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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第一章 『情報部』という存在
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ここでひとつ

第二高校の敷地内にいる生徒のほとんどが、一人の男子生徒を見つめていた。

その男子生徒は、何かを掲げているようだった。


俺たちは霧丘の周りに集まり、外の景色を見る。


「あ、あれは…!」

「本気か?!でも、どうして…」


俺と希月も驚き、思わず疑問を口にした。

霧丘が俺の方を向くと、少し嬉しそうにその場で低くジャンプした。


「つまり、第一高校の勝利ってことだよね?」


皆の注目を集めている男子生徒は、綺麗に腕を伸ばし『白旗』を掲げていた。


その男子生徒の名は『池沢緑矢(いけさわりょくや)』。

第二高校の生徒会長だ。


周りの第二高校の生徒でさえも、驚きを隠せずにいるのか、動揺が見られる。


「ど、どうして…」


俺もその光景が信じられなかった。

むしろ心の底から、怒りがこみ上げてくる。


「なんでだよ!第二高校の戦闘員だって頑張って自分の高校のために戦ってるのに!なんで降伏なんて…」

「か、奏寺…?」


希月が驚きながらも心配するような目で俺を見た。俺もすぐ我に返る。


「あ…わ、悪い」


下手な作り笑顔を浮かべて、ごまかす。

希月は少し不思議がっていたが、聞かないでおいてくれた。


その横で、白池先輩がずっと静かにしていたのに気付き、俺はそちらを見る。

そんな俺を見て白池先輩は微笑むと、池沢生徒会長の方を向き、小さな声で話し始めた。


「教えてあげたんだよ。脱走した時に彼に。滝がした仕業をね」

「…それが、例のやりたかったこと?」


窓から少し離れた場所にある椅子に、いつの間にか移動していた霧丘は、真っ直ぐ白池先輩を見て言った。

白池先輩は少し目を細める。


「君だってわかってたんでしょ?滝がやったことは、人の命を奪いかねない、この土地でも禁じられていることだったって」

「…うん。でも私がそれを訴えても、意味ないこともわかっていたから」


希月と俺は、二人の会話に入ることなく池沢生徒会長を見ていた。

希月が独り言のように、ぽつりと言葉を漏らす。


「よかったのかな。あの会長は、これで」


その言葉が俺に向けられていることに気付く。俺は、窓から見える夕焼け空を見上げ、人ごとのように呟いた。


「池沢生徒会長にとっては、よかったんだろ」





次の日には、第一高校の勝利と、第二高校の負けが正式に決まった。


しかしながら、攻め込みをしたのは日曜日なら、その次の日は月曜日。

学生は学校で授業がある日だ。



俺は昨日の疲れのせいか、なかなか朝起きられず、いつもより遅く自分の教室に入った。



…うわぁ…。



『第一高校の勝利』、その快挙にクラスメートはみんな浮き足立って、笑顔を浮かべていた。その中心には暮谷を始めとする、このクラスの戦闘部員がいる。

彼らはクラスメートから色んな質問を受けては、盛り上がっていた。


俺はその雰囲気に混ざることなく、ひとり自分の席に着く。


俺の席は窓側であるため、外や隣の校舎がよく見える。



あ、葉山副会長達だ。


隣の校舎の廊下を葉山副会長が歩いているのが見えた。よく見ると、周りに生徒会役員が大勢いる。


そこにいる生徒会役員は喜びながらも、何ともいえない悲しみを抱えているように見えた。

特に葉山副会長は、笑顔すら悲しみに満ちているようだった。


そんな葉山副会長を見ていられ無くなった俺は、下を向いて携帯電話を取り出す。


携帯電話の画面を見ながら、俺は昨日の夜の出来事を、ふと思い出した。



───それは第二高校が降伏し、戦闘部が池沢生徒会と話し合いをしていたとき。


俺と白池先輩、そして希月は霧丘と別れてから、一足先に寮に向かった。


