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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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逸れる話題

当初の予定では、湖上高校の校舎内で俺たちは話し合いをするはずだった。しかし橋を失った今、校舎のある島まで船を使っていくと一時間はかかるらしい。

俺たちは諦めて近くの喫茶店に向かった。


「まず古代宝の噂の発祥元だが、それはこの土地の高校の生徒会役員の集まりの時みたいだ」

「ああ、あのいろんな高校の生徒会役員が集まって話し合いをするっていう?」

「ああ」


人の気配が無さすぎる喫茶店の窓際の席に、俺たちは座っていた。俺の向かいには霧丘が、隣には希月がいた。

三人で囲むテーブルの上には、飲み物も食べ物もまだない。

霧丘が冷たく並ぶ建物しかない外の風景をちらりと見て、小さなため息を付いた。


「私もその話し合いに一回だけ行ったことがある。その話し合いって、生徒会長は絶対出席しなきゃなんだけど、他の生徒役員は二人くらいしか行けなくて」

「行けない?」


希月が不思議そうな顔をして、霧丘に聞き返した。霧丘も真剣な顔で頷く。


「そう。昔からの決まりらしい。理由はあんまりわかっていないみたいだけど」


そう言いきった後、霧丘は立ち上がり、少し席を離れた。


「ね、何か飲まない?喉乾いちゃって」

「そうだな」


俺と希月も立ち上がり、霧丘についていった。俺たちはおしゃれな内装にそぐわない、飾り気のない自動販売機に近づく。

二、三台ほど連なった自動販売機にいち早く着いた希月が、苦笑いをしてそれらを見上げていた。


「まだ慣れないな…。この堂々と店の中にあるゴツい自販機たちって」

「確かに。雑だよな」


俺もそれには同意する。


この土地にはスーパーマーケットだのファミレスだの、建物は豊富にある。だが、中には店員どころか、商品すら並べられていない。

俺たちが今居る飲食店などでは、飲み物はよくある自動販売機が店内に置かれており、食品も自動販売機のボタンを押すと、冷凍食品が温められて出てくる。


最初この風景を見たときは、なんだかぞっとした。



そのせいもあってか、生徒たちは休日も部活に打ち込むか、寮に引きこもる傾向にある。


そういう俺も、部屋の中でだらだらする派だ。



霧丘は素早く小銭を自動販売機に投入し、冷たい炭酸飲料を買った。それを見た希月が「あ、いいね」と言って、同じものを選ぶ。

二人が同じ飲み物を手にして、同じタイミングでこちらを振り返った。


「奏寺も、これ飲む?」

「やっぱ夏になると、飲みたくなるよね、これ」


二人の顔には『早く飲みたい』そんな言葉が顔に浮かんでいる。


…二人とも、わかりやすいな。


「残念だが、俺はこっちだな」


二人の視線を感じながら、俺はアイスコーヒーを選んだ。ちなみに俺は無糖、ブラック派だ。


「えっ…嘘」

「あり得ないだろ、奏寺」


二人が困惑を通り越し、恐怖の表情を浮かべている。

確かにこの歳でブラックコーヒーを飲んでいると、尊敬されるどころか引かれることも多々ある。だが、こんな表情で見られたのは初めてだ。


「な…なんだよ」

「奏寺こそなんだよ、無糖って…。あんだけ頭使っているくせに糖分補給しないのか?」

「なんだ、それは」


俺は呆れながら一足先にコーヒーを飲む。隣で黙り込んでいた霧丘が、慎重な面もちで俺に聞いてきた。


「奏寺さん、甘いもの苦手?」

「そうじゃないけど。コーヒーはこの苦みが良いじゃん。ていうか、飲み物の話はどうでもいいだろ。古代宝から毎回話がズレるぞ」


俺たちは再び席に着くと、古代宝の話をし始める。まず一番に希月が口を開いた。


「つまり、あれだ。この土地の全ての学校の生徒か一度に集まるところで噂のネタがあったから、同じ時期に噂が広まったと」

「ああ。そう考えると、信憑性が少し怪しくなるよな、何となく」

「そう?」


気が付くと、この喫茶店に入ってから二時間が経っていた。

どおりで小腹が空くわけだ、と一人で納得する。


