二面性をもつ情報部員の苦悩
この話は雪平の一人称になっています。
俺にとってあいつは、自由が好きな奴に見える。
横でせっせとキーボードを打つ香藤は、真剣な眼差しで画面に食らいついていた。俺はただ、もう切れてしまった白池と春崎からの電話を待つことしかできない。
「やはりセキュリティーレベルは高いのか?」
香藤の緊張を和らげるため、軽い会話を用意する。香藤は予想通りいったん手を止め、返事がてらお茶の入ったコップに手を伸ばす。
「ああ。だが、第一高校の中枢の情報よりかは、遥かに低い。もう少しの勝負だ」
「勝負か…想像もできない世界だな」
俺は第一高校の生徒の人間関係を探ったりする事はできるが、他校となると出来ることは限られる。潜入や侵入も出来なくはないが、あの二人より時間もかかるし、見つかる確率も上がってしまう。
よって俺に、こういう時に出来ることは無い。
そのことに関して、俺は特に悲観的になることはなく、自分の長所を活かせる場面で頑張ろうと思えるほうだった。
だが、奏寺は悲観的になっていたようだ。
しかしちょっと見ないこの数十分の間で、何やら表情が明るくなっている。
まあ、元気になったのなら良いのだが、奏寺は今度は何かよく分からないことを始めていた。
「なあ、何をしている?」
必死に自分のパソコンを見つめる奏寺に聞くと、俺の顔の方を向いて笑顔になった。
「記憶しているんです。情報部の活動記録と、第三高校の記録を頭の中で比べるために」
「頭の中で比べなくても、紙に書いた方が楽なんじゃないか?」
「いえ、覚えた方が早いので」
この後輩は何を言っているんだか。
頭の中で二つのものを比べてみるなんて、考えただけで頭痛がする。
奏寺の記憶力は、こいつが入部したときから凄いものだと感じていた。最初は天才なのかと思っていたら、実は努力して身に付けた秀才の方らしい。全く、恐ろしいものだ。
そんなことを思いながら、今度は香藤に目をやる。そして、白池と春崎のことも思い出し、思わず溜め息を漏らす。
「どうしたんですか?」
俺の溜め息が耳に入ったらしい奏寺が、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
俺は正直に、今思ったことを口にする。
「いや、情報部の奴らは凄いよなって思ってな。少し、羨ましい」
「…え?」
心底驚いたような顔をした奏寺が、数秒停止する。動き出したかと思えば、焦るような素振りをを始めた。
「な…なに言っているんですか?雪平先輩のように皆から慕われるなんて、簡単に真似できることじゃないです!」
「そうか?お前の記憶力の方が断然凄いと思うが。俺のは演技すれば誰でも…」
「演技を貫くのに疲れちゃいますし、何よりボロが出てくるから、俺には無理です」
隣の芝生は青く見える。
…そう言う事だろう。
断言した奏寺は、再びパソコンと睨み合う。だが、心なしか先程よりもさらに表情が明るくなった気がする。
その時ふと、本当に俺ができることは無いのかと、考えを巡らせてみた。そして、一つだけ、意味かあるかは分からないができることを思いつく。
「保健委員の部屋に行ってくる」
いきなりの発言に、奏寺と香藤がこちらを振り返った。二人の顔には驚きが見えたものの、すぐに「頼む」「お願いします」という声が聞こえた。
二人が作業に戻ったのを見届けて、俺は奏寺の部屋から出る。
さて、保健委員に何て言って資料を頂こうか。
前回の49話にて書き忘れてしまいましたが、
49話「静かな情報部員の不安」更新の一時間前に48話「気になる情報」を投稿しておりますので、48話は大変見逃しやすくなっております。
面倒なことになってしまい申し訳ございません…。




