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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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読み方に気付いたのならば

「お前みたいな校則違反者がいたら取り締まるためだ」

「ほんとか?ただ補習対象者だから、今の今まで勉強してたんじゃないのか?」

「…」


瀬村はただ無言でこちらを睨んできた。同じ手は通じないぞ、と言うことだろう。きっと俺が窓から逃げてもこいつはついてくる。


俺は瀬村を無視して階段を上る。瀬村はその後を静かについて来た。


「何でついてくるんだよ」

「え?君が校則違反をしないか見張るためだけど」

「気持ち悪いから…」


バカ正直に校長室に向かえはしないため、途中で関係ない廊下を歩く。それでも瀬村はついて来た。

俺は試しに走ってみる。すると瀬村も同じ様に走ってついて来た。

俺は廊下の端から端まで全力で走った。しかし瀬村は軽々と俺に追いつく。



…悔しい。


風紀委員から逃げるために、足の速さだけは負けないと思っていたのに。


だが、今の問題はそこではない。このままでは校長室に行くことが出来ない。もし、校長室の前で瀬村と香藤部長や白池先輩が会ってしまったら、大変なことになる。


校庭に面した廊下にでた俺は、どうしようかと窓の外に目をやる。もう時刻は夕方だ。さすがに生徒の姿も殆どなかった。


「…あれ?」


校庭の遠くの方に、会話しながら歩いている二人の生徒の姿が見えた。身長が高めの男子生徒と低めの男子生徒。残念ながら、顔は見えない。だが、二人はこの校舎に向かっているらしく、その姿はだんだんと大きくなってくる。

その二人の顔を見ようとしたせいか、俺は無意識に足を止めていた。それにつられて瀬村も止まり、俺の視線の先を見る。


「あっ、冷川先輩!」


瀬村が嬉しそうな声をあげた。

瀬村のこの言葉を信じるならば、多分背の高い方が冷川風紀委員長なのだろう。それにしても、俺にはまだ二人の顔がぼやけすぎてよくわからない。


「瀬村、お前視力いいな…」

「君の目が悪いんじゃない?」

「…。冷川風紀委員長の隣にいるのも、風紀委員なのかよ」

「さあ?もう一人の顔はぼやけてよく見えないし」

「…」


瀬村と話すのは疲れそうなので、ここで俺は会話を打ち切る。その頃には、俺の視力でも二人の顔が見えるまでになっていた。


本当に背の高い方は冷川風紀委員長だ。

さて、もう一人は…。



もう一人は、希月だった。



その組み合わせに俺は混乱する。だが、これはもしかしたらこの危機的状況を打破するチャンスかもしれない。


俺は勢い良く窓を開けた。

瀬村が驚いていたが、気にしない。


「おーい!希月!」


大声で名前を叫び、小さく手を振る。


「あ、奏寺!何してるの?」


それに気付いた希月が、笑顔で手を振り返してきてくれた。その横にいた冷川風紀委員長は露骨に嫌な顔をしている。


全く、風紀委員は本当に面倒だ。



結局、俺と瀬村は靴箱にまで戻り、希月と冷川風紀委員長と合流した。冷川風紀委員長と瀬村が難しい会話をしている横で、俺と希月はひそひそ話をしていた。


「で、何で奏寺はこの風紀委員といたの?仲良くなったとか?」

「まさか。…監視だとさ。こっちは約束があるっていうのに」

「約束?」

「ああ、実は…」


今までの流れを話し終えると、希月はちらりと冷川風紀委員長を見た。まだ瀬村と話しているのを確認した後、さっきよりも小さい声で声をかけてきた。


「奏寺、二人にバレないように、おれの携帯に電話かけて」


何をするのかと考えながらも、俺は希月に言われた通りにする。冷川風紀委員長と瀬村からは見えないように、ポケットの中で地味に、何より真剣に希月の携帯電話の番号の入力した。

