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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第一章 『情報部』という存在
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犯人

日曜日の午後3時。

第一高校と第二高校は、穏やかな時を迎えることはなかった。



「奏寺く…じゃなくて奏寺、それ何?」


希月が俺の持っている、黒色で所々に赤い色が付けられているヘッドホンを指差した。


「小型のマイクが付いた、ヘッドホン型の電話みたいなやつ。これで手を自由にしたまま、情報部員と連絡を取れる」


俺は雪平先輩が作ってくれた、そのヘッドホンを頭に付けた。



間もなく、第二高校に宣告をしてから二時間が経つ。

戦闘部は正面の門の近くで整列をし、志気を高めていた。



そして、城戸に「守衛部が居るなら…」と攻め込み参加の許可を貰った俺たちは、第二高校の裏門の近くに潜んでいる。


希月が小さな声で、俺に話しかけてきた。


「その情報部からの電話って、必要性あるのか?」

「ある。何か困ったときに、最新の情報があるかないかでさえ、勝敗は別れるからな」


香藤部長たちに攻め込みの参加を伝えたとき、情報部は速やかに各自の仕事を決めた。


もちろん俺は現地で攻め込みに参加して、白池先輩を直接探す。


香藤部長は寮の部屋にて、クラッキングやその他様々な方法で集めた情報を俺に伝える。


雪平先輩はボランティアで、攻め込みの医療班の手伝いをしながら、情報を集め俺に流す。


春崎先輩は誰にも見つからないように、ひとりで第二高校に侵入して、白池先輩を探すとともに、俺と情報交換をする。



「…よし」


俺がそう呟くと、早速雪平先輩から連絡が入った。


「奏寺か?今さっき第二高校から宣告への返答が来た。『受けて立つ』だそうだ」

「え、じゃあ…」

「ああ、予定より少し早くなるみたいだ」


電話が切れる音を確認してから、希月を小声で呼んだ。


「予定より早く始まるそうだ」

「了解。もし始まりの合図が聞こえたら、すぐにあの門を突破しよう」


希月が裏門を指差す。

俺は頷いて、承知したことを伝えた。


それから会話することなく、俺達はただただ待っていた。



…静かだな。


音があまり聞こえない。


集中しても、風に揺れる木々の葉の音が聞こえるだけだ。

人の声だとか、機械の音などは全く聞こえてこない。


これが嵐の前の静けさってやつだろうか。



俺が少し注意を緩めていた時、突然空砲が撃たれる音がした。


────開戦の合図だ。



希月は俺より先に立ち上がる。


心なしか、希月は少し楽しそうな顔をしていた。


「行くか!」

「ああ」


希月は勢い良く門に向かい走り出すと、腰に提げていた木刀を手に持った。


そのまま両手で木刀を振りかざし、門を守る南京錠めがけて振り下ろす。


希月に攻撃された南京錠はひび割れ、そのまま地面に叩きつけられた。


「おおっ!」


俺が思わず歓声を上げると、希月が嬉しそうな顔で振り向いた。



実際、希月は凄かった。


俺は剣術に関しては全くの素人だが、その刀を扱う動きがしっかりしていることはわかる。


というか何より、かっこいい。


感動してしまった俺は、素直な感想を述べていた。


「希月…お前、本当は凄いんだな!」

「『本当は』って何だよ…」


その後、希月は木刀を持ったまま、俺の前を走った。

俺が後ろから、行き先を指示する。


「そこの玄関から校舎に入って」

「わかった!」


校舎に入り、俺たちは物陰に一旦隠れた。

ここまで全力疾走したせいか、大量の汗が流れ落ちる。


守衛部の希月も、さすがに疲れているようだった。


「それで奏寺、まずどこを探す?」

「そうだな…」


俺が考え込んだとき、電話がかかってきた。


「もしもし…奏ちゃん?」


電話の相手は俺たちと同じく、第二高校に侵入している春崎先輩からだった。


「お疲れ様です」

「お疲れ…。奏ちゃんは今、どのあたり?」


俺はここに来る前に暗記した、第二高校の地図を思い浮かべた。


「ええっと、西校舎の一階です」

「そう…」


電話先から、紙を広げる音が聞こえる。

