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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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忘れられない事件

今回の話からは奏寺の一人称に戻ります。

香藤部長の一人称の話は、話の都合上もう少し後になります。

「ふむ…。やはりコンピューターでは保健室利用者のデータは管理していないらしい。部活動の活動記録を漁っていくか」


香藤部長がぶつぶつと呟きながら、パソコンと睨み合っていた。俺も負けじと、記憶したデータ同士を比べ合わせる。


やはり、データ上では…。



ずっと見つめていた机から目を逸らし、複雑な思いを紛らわせる。その時、春崎先輩から電話がかかってきた。それに雪平先輩が出る。


「もしもし、春崎か。お疲れ様。…なに?」


雪平先輩の語尾が上がる。それぞれ離れた場所にいた俺と香藤部長は、雪平先輩の方を同じタイミングで見た。

俺達と交互に目を合わせた雪平先輩は、春崎先輩と電話をしながら、深刻そうな顔つきで深く頷く。


これは、俺達の予想通りの結果だったという事だろう。


しばらくして通話を終えた雪平先輩は、携帯電話を机の上に静かに置いた。

それを見届けた後、俺は俯きながら口を開く。


「やはり…」


少し暗い声で一呼吸置き、話を切り出した。


「やはり広報部の咲宮と篠川も、あの毒事件の被害者だったんですね」


辺りに一瞬、沈黙が流れる。その重い雰囲気を、雪平先輩が断ち切った。


「ああ。保健室利用者の名簿に名前があったそうだぞ。過去数年でも類を見ないほどの利用者数の日に、病名欄に『原因不明』と記入されて、な」


雪平先輩が春崎先輩から聞いたことを、細かに教えてくれた。



咲宮と篠川も、あの時…俺と霧丘が屋上で煙が本物だとか何だとか言っていたときに来た、第三高校の生徒の群れの中にいたのか。


確かにあれは、広報部ならつい行きたくなるような出来事だった。



そしてこの毒事件が起こったのは、約一カ月前。ちょうど、咲宮と篠川の悪評高い行いが始まった頃と一致する。


これは…。


「第三高校に、毒事件の真相を知っている生徒はいるんでしょうか?」


俺の独り言に近い問いに、香藤部長がすんなり即答してくれた。


「いないだろう。俺が見たデータでは、未だに毒は謎のままで処理されているな」

「そうなんですか…」


俺は俯いた。


毒を盛られたのに、その目的や犯人すら知らない。


これは、悔しくて、そして何より怖いことだ。


またそんな事が起こるのではと、気が気でない生徒が殆どに違いない。



俺が深々と考え事をしていると、部屋のドアが開くと共に聞き慣れた声が聞こえてきた。


「いや、知っている人物なら第三高校に一人だけ居るみたいだよ」


俺と香藤部長、雪平先輩は一斉に声の主の方を向く。

そこには…。


「白池先輩?!」


純粋に驚いた。さっきまで第三高校にいた白池先輩が、こんなに早くここに来ることが出来るはずがない。


春崎先輩の話だと仕事終了は十分前。この土地唯一の電車を使っても、第一高校までは二十分はかかる。


と、いうことは。


「偽物?」

「偽物か」

「偽物だな」


俺達は納得し、今度は一斉に白池先輩の偽物の睨む。しかし、偽物は白池先輩がよく見せる、楽しそうな笑みを浮かべた。


「ははっ、それはそれで素敵かもしれないね。でも残念ながら本物だよ」





白池先輩は軽く伸びをした後に、一言だけ呟いた。


「特急車両」


その言葉に、雪平先輩が驚きの表情を見せる。


「特急車両って、線路の上のタクシーのようなアレか?」

「そうそう!電話すると来てくれて、好きな所で降ろしてくれるアレ。有料だけど」


楽しそうに語る白池先輩を見て、香藤部長はいつもの如く大きな溜め息をついた。


「アレなら確かに移動は早く、今お前がここに着いているのも納得がいく。だが…料金はどうした?アレは…ぼったくりだろう?」

「そういえばそうだな…。確かアレは、アレ専用の線路を敷いたせいか、使用料はかなりの高額なものだったはずだ」


雪平先輩も小さな溜め息をつく。


この二人は口調だけでなく、苦労人な雰囲気もそっくりだな。


一人だけのん気にそんなことを考えながら、再び白池先輩の方を向く。


「それがさ、ちょうど割引対象の人がいてね」


さすがに疲れたのか、白池先輩は床に座り込んだ。そして、香藤部長と雪平先輩の冷たい視線を避け、俺の方を向いて話し出す。


「いやぁ、瑠衣伽が『気を付けて。彼がいる』なんて言うから、どんな危険人物がいるのかと思ったら、なんと!冷川風紀委員長で…」

「ひゃかっ……」


不意打ちだった。

まさかここで、風紀委員の名前がでるとは。


驚きすぎて思わず悲鳴のような、冷川風紀委員長の名前を噛んでしまったような言葉がでた。


「…奏寺?」


白池先輩が驚いた顔をして、こちらを見てきた。俺は慌てて首を横に振った。


「す、すみません。お話進めてください」

「まだ風紀委員は苦手なんだね…。ええと、それで偶然、冷川さんは第三高校の生徒会員との話し合いがあったから、第三高校にいたみたいなんだ。そこで帰りに生徒会割引で安くなるからって、一緒に乗せてもらって」


マイペースに話を進める白池先輩の言葉を、ここで香藤部長が遮った。


「ちょっと待て。冷川と一緒に帰ったことは理解した。だがお前、まさか第三高校に居たのがバレたんじゃねぇだろうな?」

「そこは任せてって。しっかりと第三高校の敷地外の駅近くで会ったから」


意外としっかりしている白池先輩の話を聞きながら、俺は別のことを考えていた。



冷川風紀委員長か…。


あの時以来、一度も話しはしていない。

まあ、話すことなんか無いんだが。


ただもうちょっと、情報部に同情してくれてもいいんじゃないか?



だんだんと自分の世界に入り込んでいく。

それに気付いたのかどうかはわからないが、雪平先輩が白池先輩に質問をした。


「それで?なぜ毒事件の事を知る奴が第三高校にひとりいる?」

「あ、そう言えばそんな話だったよね」


白池先輩も、やっと話が脱線してきたことに気が付いたらしい。俺も我に返る。


「白池先輩、それで、その事実を知っている人は誰なんです?」

「それは…第三高校の女子生徒会長『茂津青莉(しげつあおり)』さんみたいだよ。第一高校の会長が自ら、伝えたらしい。これも冷川さん情報」


俺は、少し驚いた。


第三高校の茂津生徒会長…。


まさかここにきて、生徒会長の名前が出てくるとは。

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