「問題は、古代宝がある場所の手がかりに関する情報が一切無いってことだ」


俺は昨日必死に頭に詰めてきた古代宝の情報を、頭の中で巡らせた。

これが面白いほどに、場所を特定できるものがない。

そんなとき、希月は軽く言い放った。


「でも、古代なんて名前付けるくらいだからさ。今おれ達がいるこういう建物なんかより、どこかの学校に潜んでいる可能性の方が高いんじゃない?」

「学校に?」

「うん。だって宝物を、いつ壊されてもおかしくない、こういう無意味に等しい建物には隠さないよ、普通」


希月は半分真剣に、半分冗談に言っていたものの、俺と霧丘は大いに納得する。


確かにこの土地では、デパートやショッピングモールの建物が壊されることはたまにある。


だが…。


「確かにそれはあり得るが、この土地の学校すべてを調べるのは無理がある。中に生徒もいるし」


希月も「やっぱり?」という苦笑いを浮かべて小さく溜め息をついていた。


「だよな。例え他校の校舎に古代宝があったとして…侵入なんてするほどの価値があるかどうか」

「そうだね。まずその学校の生徒が見つけるだろうし…。はぁ、探すことすら難しいなんて」


霧丘も希月に合わせて溜め息をついた。その後、ふと俺の方を見た。


「奏寺さん、そういえば第二高校って今どうなっているの?」


第二高校。それはこの間俺たちの第一高校に敗れた高校だ。


「第二高校はまだ今まで通りの状態だ。今いる生徒が全員卒業をした時点で廃校になる。あの土地自体はもう第一高校のものだが、第二高校の生徒の人権ってものもあるからな」


だが、第二高校の代表でもある生徒会長と、やりすぎが役所の人間の目に留まった滝は、退学処分となったはずだ。


それを聞いた霧丘が少しだけ考え込む姿勢になった。


「廃校になっても、校舎はそのまま残されるんだよね?」

「らしいな。たまにちらほら、そこら辺に校舎っぽいものも残っているし」


俺がそう答えると、希月がはっとして霧丘と俺を見た。霧丘は笑みを浮かべるものの、俺には何が起こっているのか全くわからない。


「何だよ」

「奏寺、つまりだ。きっと古代宝はこの土地の争いに敗れ、廃校となっていった校舎のどこかにあるんだよ」

「なぜだ」

「人が立ち寄らなくなる場所といったらそこくらいだろ?実際、昔第一高校が勝利して勝ち取った第九高校の校庭には行っても、校舎内には絶対入らないだろ?」

「確かに。なんか不気味で入りづらいんだよな…」


俺は第九高校の風景を思い出していた。

誰も手入れをしなくなった校庭は荒れ果て、人が居なくなった校舎は、老朽化が加速したかのようにボロボロになっていた。ここの生徒は誰一人居ないはずなのに、不穏な人の気配というものを嫌でも感じてしまう。


希月も行ったことがあるのか、同意したかのように頷いていた。


「だろ?なにより、宝があるとしたら、そういうところだろ」

「…だが、そこに古代宝があるという根拠があまりにも…」


運頼りなのでは。

俺がそう言おうとしたとき、明るい笑顔をした希月が炭酸飲料を一気に飲み干して、席を立った。


「場所の情報が無いなら、てきとうにそこら辺を歩き回って、探すのも良いことだって。何より、そろそろ動きたいし」


楽しそうに話す希月を見て、霧丘が静かに微笑む。


「でも確かに、廃校探索って面白そうかも」


興味を持った霧丘を見て、希月も嬉しそうにした。


「だろ?第九高校なら第一高校生は役所の許可がなくても入れるから、そこに行こう!もしかしたら、面白い物が見つかるかも」


探索に面白い物って。

おい、古代宝はどうした。



俺は溜め息をついて、早くも喫茶店の出口まで行ってしまった希月と霧丘を追いかけた。



その途中で、廃校探索を割と楽しみにしている自分がいることに気付く。



廃校にあるかも分からなければ、存在するのかも怪しまれる古代宝。


それを夏期休暇に、友達と一緒に探す。



情報部に入部したときから諦めていた光景が、目の前に存在することに、俺は改めて驚きを隠せなかった。



希月と霧丘には聞こえないように、少し俯いて、小さな声で俺は言ってみた。


「…さて、行くか、廃校探索に」

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