うことにやや同情してしまったが、今はそれどころではない。


「古代宝を見つけたら、君たちの質問に答えるから!」


一島和飛は疲れたのか、肩で息をしながら希月を説得していた。それを聞いた希月は彼の腕を離し、俺の方を向いた。


「奏寺、行こうか」

「ああ。だか、大分時間を無駄にしてしまったな」

「だね」


希月まで毒づくのは珍しいな。

そう思いながら長い廊下を歩き始めると、後ろから一島和飛の叫び声が聞こえてきた。


「ちょ…、君たち、ひどくない?!口悪いよ!」


彼の非難を無視して、俺たちは廊下を進む。

その時、左側の壁に美しい明朝体で『地下高校 入り口』と彫られていることに気付いた。


「希月、これ…」


希月を呼び、壁を見せる。そこに彫られた字を読むと、希月は真剣な顔に変わった。



本当にここは例の地下高校なんだ。


俺も気を引き締めて、再び歩き出す。





ここの校舎内は、コンクリートで出来ていることと、窓が無いこと以外は、普通の学校と構造は変わらなかった。生徒が勉強する教室には木製の机もあれば、黒板もある。

それでも違和感が拭えないのは、やはりこのコンクリートの壁や天井、床が与える冷たさと圧迫感だろう。


色々と見ながら歩いていると、希月がいきなり足を止めて後ろを振り返った。俺もつられて後ろを振り返るが、何もない。


「希月?どうしたんだ?」


希月はしばらくしてから、小さな声で振り返った理由を告げた。


「………聞こえるんだ。足音が」

「足音?」


俺は耳をすませて、周囲の音を拾う。



確かに、コツンコツンという音が聞こえなくもない、気もしない…。



俺より優れた聴覚をもつ希月が、少し驚きながら独り言を呟いていた。


「これは、二人?いや、三人かな?とにかく数人いるかも…」

「そ、そうなのか。ひとりはあの一島和飛だとして、他の奴らは誰なんだ?」

「分からない。それに一島さんではないと思う。彼はまだ出入り口で待ってるだろうし」


そうか。

と、いうことは。


「他にも地下高校に辿り着いた奴が出てきたということか」

「みたいだね。…急ごう、奏寺」

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