辿り着いたその場所に
滝は捕まえた。
あとは、白池先輩を探すだけだ。
「しかし、どこにいるんだ?」
霧丘の撮った写真に写っていたということは、自由に動けるということだろうか?
とりあえず校舎から出た俺たちは、一旦裏門の辺りで立ち止まっていた。
「ねえ、その情報部のひと、本当に第二高校にいるの?」
霧丘が俺に聞いてきた。
そういえば写真の鑑賞会のとき、俺は白池先輩が写っていたことを言わなかったんだった。
「ああ、あの写真鑑賞会で見た写真に写っていたんだ。あの時は言えなかったが」
「え、うそ!滝以外にいたのか?」
希月が驚く。その横で、霧丘が人影が写っていたのを思い出したらしい。納得したような顔をしていた。
「あの笑ってた人?」
「そうだ」
「な、なんで捕まったかもしれないのに、その人は笑ってたの?」
霧丘が少し怯えて聞いてきた。
…そりゃそうだよな。
「あの笑いは情報操作をしている時の笑顔だ。きっと、あの人はこの第二高校で捕まりながら、情報操作をしている」
「情報操作…?」
「な、なにそれ…?」
霧丘と希月は困惑し、俺に解説を求める顔をした。
俺はできる限りの知恵を振り絞り、説明を始める。
「情報操作…。例えば希月、お前は推理が得意だよな?」
「そうでもないけど」
「その推理っていうのは、集めた情報を処理して『結論』を導き出すことだ」
霧丘はふむふむ、と聞いており、希月は「?」を頭に浮かべていた。
「そして情報操作と言うのは、自分が望む『結論』に向け、情報を利用してその過程を作る…そういうことだ」
「なるほど」
霧丘が深く頷く。それを見た希月は少し焦り、理解しようと考え込んでしまった。
霧丘がそれに気付いて、解説を始める。
「つまり…数学で例えるとわかりやすいかな?
希月さんは『式』を与えられて、その『答え』を出すのが得意。
その捕まった情報部員さんは、自分が理想とする『答え』に向けて、『式』を作り出すのが得意ってこと」
「…」
希月が目を少し見開いて頷く。その後、しばらく動きが止まったかと思うと、いきなり大声を出した。
「その人凄いな!」
「私もそう思う」
霧丘も素直に頷いて、希月に同意していた。
そしてそのまま、霧丘は首を傾げる。
「でもその人、今何しているのかな」
「わからない。だから急いで探してしまおう」
俺がそう言い切った時、また電話がかかってきた。
「もしもし」
「奏寺、俺だ。香藤だ」
そういえば今まで香藤部長から電話が無かったな、と思いながら話を進めた。
「どうしました?」
「第二高校の情報を探ったんだが…実は第二高校の寮に、滝の部屋がちゃんと用意されていたんだ」
「え…ずっと第一高校にいたのに、ですか?」
俺が電話中に、希月はこれまでの出来事を簡単に霧丘に説明していた。
香藤部長の声が、再び聞こえてくる。
「そうだ。もしかしたらここに、白池がいるかもしれない。これ以上に条件の良い場所は滅多に無いだろう」
「なるほど…」
「奴の部屋は三階の五号室だ。では、頼む」
俺は目を瞑り、第二高校の全体の地図を思い出した。
確か、寮の場所は…。
「敷地の南西、だな」
俺は目を開き、南西方向を見た。
そこには大きな建物がある。
「あっちだ」
俺が建物を指さすと、希月が頷き走り出した。
寮に向かう途中、何度も戦闘で投げられたと思われる煙幕弾や棒が、流れて飛んできた。
俺と霧丘が思わず目を瞑ったり、動けなくなると、希月はそれらを木刀で弾く。
また飛んでくる物だけでなく、第二高校の生徒と偶然出会うこともあり、戦闘になることもしばしばあった。
「悪いな、希月。疲れてないか?」
俺が声をかけると、希月は余裕そうに笑って答えた。
「物足りないくらいだね」
「それならいいんだが…」
毒が抜けるのが早すぎるのでは?
