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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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 優しい情報部員の反省

この話は白池の一人称になっています。

僕にとって、彼は尊敬に値する人である。



「失礼します」


第三高校に居る僕は目の前にあるドアをノックした後、保健室のドアを開けた。予想通り、中には女性の保健の先生と、保健委員らしい女子生徒がひとりいた。

二人は机を挟んで座っていることから、何か世間話でもしていたと思われる。


「どうしました?」


保健委員の生徒が立ち上がり、笑顔で僕に近づいてきた。その後、すぐに保健の先生が机の上にある茶菓子を、隠すように急いで片付け始める。


なるほど。他生徒には、保健室は飲食禁止で通しているのかな?


そんな疑問を笑顔の裏に隠し、僕は女子生徒に質問をした。


「山田くん来ています?転んで怪我したから保健室に寄ると聞いていたのですが」

「さあ…。少なくとも、午後からは誰も来てないけど」


ふいに時計に目をやると、午後三時を少し過ぎていた。どおりで小腹が空くわけだ。先程、彼女たちが隠した茶菓子を頂きたい気分になる。


しかし、そんな悠長なことをしている暇はない。


僕は困り果てた顔をして、辺りを見回してみた。


「全く…サボりかな」

「うぅん…」


女子生徒は考え込む。そして、何か良いアイデアでも浮かんだのか、パッと表情が明るくなる。

しかし、残念ながらもう時間だ。



ジリリリリリリッ!


「な、な、なに?」


女子生徒は突然鳴りだした大きな音に驚き、辺りを見渡す。僕も少し慌ててみせた。


「わ、わからない。もしかして、何かの警報?」


焦る二人の生徒をまとめようと、保健の先生が落ち着いた声で指示を出した。


「二人とも、落ち着いて!すぐに何らかの連絡が…」


先生の言葉を遮るように、廊下から『ガシャン』という大きな音がした。その音に続いて、保健室の窓の外側からも同じ音が鳴り、白いシャッターが降りてきた。


「なによこれ…?どういうこと?」

「わ、わからない」


さすがに冷静ではいられなくなった先生も、女子生徒と共に恐がりだす。


僕はその様子を見て、実は少し驚いてしまった。



この土地の教師は、生徒とあまり話したがらない。なぜかはよく分からないが、僕の予想ではこの土地の生徒が変に大人びていたり、怪しいことを楽しそうにするところが、気味悪いからだと思う。他生徒の奏寺の扱いが酷くても問題にならないのは、そのせいと言っても過言ではない。


だが、この第三高校の保健の先生や、第一高校の保健委員の先生は生徒と仲が良い。



なんだか違和感はあるけれど、仲が良いって良いことだよね…。

と、いけないいけない。


「これはきっと防火シャッターです。どこかで火災が起きたのかと思われますので、お二人は校庭に避難を!」


僕はそう言って二人を保健室から廊下へと誘導し、追い出した。混乱している二人はダッシュで校庭に向かったらしく、すでに足音は聞こえない。


そして僕はポツンとひとり、保健室に残った。


軽く保健室を見回し、他に生徒が潜んでいないかを確認する。全てが終わった後、窓を見て、思わず溜め息を漏らした。


「ふぅ…全く。防火シャッターが廊下のあちこちに降りるのは知っていたけど、まさか窓の外側にも降りるとはね」


もし火災が発生した場合、炎が広がらないように防火シャッターが廊下のあちこちから降りる。これはなかなか、僕にとってはありがたい機能だったりする。


この土地の学校は、他校からの攻めに警戒しているあまり、震災対策や火災発生時の対策に疎かになりがちな学校がたまにある。そこを突いて、今回の作戦にこれを盛り込んだ。


しかし予想外なことに廊下だけではなく、見事に窓の上からもシャッターが降りてきてしまっている。見た感じでは重そうな印象を受けた。


「窓の外側にシャッターか…。災害時に他校の生徒が入るのを防止するためかな?」


僕は教室の西側に位置する窓を少し開ける。その後、シャッターは持ち上げれば簡単に動かせることを確認した。ただ、外側に持つところがあるかはわからない。


けどよかった。これなら…。


シャッターを五センチほど開け、閉まらないように空いた隙間に消しゴムを挟む。



これで校外から侵入する瑠衣伽は、簡単に外から保健室に侵入することが可能だろう。


そして、目的の品である『保健室の利用者名簿』の中を閲覧して来てくれるはずだ。



ちなみにその仕事が完了したら、合図として僕を探し『廊下ですれ違う』約束をしている。



僕は保健室付近を簡単にうろつき、他生徒がこちらに近付かないよう簡単な警備をしながら、朗報を待った。




それにしても。



やはり、火薬は使いづらかった。

というより、僕には使えない。


怖いね、やっぱり。これは絶対にやっちゃいけない。



火災警報装置を鳴らすために、ある程度の煙が欲しかったから、火薬を狙った。

火薬を狙ったのが分からないよう、拳銃を敢えて持ってきたけれども、必要がなくなってしまった。


そして意外と拳銃を返す隠し場所には困ったため、拳銃はそこらへんの廊下に放置してきた。


結局、両方とも何も使用しなかったため、僕は意味のない行動をしてしまった。




その時ふと、なぜか奏寺のことを思い出す。


そういえば彼が毒を盛られたのは、ここ第三高校の屋上だった。


あの時も、僕は煙を起こした気がする。




過去の出来事を思い出しながら、今回のことを反省して歩いていくと、前から誰かが歩いてくるのが分かった。


少し俯いている、その暗い雰囲気で分かりにくいがかなり美人の女子生徒。


…瑠衣伽だね。



僕は予定通り、瑠衣伽とすれ違う。


当初の予定では、これだけで任務完了の合図になり、後は気分良く帰るだけになる。


しかし彼女は、すれ違い際に小さな声で呟いた。





「気を付けて。彼がいる」





僕は思わず、振り返る。


だが瑠衣伽はこちらを振り返る気配すらなく、こちらに背を向け、堂々と廊下を歩いていった。



「彼」とは、いったい…。


危機感は持てたものの、気を付ける人物を代名詞で言われると、少し…いや、かなり困る。


広報部の二人のどちらかのことだろうか?

いや、それなら瑠衣伽は「広報部がいる」と言うだろう。


もしかして瑠衣伽自身、名前が思い出せない人物なのかな…。

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