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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第二章 『情報部』の夏期休暇
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仄かな予感

希月が取り出したノートの一ページ目には、『古代宝』と書いてあった。その次のページからは、それに関する新聞部の記事の切り抜きが貼ってある。


「ああ。最近騒がれてるそれのことか」


俺が希月のノートを受け取り、パラパラと見ながら呟く。それを聞いた希月は、嬉しそうにしていた。


「やっぱり知ってた?」


知ってた、というよりも。

新聞部にこのネタを提供したのは、情報部だからな…。


その言葉を心の中にしまい込み、俺はノートを希月に返した。


「興味深いとは思った。それより、『古代宝』ってどう読むんだ?」

「こだいほう、じゃない?とりあえず、古代の宝なんだろ」

「そう、そこがおかしいんだよな…」


俺は屋上の柵に寄りかかって、考えを口に出す。


「この土地は人工の島。しかも完成してから百年も経っていない。なのに『古代』っておかしくないか?」


希月が一瞬きょとんとしてから、真剣な顔になり考え込む。おおよそ、この土地が完成してから百年経っていないことを知らなかったのだろう。


「なるほど。…役所の人間あたりが、こっそりと持ち込んだとか?」

「それは…ないと思う。この土地は戦いを行うし、そんな大切な物を置ける環境じゃない。役所に不満をもった生徒が、数回殴りこみに行ったこともあるらしいし」

「凄いことする奴がいるなぁ…。ま、でも、火のない所に煙は立たないって」


希月はノートをカバンにしまい、再びグランドに目をやる。戦闘部や守衛部らしき生徒が、少しずつ現れてきた。


「奏寺も興味はあるんでしょ?」

「まあな。それに割と面白そうだし、その話、乗った」

「よし!じゃあ…」


希月が笑顔で何かを言い掛けたとき、屋上の扉が開いた。俺は扉を開けた人物と目が合った瞬間、大声を出してしまった。


「せ、瀬村(せむら)!」

「あ、奏寺だ。ラッキー」


目の前に現れたのは、あの恐ろしき委員会に属する俺のクラスメートだった。


瀬村俊(せむらしゅん)』。

風紀委員会に所属している一年生の男子生徒。銀縁の眼鏡と整えられた黒い髪、そして女顔のせいで、一見優しそうな青年に見える。

まあ、実際に優しい性格なのは確かだが、自分の気に入らない奴には、一切思いやりを持たない人間でもある。

趣味はチェス。好きな物はコロッケ。嫌いな物はコウモリと情報部…。



…まずいことになったな。



瀬村は屋上の扉から離れずに、懐から風紀委員会の手帳を取り出した。そしてその表紙を俺の方に向ける。


「校則違反の疑惑により、情報部副部長の奏寺に事情聴取を行う。同行を願うよ」


やる気のないような、でもしっかりとした意思を感じさせる声で瀬村はそう言った。しかし、もちろんそんなことを許すわけにはいかない。


「断ります」


そう俺が即答すると、瀬村が不愉快そうな表情になった。

少し重みのある空気の中、俺の横にいた希月は素直に驚いていた。


「え?奏寺って副部長なの?」

「今更なにを…。まあ、一応そうだよ」


少し呆れながらも、俺は逃走方法を考える。


唯一の出口である扉には瀬村がいるし、俺には屋上を囲う柵を越えて、下の階に行く能力もない。というか柵を越えるなんてしたくない。


…しょうがない。

こうなったら、春崎(はるさき)先輩から教えてもらった奥の手を使うか。


「希月。悪いけど、俺は用事できたからもう行く」


俺はそう言って瀬村に近付いた。瀬村は少し驚きながらも、俺の右手首を掴む。そして校内にある風紀委員室へと連行を始め、希月に背を向けた。俺も右手首を引っ張られたため、体の向きを変える。


