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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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そこにいた高校生

「ここが、第九高校?」


初めて見るのであろう廃校を、霧丘は校門の外でじっと見つめていた。


第九高校は俺が前来たときと何も変わっていなかった。やはり校庭には草花が生い茂っていて、校舎はボロボロだ。


きっと校舎内に入るのには、少しの勇気が求められるのだろう。


俺と希月は第九高校の校門と開けて、敷地内に足を踏み入れた。霧丘もゆっくりとそれに続いていく。


「…ほんとに、手入れしてないんだ?」


霧丘は敷地内を見渡しながら呟く。霧丘の視線の先には、花が植えられていただろう花壇があった。

その花壇にはよくわからない雑草が伸び伸びと育ち、その近くの道にも、これまたよくわからない花が咲いている。これは確かにおかしな光景かもしれない。


先頭を歩いていた希月は、早くも玄関に辿り着いていた。並んで備え付けられている靴箱の一つに靴を置いて校舎に入ると、希月の足取りはぴたりと止まる。俺はその不自然な動きにすぐに気付いた。


「希月、どうした?」

「…いや、なんか分からないけど、違和感を感じて…」


そう言うと希月は、下をじっと見つめて考え込んでしまった。


俺と霧丘も希月の追いつき、校舎の中の廊下で立ち止まる。



俺は静かに周囲を見渡した。

思っていたよりも、校舎内は落ち着いていた。埃やゴミは多いが、器具や窓の破損はあまり見られない。


ひんやりとした空気が、なんだか不思議な歴史を感じさせるなか、霧丘が小さくくしゃみをした。


「埃か?」

「多分そう。やっぱり放置されていると、嫌でも埃が溜まるんだね」


そして俺たちの視線は希月に向く。未だに希月は一人で何かを考えていた。


「埃…いや、寒気か?空気に窓…放置」

「…また独り言を言ってる。相変わらず、不気味で怖い」


霧丘は呆れて希月から少し離れ、俺に近づいてきた。


希月はこのモードになると、考えがまとまるまで治らないんだよなあ…。


溜め息をついてから、俺はダメもとで希月に話しかけようと、希月に近づいた。


「おい、希月──────」

「危ない!」


独り言モードを突然解除した希月が、真剣な顔で俺に向かって叫んだ。

その声と同時に、俺に向かって投げられた何かを、希月は弾いた。その希月の手には木刀が握られている。


「な、なに?」


霧丘がその一瞬の出来事についていけずに、焦り困惑していた。

俺自身も何が起きたのかわからない。ただ俺に何かが飛んできたのは確かだった。


「とりあえずありがとう、希月。そして何事だ?」


俺と霧丘が同時に希月の顔を見る

希月は怒りの混ざった真剣な顔をして、廊下の奥を睨んでいた。

その視線を追い、廊下の奥を見ても特に何も見あたらない。


「おい、希月?」

「違う、二人いる!」


こいつ…俺の話を聞いていないな。


希月は未だに独り言モード継続中のようだった。何となく希月の頭を叩いてやりたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえる。


そんなとき、やっと希月がこちらを見た。


「奏寺、霧丘さん!誰かは分からないけど、おれたちに敵意をもった人が、この校舎に潜んでる。気をつけて!」


緊張が走る。俺たちは周囲を見渡し、警戒体制をとった。

あたりが静まりかえると、二つの足音がこちらに近づいてくるのがはっきりと聞こえる。

その足音がこちらに来るのを待つなか、希月が静かな声で語り始めた。


「この校舎に入ったとき、違和感を感じたんだ。どこかで感じたことがあるような、変な感覚…そう、人に見られている感覚が」

「え」


霧丘が少し驚いた声をあげる。それに続いて、溜め息のようなものも聞こえた。


「そんな感覚を感じたなら、独り言ぶつぶつ言ってないで教えてよ…」

「え、あ、そっか、ごめん」


苦笑いした希月が、警戒を解かずに左右を見渡す。その希月の視線の先の、廊下の向こうから黒い影が二つほど現れた。


「あれは…第一高校の奴か」

「ひとり、見慣れない制服の女子もいるじゃん」


目の前に現れたのは、背の高い二人の男子生徒だった。



…あの青い制服のラインは、第三高校か。面倒なことにならないといいんだが。



俺達から見て右側にいる男子生徒は、やや四角い形の眼鏡をかけ、ひょろっとした体型で不機嫌な顔をしていた。普段から目が細いのか、こちらを睨んでいるように見える。


「…なんだよ」

「…いえ、なんでも」


目の細い男子生徒をじっと見過ぎたせいか、その顔に合った低い声で話し掛けられてしまった。


その様子を見た、俺達から見て左側にいる男子生徒が声を立てて笑い出す。


「あっはっは!君もやっぱり光時(こうじ)の目つき悪いと思うよね?!」


目つきの悪い男子生徒が、笑った男子生徒の頭を軽く叩く。

頭を叩かれた左側の男子生徒は、その口調通りの今時の容姿をしていた。顔は雑誌の表紙を飾ってもおかしくないほど恵まれており、やや長い髪にも力が入っている。


その左側の男子生徒を見た霧丘が、俺達にしか聞こえないほど小さな声で呟いた。


「チャラい…」


希月と俺は笑いをこらえながら、真剣な顔で第三高校の男子生徒二人を見た。光時と呼ばれた目つきの悪い男子と、チャラいと言われた男子も、俺たちと三メートルくらいに距離を詰めると足を止めた。


チャラい男子の方が、うっすらにやけた顔で俺と希月を見ながら話しかけてきた。


「第一高校生か。こりゃあお互い会いたくない相手に会っちゃったね。…君たち、ここに何しに来たの?」

「ここは第九学校です。第一高校のおれたちが倒した高校の敷地にいるのは、ごく自然なことだと思いますけど」


希月が割と強気で言い返す。希月を見下すチャラい男子と、少し睨みを効かせた希月の表情は、この雰囲気に緊張をもたらす。しかしチャラい男子が、少し笑い声を上げた後、大きく頷いた。


「あっはっは、そりゃそうか。俺たちが居る方が不審だよね!いやー、参った参った」

「少し黙れ」


光時と呼ばれた男子が、再びチャラい男子の頭を叩く。


…それにしても、第三高校の『光時』とは、もしかして…。


俺はその考えを、思わず口に出してしまった。


「広報部か…?広報部の咲宮光時さきみやこうじ!」


その場にいた全員の視線が俺に向く。明らかに二人の第三高校生が驚き、少し目を見開いている。


…当たり、か。


「となると、咲宮光時と一緒にいるそこのチャラいのは…篠川史也しのかわふみやか?」

「ちょ、ちょっと奏寺、二人のこと知ってるの?」


希月が少し焦りながら俺を見た。話に若干ついて行けていない霧丘も、俺を無言でじっと見つめる。


そんな中、俺たちが出会ってしまった第三高校の広報部の咲宮と篠川は、目線をこちらに向けたまま二人で相談を始めていた。

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