篠川の言葉
篠川の表情は、見る見るうちに冷たいものになっていく。
「俺たち広報部や、多分情報部もそうだろうが。外から見たら倫理的にも法律的にも外れることをしている。だがそれはこの土地が生み出した部活動の活動であることは間違いない。なのにお前みたいな奴は、俺たちを悪と見なす」
淡々とした篠川の口調は、嘲笑いとともに凄まじい恐怖を与えてくる。
「…なんか、こう、苛っとくるんだよね。この土地の正義って、何?そう聞くと、誰も答えないくせにさ」
「…この土地の正義」
俺は小さな声で、その言葉を呟いていた。
それに気付いた篠川が、目線をこちらに向けてきた。
「君もおかしいと思うだろ?何で俺たちって嫌われるのかねぇ?」
「お前も言っただろ。倫理から外れているからだよ…。広報部、お前たちのやりすぎの件がな」
「やりすぎ?好戦的と言ってほしいな。ただ戦闘員たちの手伝いをかってやってるだけじゃん」
篠川と俺の会話に、解説を求める目を霧丘が向けてきた。俺は篠川から視線をずらし、霧丘を見る。
「ただ情報を伝えるだけの広報部なら、嫌われるなんてことない。ただこいつらは広報業務に関係ない場合でも、敵を見つけたら戦いを仕掛ける。まさに今のように」
「それって、もう広報部じゃないんじゃ…」
「ああ。だからいろんな方面から非難を浴びるんだろ」
その時、ずっと黙り込んでいた咲宮からの視線を横から感じた。
「ほう…本当に詳しいんだな。…情報部か、広報部なんかよりも、もっと面倒くさい扱いを受けているのだろう?」
「まあ、それなりに。でも、広報部と違って、俺たちは情報関係以外には手を出してないが」
まあ、そのかわり情報部は一部の人々が犯罪行為をしている気がするが。
ふと頭に浮かんだ先輩達の顔を、忘れるために首を横に振った。
「それがいつまで続くか、だな」
咲宮が少し笑みを浮かべ腕を組むと、そこら辺の壁に寄りかかった。
どうやら、咲宮にはもう戦闘する気はないようだ。
それを感じ取った篠川が、つまらなさそうに溜め息をつく。
「はあ…。光時はノリがわりーな」
そういうと、篠川は希月達に堂々と背を向けて、咲宮の近くに歩いていった。希月が悔しそうな顔で、その背中を睨む。
「あ、そういえば」
篠川は希月の視線を無視して、俺の方を向いた。
「情報部くん。君の名前は?」
「奏寺生有」
「生有くん、生有くん…言いにくいね。奏寺くんでいっか」
「はぁ」
「奏寺くんはさぁ、情報部のなんなの?」
「受付」
怪しい笑みを浮かべた篠川は、咲宮と同じように腕を組んだ。
「受付ってことは、情報収集とかしないんだ?」
「できないんだよ。顔が知られすぎて」
「そりゃそうだ!…じゃあさ、奏寺くんがやってるのが受付なら『君』の必要性って、なに?」
「は…?」
希月や霧丘も難しい顔をして篠川を見ていた。篠川は希月に向けたような、冷たい表情にはならないものの、人を見下すような口調に変わっていった。
「だって受付なら君じゃなくても、俺や光時、そこの竹刀くんや女の子だってできるじゃん」
…。
「…情報の管理だ。俺の特技である記憶力を活かして、情報をすべて把握し提供している」
「そんなこと、この現代ならコンピューターがあればいいじゃん」
「…」
先ほどの希月と同じように、俺は何も言い返せなかった。
言いたいことは山ほどあるが、きっとそれを言っても、こいつには否定されてしまう。そんな恐怖すら、心の中に浮かび上がってきた。
「あなた達にはわからない情報部の悲運に耐えてきた…奏寺には、そういった才能があるんですよ」
希月が怒りを込めて、篠川に言い放つ。
ただ篠川は笑ってそれを聞き流すと、口を閉じた。
俺は希月に近づいて、礼の意味を兼ねて少し微笑んで見せた。希月もそれを見て、怒りの表情を消し穏やかな顔に戻る。
「竹刀くんが言いたいことは分かったが、ちょっと表現が変だね。次会うときはもっと口も達者になっていることを願うよ」
篠川はこちらに背を向けたまま、咲宮と一緒に校舎から出て行った。
俺と希月、そして霧丘は静かにその様子を眺めることしかできなかった。
「大丈夫だ。あいつの言葉になんか動揺するわけないだろ」
夕暮れの第九高校の校門の前で、俺は心配してくれた希月と霧丘にそう言った。
それでも心配そうな視線を送ってくる為、強引に話題を変える。
「それより、古代宝の手がかりなんてなかったな」
「そうだね。…次この三人で探せるのは来週か」
霧丘が少し寂しそうな顔になる。
生徒会の一員の霧丘と、居残りとは言え守衛部の希月は、夏期休暇中もいろいろと忙しいらしい。
「それまでに俺もいろいろと調べてみる。だから二人とも頑張れよ」
「ああ、ありがとう」
「よろしくね、奏寺さん」
霧丘とはここで別れ、俺と希月は寮に向かって歩いて行った。
「希月も、篠川に色々言われていたが大丈夫なのか?」
「おれはね。まあ、あの篠川って人とは相性悪いんだろうなとは思ったけど。別に仲良くなりたいとも思わないし」
苦そうな顔をして、戦場で会ったら絶対に負けないし、と最後に付け加えた。
その後、真剣な表情に戻った希月は、また俺に同じ質問をした。
「奏寺こそ大丈夫?あんなに動揺するなんて珍しかったけど」
「大丈夫だ。奴の言葉の攻撃になんて動揺するか」
「そっか」
その後は篠川と咲宮の話題はでず、古代宝について話していた。気がつくと、俺達は寮に到着する。
「じゃあ希月、守衛部の合宿がんばれよ」
「はははは…気が滅入るよ」
希月と別れた後、俺は考え事をしながら自室に向かった。
『君の必要性って?』
情報部に俺がいる必要性。
篠川の言葉が頭の中から抜けることはなかった。