どうやら春崎先輩は、第二高校の地図を携帯しているらしい。


「奏ちゃんがいる校舎の最上階の三階の奥…。そこが薬品研究部の教室…」

「あの携帯電話が落ちていたところですか?」

「…そう。ただ今日も警備がいるから、私は近付けない…」

「わかりました。こちらで調べてみます」


電話を終えると、そのあいだ希月が周りに細心の注意を払っていてくれたことに気付く。


俺がそれに驚いてぽかんとしていると、希月がこちらを見た。


「ど、どうしたの?」

「守衛部って、日ごろどんな練習してんだよ…」

「うーん…。基礎的な筋トレもすれば、こういう護衛の為に、鬼ごっこや隠れんぼ…」


希月は次々と、遊びやスポーツの名前を挙げていく。



自分で聞いておいてアレだが、今は時間が無いんだよな…。


少し希月の話に間が出来た隙に、俺は強引に話題を変えた。


「それより、行きたい教室があるんだが…」

「了解。どこ?」

「薬品研究部の教室だ。ただ、警備がいる」


希月は大きく伸びをして、ガッツポーズを決めた。


「問題ないよ。行こう!」

「…希月、お前楽しんでないか?」

「まあね。こんな大仕事初めてだし、ちょっと浮かれてるかも」

「…とりあえず、行くか」


俺たちは再び走り出し、周りに警戒しながら階段を駆け上がる。


「…あ」


階段の踊場にある窓から、戦闘部と第二高校の生徒の戦闘風景が見えた。


俺は、思わず足を止める。



この土地も、もちろん銃や刃物を使っての戦闘は厳禁だ。


そのため、お互いに柔らかい棒や自分の拳などで戦っている。


「うわぁ…。悔しいけどこうしてみると、やっぱり戦闘部って派手だよな」


希月も足を止めて、外を見ていた。


「なんて言うかこう、戦闘って秩序があるものなんだな」


俺はそう呟いた。



戦いというものは人がぐちゃぐちゃして、はたから見たら、わけの分からないものだとばかり思い込んでいた。


だが、実際は違った。



驚く俺を見て、希月が少し顔を曇らせた。


「確かに、一度見てしまうと引き込まれるものだよ。でも、争いごとは決して、良いものとは言えないから」

「…ああ」


俺は視線を階段に戻す。


それに気付いた希月は、黙って最上階に向け再び走り出した。



最上階に着くと、廊下で警備をする三人の生徒達が確認できた。


こちらで戦えるのは希月ただ一人。

そう考えると、大分不利になる。


俺は希月に、どうするか相談しようと思い、希月の方を向く。


しかし希月は笑顔で警備の生徒達を見つめ、大声を出した。


「よし。突破する!」

「は?なにを…」


なにを考えている?と言い切る前に、希月は警備の生徒に向かって疾走した。


「な、なんだ?」

「第一の奴らだ!」


警備の生徒が希月に気付き、警棒を希月に向けて構えた。

しかし希月は、止まるどころかどんどんスピードを上げていく。


「どいて!」


希月がそう叫ぶが、警備達は希月に向かって襲いかかってきた。


三人同時に警棒で希月に叩きかけるが、希月は見事にそれを避け、木刀をまた両手で持った。


「いけっ!」


素早く希月が木刀を操り、敵を廊下の脇に叩きつけた。

警備達が怯んだところで、希月が笑顔で俺に向かい手招きしてくる。


「奏寺!ここだろ?」

「あ、ああ。今行く」


廊下の脇で伸びた警備達に目をやりながら、俺は希月のいる所に辿り着いた。


希月が、薬品研究部の教室のドアに手をかける。



その時だ。




中から、聞き慣れた声が聞こえてきた。



「本当にここまで来てしまうとは…やはり、情報部は脅威だ」


希月がその声を聞き、動揺したのか一瞬ドアから手を放した。


そして、独り言を呟く。


「本当におれの『疑い』は、当たったんだな」


少し寂しそうなその声に、俺も同意する事しか出来なかった。


「…ああ。この毒事件の犯人は、やっぱり…」


俺の言葉と同時に、希月が思い切ってドアを全開にした。



そこには、ひとりでこちらを見て笑っている、短髪で少し筋肉質なあの人がいた。



俺は少し躊躇したが、真実を受け止めるためにも、力強く言い放つ。


「希月の推理通り、やはりあなたが…滝体育委員長が犯人なんですね」

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