「ちょ…奏寺?!」


俺が風紀委員会を嫌っていることを知る希月の戸惑った声が、背中から聞こえてきた。俺は振り返り、瀬村にバレないように怪しい笑みを作って見せる。

それを見た希月は今度は呆れたような顔になり、無言で「馬鹿なことはするなよな?」と俺に忠告してきた。





瀬村は俺の右手首を未だに掴みながら、風紀委員室に向かい、先導するように俺の前を歩いていた。


…瀬村が俺より背が高いのが、なんだか少しむかつく。


そのまま無言で二階にまで降り、長い廊下に出る。


さて。ここしかないだろう。


前を見続ける瀬村に、俺は話しかけた。


「お前…実は夏期休暇補習だろ」

「は!?」


動揺した瀬村が、勢いよくこちらを振り返る。その瞬間を狙い、俺は掴まれていない左手で、瀬村の顔を殴るフリをした。

もちろん顔の寸前で拳を止めるものの、瀬村は驚き一瞬怯む。その隙に掴まれた右手首を思いっきり引っ張り、拘束から解放した。


「引っかかったな!」


嬉しさと少しの優越感を感じながら瀬村に言い捨て、開いていた廊下の窓に向かい俺は走りだす。


「ちっ…おい、奏寺!」


恐らく顔を真っ赤にして怒り狂っている瀬村が、俺を追いかけて来ているはずだ。

俺は逃げる時は、基本的に後ろは振り返らない性分なので、詳細はわからないが。


瀬村が俺に追いつく前に、俺は右手を窓枠に置き、そのまま窓を飛び越える。

きっと、身体能力が高い春崎先輩ほどではないが、それなりに良いフォームで校舎から脱出したと思う。


しかし、俺はひとつの誤算をした。


「……!くっ…」


地面に着地した後、強い衝撃に耐えきれず手と膝をつく。


いつもは倉庫の上や、小さな屋根をつたって降りるが、今回の場所にはそんな物が一切なかった。

そのため俺は二階から落りた衝撃を、思いっきり受け止めることになった。さすがに痛みが凄い。


…やはり、窓から逃げる時には、しっかりと計画をたててしないと。



俺は痛みを振り払い、瀬村が来る前に急いで寮へ向かった。





何とか自室に帰れた俺は、とりあえずそこら辺に座り込む。まだ体が若干痛むが、保健委員に診てもらうほどではない。


俺は少しぼうっとしながら、希月の話を思い出した。


『古代宝』か…。


俺は近くにあった封筒に手を伸ばす。中には、香藤部長が集めた情報が書かれた書類がたくさん入っていた。


その中から、『古代宝』の情報が書かれた紙を取り出し、簡単に眺めた。


「…」


やっぱり、変だよな…。


変なのは『古代』が付くこと以外にも、もう一つある。


実はこの噂は、この第一高校以外の高校でも広まっているのだ。

仲が良い第八高校や湖上高校ならまだしも、仲の悪い第三高校や、関わりの薄い高校でもこの噂は流行っている。


というよりこの書類を見た限り、この土地にある全ての高校で、同時期に噂が流れているようだった。



わかんないな…。



俺が悩んでいると、頭を使うのは止めろと言わんばかりに携帯電話が鳴った。


「もしもし」

「あ、奏寺さん。久しぶり」


霧丘(きりおか)か。確かに霧丘と話すのは久しぶりだ。

霧丘は少し嬉しそうに話し出した。


「ねえ、奏寺さん。奏寺さんは夏期休暇は帰省する?」

「いや、ここに残る。霧丘は?」

「私も残る。やっぱり生徒会に属すると帰省は厳しいみたい」


生徒会役員だと帰省は出来ないのか。


ということは、だ。

冷川(ひやかわ)風紀委員長も必ず残るということか。


「そうなのか…厳しいな」

「だよね。それでさ、よかったら…あの、面白い噂があって」

「面白い…噂?」


もしや、と思いながらも話を促す。霧丘の声はなぜか小さくなっていく。


「そう。古代宝っていう宝が、この土地にあるみたいで、それ夏期休暇中に一緒に探してみない?」

「お、おう…」


霧丘の早口に圧倒された俺は、辛うじて相槌をうった。そしてその後、急いで付け足す。


「希月もその宝が気になるって言うから、その時はあいつも一緒にいいか?」


俺がそう言うと、霧丘はなぜか黙り込んだ。少しの間が空いて、霧丘は慌てて口を開く。


「…希月さん?希月さんって、あの木刀の子?」

「そうそう」

「そうだね。あの人なら…うん。三人で探そうか」


霧丘は曖昧な笑いをして、承知してくれた。


…?

何か気になることでもあるのだろうか。



とりあえず、希月も霧丘なら一緒でも良いと言うだろう。


「それにしても霧丘は凄いな。本当に第一高校と湖上高校で友好関係を結んでしまうなんて」

「ふふ、まあ正直なところ、第一高校の保健委員さんのおかげかも。あの人達が結構動いてくれたみたいで」

「そりゃあ、湖上高校の医療技術はレベル高いからな」


このような雑談をしてから、電話を終える。


どうやら俺の夏期休暇は『古代宝』メインになりそうだ。


俺は立ち上がり、窓の外を見た。窓の外には、この寮を守るように植えられている木々が見える。


…この土地に広がる噂の宝探し。

その過程で、他の高校の生徒と抗争にならなければ良いのだが。

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