古代宝
茂津青莉。
彼女は何故、毒事件の真相を生徒に教えないのか。
咲宮と篠川に古代宝の話を持ち込んだのは生徒会だという。つまり、茂津も関わっているはずだ。
「分からないなぁ…」
つい弱気な声が出てしまう。
そんな俺に気付いた雪平先輩がこちらを向き、首を傾げた。
「だが、お前の目的は果たされたんだろう?広報部の弱味の情報を掴みたかったんじゃ無いのか?」
「うーん…。確かにそういう情報も欲しかったんですが、本当に知りたかったのは…」
と、その時。この絶妙なタイミングで俺の携帯電話が鳴った。雪平先輩が電話に出ろ、と簡単なジェスチャーをしてくれたため、俺は電話に出る。
「もしもし」
「あ、奏寺?」
電話をしてきたのは希月だった。
確かこいつはここ数日、守衛部の方に通い詰めていたはずだ。
情報部と違い、守衛部は練習を欠かすことが出来ない。夏期休暇中も交代で見張りなどもしているらしい。
なんとも、大変なことをしているよな。
まさに他人事な俺は、労いの言葉をかけることしかできない。
「それでさ、奏寺。古代宝のこと何かわかった?」
「いや、古代宝のことはあまり、ってところだ。しかし、広報部のことなら少しわかった」
「…え?広報部って、第三高校の?」
俺は希月にこれまでのことを話した。
咲宮と篠川は生徒会から依頼を受けて、古代宝を探していたこと。しかも、宝探しのプロである探索部には、生徒会からは何も依頼はきていないこと。
咲宮と篠川が毒事件の被害者だったこと。
その毒事件が起こってから、二人の行いが悪くなったこと。
そして、第三高校で毒事件の真相を知っているのは、生徒会長の茂津青莉だけであること。
一度に色んな事を説明しすぎて、少し疲れた。
机の上のコップに手を伸ばしたところで、ずっと黙っていた希月が呟きだした。
「目的…古代宝の…。毒事件で…怒りか?いや、うーん…」
「お前、またそれかよ。怖いって」
未だにぶつぶつ言っている希月をよそに、俺は水分補給を終えた。
希月のこの不気味な独り言が終わると、大抵よくわからなかった謎が解ける。
俺はそれを期待しながら待っていたが、今回は違うようだった。
「うーん、ううーん…」
「何も分からないか?」
希月は少し悔しそうに、小さな声で肯定した。
「…うん。ちょっとした予測ならあるけど、余りにも憶測の域を超えられないって言うか」
「予測?」
「そうそう。何で探索部に古代宝の依頼を出さなかったか。これは、探索部が古代宝に興味がありすぎるからじゃないかな?」
「どういう意味だ?」
その時、白池先輩が俺の肩を叩いてきた。そして小さな声で「希月くんの推理なら僕にも聞かせて」と面白さを期待した表情で言った。
俺は苦笑いしながらも頷き、スピーカー機能のボタンを押して携帯電話を机に置く。これで希月の声は、この部屋にいる全員に届くようになった。
まさかこんな事になっているとは微塵にも思っていないであろう希月が、先ほどの続きの話を始める。
「例えば、奏寺は古代宝を見つけたら、まずどうする?」
「俺か?そうだな…。古代宝が何なのかを確かめる」
「うん。それが普通だよね。きっと、探索部だって同じだと思う。宝を見つけるのが楽しみなんだと思う。…じゃあさ、咲宮たちはどうかな?」
咲宮たち。
彼らは俺達を見つけるなり、攻撃をしてきた。彼らの目的も古代宝の捜索。俺達も同じ目的を持つと聞いて、さらに攻撃をしてきた。
俺が無言で考えていると、希月が先に話し始めた。
「彼らは毒事件の後、好戦的になった。
つまり、他校の生徒に負けるのが嫌になった」
「そうだな」
「古代宝探しだって、一緒なのかもしれない。古代宝がなんなのか知りたいんじゃなくて、第三高校の自分たちが古代宝を手に入れることが、彼らの一番の目的なんじゃないか?」
「ど、どういうことだ?」
話の展開がよくわからない。俺が理解しようとしている横で、白池先輩が「なるほど」と呟く。
「つまり第三高校の生徒会は、古代宝が欲しい。けれど、探索部に依頼したら古代宝を見つけても生徒会に渡さない危険もある」
白池先輩が自分の解釈を述べた。それを聞いた希月が、嬉しそうな声になる。
「そうそう!そのぶん広報部は古代宝を『自分たちが見つける』ことだけにウエイトを置いているから、きっと古代宝への興味は薄いはず。だから古代宝の引き渡し拒否の可能性が低くなるんじゃないかなって」
なるほど。
俺は素直に納得した。
確かに古代宝が素敵なものなら、他人には渡したくないだろう。特に、探索部なら尚更。
他の先輩たちも納得したのか、感心した顔で頷いている。
しかし、電話の向こうにいる希月はあることに疑問を感じたらしい。
「ん…?って、今の誰の声?奏寺の声より、ちょっと高かったような…?」
「はははっ、希月くん久しぶりだね。白池だけど」
「えええっ?!白池さんもいたんですか?」
希月は悲鳴のような声を上げた。それを楽しむかのように白池先輩が笑う。
希月と面識のある雪平先輩も、少しだけにやけていた。
どうせなら香藤部長も居ることを伝えてやろうかとも思ったが、
ここで俺は、あることに気付いた。
いや、気付いてしまった、か。
「古代宝…か」
意味深な呟きを思わずしてしまう。その考えがどんどんと悪い方向に、すらすらと進んでいく。
俺の異様な雰囲気に気付いたのか、白池先輩が心配そうな顔つきでこちらを覗き込んできた。
「奏寺、どうしたの?」
…『古代宝』
『古代』の宝。
歴史が浅すぎるこの土地にあるのに『古代』が付く宝。
なぜ、俺は『古代』と『宝』の間にはひらがなを一文字入れたのに、『古』と『代』には入れようとしなかったのか。
「『古い代の宝』…」
「え?」
俺がいきなり発した言葉に、希月が思わず聞き返す。
「古代宝は古代の宝じゃなくて、この土地に昔居た人…つまりこの土地の学校にいた俺達より『古い代』の生徒が残した『宝』だったのなら…」
しかも、第三高校の生徒会長である茂津青莉がそれを欲しがっているのなら。
「だったのなら…あれは…」
俺達のような普通の生徒が、見つけてはいけない物なのかもしれない。