そして雑談を交えながら歩いていると、人気のない路地から、白池先輩を呼ぶ声がした。

希月が俺たちを守りながらそこに入ると…。なんと、情報部の部長がいた。


「白池…てめえ、なに笑ってやがる」


仁王立ちして腕を組んだ香藤部長が、冷徹な表情と言葉で白池先輩を睨む。

だが香藤部長の言う通り、白池先輩は笑顔だった。


「いやー、久しぶりに勇雅に会えたから、ついね」

「堂々と嘘をつくな。…奏寺、あとでお前の部屋に向かう」

「は…はい」


俺は少し怯えながら、一歩下がる。

明らかに自分がここにいてはならないと悟った希月は、気配を消してこの場を去ろうとしていた。

しかし、香藤部長は見逃さない。


「おい、そこの守衛部」

「は、はいっ!」


怯えた希月が、返事をして香藤部長を見た。香藤部長は当たり前のように希月を強く睨む。


「てめえも…わかっているよな?」

「はいっ!おれは何も見てません!」


こうして、俺たちは別れた。


俺が部屋で待っていると、さっきの雰囲気のまま、香藤部長と白池先輩が来た。


「奏寺、とにかくお疲れだったな」


香藤部長がほんの少しだけ口調を和らげて、俺に言葉をかける。その返事をしようとする前に、また部屋のドアが開いた。


「懐かしいな…。お疲れ様、奏寺に白池」


雪平先輩がにこやかにそう言うと、ドアをきっちり閉めた。白池先輩が嬉しそうに雪平先輩に言葉を返そうとしたとき、今度は窓が開いた。


「白ちゃん…。調子にのると…私も怒るよ」


不機嫌そうな表情と声で、春崎先輩が華麗に部屋に入る。


「よし、全員揃ったな」


香藤部長がそう確認すると、皆の視線が白池先輩に向く。


「ははっ。ははは。ははははは…」


冷や汗をかき、さすがの白池先輩も困った顔をした。そんな白池先輩をちらりと見た香藤部長が、静かに、そして力強く宣言する。


「今から情報部の反省会を行う」





…あの反省会は疲れた。

確か春崎先輩は疲れがピークに達し、途中でリタイアしていたな。




………ん?



なにやら俺の携帯電話が光っていると思ったら、いつのまにかメールが届いていたようだ。

開いてみると、それは霧丘から送られてきたものだった。


メールには昨日の出来事や世間話、夏休みに入ったら遊ぼう等といった内容が、少しまとまりなく書かれている。



そういえば、そろそろ夏休みか。

入学してからもう、約四カ月経つことになる。



その時、鳥が窓のそばから飛び立つ音が聞こえた。


俺は少し驚いて、窓の外を見る。


鳥は見えなかったが、その代わりに空が視界に入ってきた。

今日は雲一つ無い、綺麗な快晴だ。


俺は少しの間、この青空に見入っていた。そのせいか、廊下から俺を呼ぶ声に対する反応が少し遅れた。


「奏寺!」


視線を空から、声がした廊下に向ける。

そこには元気に手招きする希月がいた。


「朝から…何の用なんだ?」


俺は少し苦い顔をして、席を立ち廊下に向かう。


だが、ここでひとつ、あることに気付いた。



いま俺はこの高校に来て、この教室の席に座っている時に、初めて同学年の生徒から名前を呼ばれた。


あの城戸でさえ、クラスまでは来なかったのに。


俺は希月のいる廊下へ歩いていく。しかし驚きは隠せても、喜びを隠すのは失敗したらしい。


俺は自分の表情が、笑顔になっているのがわかった。

ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。

この話にて、第一章は終了します。

第二章では、第一章では書ききれなかった謎…、例えば第一高校の生徒会長と奏寺の関係、などを書きたいと思っています。


ただ、まだ話がしっかりと決まっていないので、少し時間を頂くことになります…。

あと数日後に、登場人物を整理した一覧みたいなものを投稿する予定です。


それではこれからも、どうかよろしくお願いします。

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