やはり、湖上高校の医療のレベルは高いということなのか…。
そんなこんなで俺たちは寮に辿り着いた。
希月が目の前の建物を見て、少し考え込む。
「ここ、寮?」
「ああ。そうだ」
「一応、寮には戦闘対象外の一般生徒がいるから…。できるだ見つからないようにしよう」
希月はそう言うと、寮のドアを開けようと取っ手に手をかけた。
しかし鍵が掛かっていたため、全く開かない。希月は残念そうな表情になり、ため息をつく。
「…うわぁ」
「簡単には入れないか…ちょっと待って」
俺は希月にそう言うと、春崎先輩に電話をかけた。
「…もしもし」
「お疲れ様です。奏寺です」
「あら…奏ちゃん。とうしたの?」
春崎先輩の声は、少し低い。
…大分疲れているようだ。
春崎先輩は身体能力は高いが、なぜか体力のみ致命的に低い。
そのため他の部員に比べて、情報収集の活動時間は短くなってしまう。
「教えていただきたいのですが、もう寮には入りました?」
「ええ…。簡単に廊下を見回っただけだけど。…もしかして、さっきの勇ちゃんの情報の?」
「はい」
春崎先輩は少し申し訳なさそうに、話し出した。
「…本来、私が行くべきなんだけど…」
「いえ、春崎先輩は休んでいて下さい。きっと、今いる場所から遠いんでしょう?」
「ええ…。じゃあ…いい経路を教えるわ」
俺は春崎先輩に口頭で経路を教えてもらうと、礼を言って電話を切る。
そして希月たちを先導し、何とか寮の中に入ることができた。
しかし…。
「なんて経路なの…?」
霧丘が息を切らせて、寮の廊下に座り込む。
いつも鍛えているであろう希月さえも、疲れたのか壁に寄りかかっていた。
「ほんとだよ…。木に登ったと思ったら、さらに別の木に跳び移って…。そこでやっと寮の開きっぱなしの窓が見えたと思ったら、距離があるからまた跳んで…」
そこまで言って力尽き、口を閉ざした希月の言葉を俺が引き継いだ。
「やっと窓から入れたと思ったら、そこには廃棄物があって…」
そこまで言うと、溜め息が自然に出た。霧丘に続き、俺も座り込む。
こんな経路を見つけて進む春崎先輩って、いったい…。
数分休むと、一番タフな希月が辺りを見渡した。
「でも、ちょうどここ三階だね」
「そ、そうか。じゃあ早いところ五号室に…」
俺たちは、ゆっくりと前へ進む。偶然にも、五号室は近くにあった。
希月は息を整え、木刀をしっかり持ちドアノブに手をかけた。
そのあと真剣な顔で、俺と霧丘に注意をする。
「何があるかわからないから、奏寺と霧丘さんは少し下がっていて」
「ああ」
「わかった」
少し緊張しながら、言われた通りに俺と霧丘が下がる。
それを確認した希月が、慎重にドアを引いた。
…が。
ドアは開かなかった。
「…鍵だ。鍵がかかってる」
希月が悲しそうな声でそう呟いた。
「…」
「…」
今までの緊張感が、一気に落胆に変わる。
気まずいのか、希月はこちらを振り返らなかった。
さて、どうしたものか。
俺が考え込んでいると、霧丘が希月に声をかけていた。
「えっと…ドラマみたいに体当たりでドアを壊してみたら?」
「あ、ああ。なるほど」
そう言って、希月が勢いをつけるためにドアから少し離れた。
しかし俺はそのやりとりを見て、もっといい方法を思いつく。
「待て、希月。体当たりで壊したら、お前はこの部屋に突っ込んで入ることになる。それは危険だ」
「そ、それはそうだけど」
「いい方法がある。希月はドアのすぐ近くで、木刀を持って構えてくれ」
希月は慌てて、ドアの横に立った。
そして俺は霧丘の方を向く。
「霧丘、ドア開けてみて。ちょっと力を入れて」
「えっ?私の力じゃ無理だよ?」
「やるだけやってみよう。希月、警戒頼む」
俺はそう言うと、ドアを注意して警戒する希月にかわり、周囲の警戒を始めた。
霧丘は不安げな顔でドアノブに手をかけ、思いっ切りドアを引く。
バキッ。
そんな音が、しっかりと聞こえた。
霧丘を見てみると、彼女はドアを丸ごと壁から外していた。
さすが、俺を一撃で気絶させ、さらには男子生徒を背負い投げした霧丘だ。
俺は静かに、霧丘に対して賞賛と少しの恐怖の気持ちを抱く。
霧丘は素直に、ドアが開いたことを喜んでいた。
希月は…口を大きく開けて、呆然としている。
それぞれが思い思いの感情を表していると、部屋の中から笑い声が聞こえた。
「はははっ!これが例の、霧丘さんの実力なんだね」
「あっ…」
その聞き慣れた声に、俺は思わず笑顔になっていた。