苦労のかいあって、希月から頼まれてから割とすぐに電話をかけられた。希月の携帯電話の着信音が辺りに鳴り響く。冷川風紀委員長と瀬村の視線も、希月へと向いた。


「はい、希月です。はい、ご無沙汰していますー」


冷川風紀委員長と瀬村、そして俺が見守る中、希月は話し相手のいない電話に話し続ける。


「え?奏寺も?はいはいはい…」


ここで俺の名前が登場した。瀬村は少しだけ眉間にしわを寄せたが、冷川風紀委員長の表情は動かない。


「はーい、では失礼します」


見事な一人芝居を終えた希月は、溜め息をついた。その後、深刻そうな顔つきに変わる。


「奏寺、呼び出しだ」

「…誰から?」

「生徒会長から。最近色々やらかしただろ?多分、そのことだよ。さ、行こう行こう」


話していくにつれ、希月の口調は棒読みになっていった。そして冷川風紀委員長と瀬村に背を向け、歩き出す。



…。


大丈夫か?この芝居…。



案の定、と言うべきか瀬村が口を挟んできた。


「ちょっと待って。本当に生徒会長からの電話なの、それ?」

「ほんとほんと。ほんとにほんと」

「怪しいよ」

「はははははは」


いきなり乾いた笑いをする希月に、俺も合わせてごまかしの微笑みを浮かべてみた。


「はは…は」


きついか?

そう思った瞬間、冷川風紀委員長が低い声で意外な言葉を発した。


「生徒会長からの呼び出しなら、早く行け。目上の者を待たせるな」

「…え?」


俺や希月だけでなく、瀬村も驚いていた。

その後、冷川風紀委員長は口を開くことはなく、無表情のままどこかへ行ってしまった。呆然としている瀬村を置いて、俺と希月は校長室へ向かう。


「古代宝がらみなら、おれも参加していいよな?」


校長室への道のりで、希月は楽しそうにそう言った。







長い回想を終えた俺は、心の中で深い溜め息をついた。

気を紛らわすために、もう一度辺りを見回す。


豪華な椅子に綺麗な本棚、高価そうな飾りの皿。赤や金色を使ったカーテンなどといった洋風の家具は、この校長室を使う者の威厳を表しているようだった。さすがに上靴で歩き回るため絨毯などは敷かれていないが、床の板がお洒落な模様になっている。


「ひとつ、質問良いですか?」


白池先輩が小さく手を挙げた。それに式条生徒会長が優しく聞き返す。


「なんだい?」

「窓の横に掛けてあるソレは、何のための物なんですか?」


白池先輩は、夕焼けの明かりをこの部屋へ招き入れる大きな窓の隣の『ソレ』を指差す。


そこには俺もずっと気になっていた、この洋風の部屋にはそぐわない物がある。


「これは、まあ…座右の銘みたいなものだよ」


荒い筆跡で「穏やかな生活」と書かれた掛け軸は、この部屋で悪目立ちをしていた。

白池先輩はすぐに興味を失ったのか、視線は本棚へと移っている。香藤部長と希月は異様な物を見る眼差しで、掛け軸をまだ見ていた。

この雰囲気をリセットするためか、式条生徒会長は咳払いをして、改めて俺に質問をしてきた。


「それで…何のご用なのかな?」

「会長は、最近『古代宝』が話題なのはご存知ですよね?」

「あぁ、それのことか…なるほどね」


その意味深な言い方に、俺達は会長が何かを知っていることを確信した。何か重要なことを話してくれるかな、という皆の期待をよそに、式条生徒会長は独り言を呟く。


「なるほど。そういえば奏寺、君も毒を盛られたって言ってたねぇ。それなら、奏寺は僕の所にくるか」

「…」

「つまりは、古代宝の読み方に気付いたってことか。それなら君の苛立ちも分からなくはない。うん」


式条生徒会長は突然、長い独り言を打ち切った。そして俺達のことを端から順に見ていく。


「守衛部のエースの希月くんに人気者の白池くん、その人気者の親友と名高い香藤くんと、情報部の奏寺。君たちの問いに答えてみようか」

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