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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第一章 『情報部』という存在
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破滅を願う人

俺と希月は、滝体育委員長と静かに睨み合っていた。



それにしても、この教室は少し変わっているな…。



薬品棚が所狭しと並び、床の上に何の迷いも無く置かれた書籍。

薬品独特の変な香りが、部屋中を漂っていた。


ごく一般的な教室と広さは変わらないはずなのに、それらのせいで、薬品研究部の教室は酷く狭く感じられる。


以前、春崎先輩が侵入に利用したと思われる、唯一開放感を与える窓は、黒いカーテンによりほとんど閉められていた。



そしてこの部屋に似合わない、スポーツマン風の滝体育委員長が、液体の入った霧吹きを手に持つ。


「おい奏寺くん。これ、何か分かるか?」

「…まさか!」


俺は怒りの感情を隠せずに、滝体育委員長…いや、滝を睨む。

滝は首を横に振り、窓の近くにゆっくりと歩いていった。


「これは奏寺くんと第三高校の生徒を苦しめた、あの毒じゃない。あれを改良し、すぐに効くようにしたものだ」


優越感に浸ったような顔で、滝は窓のカーテンを開け、窓も全開にした。


窓から差し込む日の光が、少し眩しい。


「これを、あの戦の中にばらまいたら…どうなると思う?」

「おい!何する気だ!」


怒った希月が恐ろしいスピードで滝に向かって行き、木刀を振りかざした。


「守衛部の希月徳か…」


滝がそう呟くと、躊躇うことなく希月に向かい、毒を霧吹きで撒いた。


毒はそんなに遠くまで飛ばなかったので、少し離れていた俺には届かなかった。

しかし、希月には十分に届いてしまったようだ。


「希月!」

「…ちっ」


希月は怯むことなく滝の手にある毒の霧吹きを、木刀ではじく。

霧吹きは窓の外に落ち、誰もいない地面へと衝突する音がした。


滝は希月と距離を置くため、少し後退する。



しかし…。


「希月!大丈夫か!?」

「ああ…何とか」


真剣な目のまま、敵である滝を睨む希月だったが、次第に咳き込み出す。


「お、おい!」


俺が焦って希月に近寄ろうとすると、希月は「来るな」と、手をこちらに向けて止めた。


「まだ毒が舞っているかもしれないから」


木刀を体の支えにしながら、ついに希月は膝をつく。

その光景に、滝は満足したのか妙に落ち着いていた。



…だが実際、希月が動けないとこちらは不利になりすぎる。

俺が滝に力勝負で勝てるわけがないし…。


滝を見ながら色々考えていると、滝がふと、俺の方を見た。


「なあ奏寺くん…。なぜ俺が犯人だとわかった?」

「希月の推理のおかげだ」

「なるほど」


低い声でそう呟くと、滝が横目で希月を見た。

咳き込みながら、希月は強気で話し出す。


「まずこの事件で、明らかに『情報部』が被害をより受けている。それの始まりは生徒会の依頼からだ。

だからまず、俺は生徒会の人間を疑った」

「ほう…」


俺は黙って、希月と滝を交互に見ていた。

希月がまた口を開く。


「そこからあんたを疑う理由となったのは、依頼の内容だ。

あんたは…情報部に第二高校と第三高校の二つだけ調査を依頼したんだろ?」

「ああ。その二つ以外は、情報部の負担になるから調べなくていいと言ったな」

「確かに俺たちはその二つの高校と仲が特に悪い。

でも安全性を重視するなら、第三高校よりも近くにある第五高校を調べないのは、少し不自然だ」


希月は力を振り絞り立ち上がる。


「安全を考えての依頼なのに、情報部の負担を理由に第五高校を除外する意味…。生徒を守る守衛部の俺には、全く分からなかった」

「ほう…。それだけで俺を疑うか?」

「発案者はお前だろ?」


希月が余りにも苦しそうだったので、俺は希月の制止を破り、肩を貸す。


希月は俺に短く礼を言った。


それを見て滝は微かに笑うと、今度は俺を見て話し出す。



「俺の目的は情報部を壊滅させることだった」

「…は?!」


俺は思わず叫んでしまった。

そんな俺を軽く睨むと、滝は棚に寄りかかり、偉そうな態度でまた話し出す。


「以前、全校集会中に第三高校の奴らが紛れ込んだことがあったよな?」


白池先輩が第一高校で情報操作をした、あの時のことか。


「あ、ああ」

「あの時活躍したのは、情報部だろ?」


滝の言葉に希月が驚く。俺は真偽を問う希月の視線を感じながら頷いた。


「ああ。あれは情報部が大きく関わった。…だが、それがどうした?」

「あの敵を操るような出来事がもし第二高校で行われたら…。そう考えると、寒気しかしないぞ?」

「だから、それを行える情報部を壊滅させようとしたのか?」


俺がそう聞くと、滝は勝ち誇ったような笑顔になった。


「実際、君は居なくなった部員を毒の犯人と疑っただろ?それで、バラバラになるのを楽しみにしていたんだが…」


俺は言葉に詰まった。


と言うことは第三高校での毒事件は、白池先輩を疑わせるためのものだったのか?



俺が動揺していると、滝が「さて」と呟き雰囲気を一変させた。


「お前たち二人は色々と知りすぎた。悪いが、第二高校からは出させない。あの情報部のようにな」


あの情報部。

白池先輩のことか。



滝は希月が戦えないのをいいことに、ゆっくりとこちらに近付いてきた。


俺は希月を後ろの椅子に座らせ、慌てて木刀を手に取る。


その俺の様子が可笑しかったのか、滝は吹き出して笑っていた。


「奏寺くん…君が木刀を持ったところで何ができる?」

「う、うるさい!」


だが、滝の言うとおりだ。

俺は木刀の正しい持ち方すらわからない。



困り果てたその時、ヘッドホンから雪平先輩の声が聞こえた。

小さな声で言っているのか、少々聞き取りづらい。


「奏寺、返事はするな。…話はこちらに筒抜けだった。もう少し耐えろ。応援を送った」


俺は雪平先輩と電話していることを悟られぬように、滝をずっと見続けていた。



だんだん近付いてくる滝は、第一高校で知った思いやりのある滝と、全く重ならない。

どれだけ本当の自分を隠してきたんだ、この人は。



あと三メートル…二メートルと近づき、滝が懐に手を入れた瞬間、後ろから俺を呼ぶ声がした。


「奏寺っ!」

「奏寺さん!」

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