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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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この土地

数十年前。


軍を持てないこの国では、自衛の力を持つことしかできなかった。しかし、その自衛すら近年力を持つことができず、この国は弱くなっていった。


そこで立ち上がったのが、十三もの人間だった。


この十三人は外国には公表していない秘密の島、後に『この土地』と呼ばれるようになった場所に移った。そして、一人ずつ学校を造り、自らが生徒会長となった。


全ては非公式に、一部の政府の者にしか告げずに、今後の社会に必要な戦力を培う計画が実行される。



各高校の名前は、十三人のなかで年上順に付けられた。ただ、この十三人の中に双子が一組いた。どちらが年上かなどにこだわらない二人は、他とは違う特殊な名前を付けた。



「と、まあこんなもんですかね」


この土地の知る限りの知識を述べた後、俺は持参した水筒の麦茶を飲んだ。

さすがにこれだけ話せば、喉が痛くなる。


そして、肝心な事を話すのを忘れていた事にやっと気付いた。


「あ、その学校創設者の子孫が、今の生徒会長になるんです」

「え、でも来年には式条さんは卒業するでしょ?そしたら来年は…」


白池先輩が不思議そうな顔をした。


「三人のローテーションなんです。叔父さんが生徒会長を辞めるときに、一年生として入学した叔父さんの血縁者が生徒会長になる。そして、その人が三年生になり生徒会長を辞めるときに、また別の人がなる…。

在校生でも過去のことは知れない。このルールは生徒会長のローテーションがバレないように出来たものなんです」


自分で説明しながらも、所々わからなくなる。なんて難しい仕組みを作ってくれたんだって。


しかし香藤部長と白池先輩、希月は今の説明で理解したらしい。俺の説明が良かったのか、三人の理解力が素晴らしいのかは分からないが、とりあえず良かった。


安心して油断していると、なんと香藤部長が質問をしてきた。


「だが、なぜ血縁者が生徒会長をやらなくてはいけないんだ?」

「それは…責任問題の関係です」

「責任問題?」

「はい。この土地のことは外国はもちろんのこと、国内にも極秘です。秘密にする理由の一つが、やはり倫理に外れる部分があるからなんです」


香藤部長が苦い顔をして、溜め息をつく。


「もしバレたとき、この土地を創った者の子孫として、責任を押しつけるためか」

「はい。なので各高校の生徒会長たちは、自らのことを『生贄』と言うそうです。死ぬまで逃れられない義務を、必死でこなしているので…。ちなみに、自身の高校が敗退すれば、この義務は終わるそうです。もちろん、その後の未来は保証されずに」


香藤部長が納得したという顔で、静かに頷いた。それを確認して、白池先輩が力のない笑みを見せる。


「そっか。だから奏寺は、第二高校の生徒会長が自ら白旗をあげて敗退したときに、怒っていたんだね」

「はい。…根拠ははっきりとしないんですが、なんだか許せなくて」

「ははっ、奏寺らしいね」


力のない笑みが、優しい笑みへと変わり、俺も白池先輩につられて笑顔になる。心が穏やかになったところで、俺は椅子に座ってずっと静かにしていた叔父さんの方を向いた。


「と、叔父さん、こんなもんかな?…叔父さん?」


叔父さんに言葉を投げかけても、答えない。


腕を組み、下を向いたままだ。



…こりゃあ、寝てんな。


これには、さすがの白池先輩も苦笑いをしていた。香藤部長と希月は、呆れている。


人に長く難しい話させといて自分は寝ちゃうんだ?と突っ込むことなく叔父さんの肩を優しく叩いた。


「叔父さん、叔父さん!」

「………。なんだい?奏寺」


叔父さんは何事も無かったかのように振る舞ってきた。だが、どんなに自然に振る舞っても、俺たちには通用しない。


とりあえずその話題には触れずに、俺は時計を指さした。


「もう夜遅いですし、帰りたいんですが」

「もう八時か。帰ろうかねぇ」


叔父さんは椅子から立ち上がると、校長室のドアを軽く開けて周囲を見渡した。そして、誰かを見つけたのか、手招きをする。


香藤部長と白池先輩が互いに顔を見合わせて、首を傾げていた。そして俺と希月は互いに顔を見合わせて…真っ青になっていた。


ここまで来るために味わった危機、それを思い返す。


俺はとっさに大きな窓を見た。だが走り寄ろうとした時には、もうあの人が部屋に入ってきていた。


「…」

「冷川くん。この子たちの送迎、頼んだよ。あ、あと」


叔父さんは俺の方を振り返り、意味深な表情になる。


「古代宝は広報部に渡るより、君が手に入れた方が確実に安全だと僕は思う。もし手に入れたなら、その後の処理は任せるよ」


そう言い残すと、叔父さんはひとりで部屋から出て帰って行った。

残された冷川風紀委員長は、面倒くさそうな顔で部屋の中を見渡した。そしてぽつりと一言。


「変なメンバーだな」





なんとか無事に帰れた俺たちは、それぞれの部屋に帰る。


俺はひとり部屋の中で、今日のことを思い返していた。



冷川風紀委員長が怖かった…じゃなくて。

この土地の生徒会長の血縁者の義務。

敗北すればこの義務から解放され、ただの無職になる。


では、勝ち残ったらどうなるのか。


最終的には、どこか一つの高校が残ることになる。


しかし、これはきっと遠い未来の話だ。

その時には俺はもう在校生ではないから、結果は知れない。



俺は静かに目を閉じた。


明日は地下高校に行くことになるはずだ。

地下高校に一度入ってしまったら、古代宝の事柄はすべて片付くだろう。

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