怪しいオレンジ
次の日は授業は無く、終了式のみ行われた。この日は普通の部活では一カ月お疲れ様という意味で、広い教室を使い食事会が開かれるらしい。情報部はメンバーが他生徒にバレないようにするため、俺の部屋でそれが行われる。
午後十七時五分現在、既に香藤部長と白池先輩が俺の部屋にいた。
「古代宝探し?…ったく、あの守衛部と変わり者の湖上高校生は何考えてんだ?」
香藤部長が調理器具を洗いながら呟いた。隣で食材を冷蔵庫に入れていた白池先輩が、笑いながら香藤部長を見る。
「楽しそうだけどね。僕も参加したいくらいだよ」
「はあ…どいつもこいつも」
二人のやりとりを聞いていた俺は、情報部員が全員座れるように、部屋を片付けていた。
一段落したところで、その場でキッチンにいる香藤部長に話しかけた。
「そういうことで、古代宝の資料ください。情報料は部活に払いますので」
「情報料は払わなくて良いと思うよ?」
香藤部長の横にいた白池先輩が、ひょいと俺を見てそう言った。香藤部長もこちらに背を向けながら頷く。
「俺達が料金を貰うのは客だけた」
「いいんですか?」
俺が意外そうにすると、可笑しそうに白池先輩が笑う。
「そんな気にしなくても。僕たちだって得た情報で勝手に色々やっているしね」
「…色々って、白池先輩が言うと何か恐ろしいです」
その時、部屋のドアと窓が同時にノックされた。白池先輩がドアに向かって行ってくれたため、俺は窓に近づく。
急いで窓を開けると、春崎先輩がひらりとこの部屋に入り込んだ。
「ありがとう…奏ちゃん」
春崎先輩はぼそりとそう言った後、制服のポケットから瓶を十数本ほど部屋に出した。瓶に貼ってあるラベルを見た限り、どうやら調味料らしい。
…よく、こんなに大量に運べたな…。
俺が大量の瓶に気を取られていると、ドアの方から声が聞こえてきた。
「邪魔するぞ」
部屋のドアが開く音と共に、雪平先輩が部屋に入る。俺が返事をしようとしたときには、既に雪平先輩はキッチンにいた。
ちなみに、情報部の食事会は役割分担をきっちりと決めている。
俺は場所の提供。
香藤部長は調理器具の用意。
白池先輩は食材の買い出し。
春崎先輩は調味料の運搬。
そして雪平先輩がそれらを使って調理をする。
実は雪平先輩の料理の腕は確かで、あの料理好きな葉山副会長の一番弟子という噂もある。
一時間後には皆が席につき、雪平先輩の料理を頬張りながら雑談を始めていた。
「…古代宝。確かに…今一番騒がれているわね。この土地全体で…」
春崎先輩ができたてのミートソースのパスタを、上品に食べながら呟いた。春崎先輩の隣にいた雪平先輩も頷く。
「第一高校でもよく聞くな。ま、探そうなんて奴は少ないが」
湯気がたっているラーメンを暑そうに食べる雪平先輩に、俺は苦笑いを見せた。
「そりゃあ、まあ、そうですね」
俺はうどんを食べようとしていたものの、なかなか適度な量を箸で掴めず苦戦していた。手を休め、右にいる香藤部長をちらりと見ると、同じように蕎麦をうまく掴めず苛ついている。香藤部長は溜め息をつき、一旦箸を置く。
「だが第三高校と第八高校では、多いらしいぞ。探そうとしている奴」
「そうなの?」
器用にきしめんを食べていた白池先輩が、少し驚いて香藤部長を見た。
それにしても雪平先輩はよく一時間で、これだけの種類の麺料理を作ったな。
なぜこんな食事を作ったのか、俺は少し考えてみた。しかし、食材を準備した人が誰だったかを思い出し、静かに納得する。
「奏寺たちは、いつ捜索を開始するの?」
白池先輩がお茶を片手に、俺に聞いてきた。
「とりあえず明日の放課後、三人で計画を立てる予定です」
「早いすぎないか…」
香藤部長が少しだけ呆れていた。
「まあ、みんな遊びたいんですよ。たまには」
その後、話題が別のものに移り変わる。楽しい時間はあっと言う間に過ぎていった。
そして次の日の放課後。
雲がびっしりと埋め尽くされた空が、太陽の暑い日差しを遮る。夏という活動するのも一苦労な気候では、本日のような天気は有り難い。
俺と希月は、霧丘との待ち合わせ場所に行くために校門をでた。
「ち、ちょっと、そこのあなた!」
「あ、俺?」
校門をちょうど出たところで、強い口調で俺に話しかけてくる女子がいた。
…誰だ?
その女子はオレンジ色の長い髪を高い位置に二つに結んだ、いわゆるツインテールに、黒いジャージを着ている。
しかし、彼女の顔はこの攻撃的な風貌に合わないほど、ほんわかとした優しいものだった。残念なことに、今は怒ったような怖い表情が混じっているが。
「そうよ!あんた、第一高校の奴でしょう?」
「そうだけど」
「なら、ここの生徒会長に会わせなさい。今、すぐに!」
やや高飛車な言葉遣いと、怒ったような剣幕で、その女子は俺に言ってくる。
俺は冷静に対応を続けた。
「生徒会長に?」
「そうよ!あたしは…春城晃。春の城に、よくある『晃』っていう漢字。そう言えばあの人はわかるわ」
「春城晃さんか。どこの高校の人?」
「えっ?」
なぜか春城は目を見開いて驚いていた。
俺と希月は思わず目を合わせる。
他校の生徒会長に会うのは、そんなに簡単なことではない。最低限でも身分は明らかにしなくてはいけない。
春城は少しうろたえた後、俺と希月を鋭く睨んだ。
「ならもういいわ。時間をとらせて悪かったわね!」
春城が不満そうな顔で強くそう言うと、立ち去ろうとしたのか後ろを向く。希月がそれを急いで止めた。
「ちょ、ちょっといいですか?」
「なによ?!」
苛ついているのか、春城は怒鳴るように希月を振り返る。
希月はわかりやすい愛想笑いで、宥めるように言葉を選んでいた。
「いえ、生徒会長にあなたが訪れた事だけなら伝えますので、用件を…」
「結構!会えないなら用はないわ!」
今度こそ、春城は立ち去っていった。希月の顔には、疲労が浮かんでいた。
俺はそんな希月に、同情しながら声をかける。
「お疲れ。それにしても…怪しいな」
「うん。かなり怪しいよ。だいたい、髪の毛って染めていいの?」
「第一高校では厳禁だな。他の高校も大抵はだめだと思うが…」
目立ちすぎるオレンジ色の髪の春城は、もうここからでは見えなくなっていた。
俺は思わず溜め息をつき、独り言のように呟いた。
「とりあえず春城晃のことは、一応生徒会長に伝えておくか」
希月も頷き、春城が立ち去った方を見た。
「そうだね…春城さんは、かなりの厄介ごとを抱えてそうだし」




