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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第一章 『情報部』という存在
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見つけた物と芽生えたモノ

霧丘はゆっくりと話していたものの、だいぶ混乱しているようだった。


「あ、奏寺さん久しぶり、だけど、ごめんなさい。今、少し大変なの」

「お前…今、第二高校の近くにいるだろ?」

「そう。それでつい人を投げちゃって…って、どうしてそれを?」


霧丘が驚き、少し早口になった。



もしかして、さらに混乱させてしまっただろうか?


「それより、お前に投げられちゃった人は?」

「走って校舎に逃げていった」

「なら、お前も逃げた方がいい。援軍が来るかもしれないから」


霧丘は小さな声で「わかった」と言った。

走り出したのか、テンポの早い足音が聞こえる。


「それにしても、何で写真なんか撮ってたんだ?」

「な、何でそこまで…?」

「俺が…情報部だから」


春崎先輩がいることを出来るだけ伏せたいので、てきとうに答える。


霧丘は空気を読んでくれたのか、それ以上追及してこなかった。


「あの毒事件の疑惑の植物が、外から見える範囲に無いか探してて…。その過程で一応写真にも撮っておこうと思ったの」

「なるほど。それで写真にね…」


…うん?写真?


いや、確率は低いが、もし…。


「なあ、それいつから撮ってた?」

「今日は一時間前から。昨日は…いつだっけ?」

「今からお前のところに行くから、それ見せてくれないか?」


俺が少し必死になって頼むと、霧丘が少し動揺する。しかしすぐに落ち着いてくれて、普段通りに話し出した。


「えっ、いいけど。…それなら、私が第一高校行ってもいい?」

「俺は構わないが…いいのか?」

「うん!」


心なしか、霧丘は少し嬉しそうだった。


その理由がわからない俺は、とりあえず話を進めた。


「じゃあ校門で待ってるから、よろしくな」

「うん、任せて」


電話を切ると、全員の視線がこちらに向く。

何か言われる前に、俺は先に事情を話すことにした。


「例の湖上高校の生徒か…なるほどねぇ」


式条会長が俺の説明を聞き、何か納得したような笑みを浮かべる。


冷川風紀委員長がそんな式条会長を不審な目で見ながら、話しかけた。


「何ニヤついているんだ?」

「いやぁ、湖上高校がうちに関わってくる理由が、何となくわかったからねぇ」


そんな先輩たちの会話に少し耳を傾けながら、俺は校門へ向かい走り出した。






校門に着いて十数分ほど経ったとき、走ってくる霧丘が目に入る。



霧丘は湖上高校の制服である、薄紫色を基調としたセーラー服を着ていた。


第一高校周辺の学校の制服はほとんどブレザーであるため、その格好はかなり浮いている。



きっと第二高校周辺でも、浮いていたんだろうな…。



俺が呆れていると、霧丘が笑顔で手を振ってきた。


「奏寺さん!」


少しスピードを緩めながら、霧丘は俺の目の前でぴたりと止まる。


「元気そうだな」

「うん。奏寺さんこそ」


霧丘は制服の胸のポケットから、手帳のようなものを俺に差し出してきた。


見たかぎり、どうやらこれは霧丘の生徒手帳のようだ。


「よその高校の者が入るなら、許可をとらなきゃいけないんだよね?」

「ああ。じゃあ直々に会長のところに、許可もらいに行くぞ」


そう言って霧丘を音楽室まで案内する。


音楽室に行く途中、霧丘は廊下にあったある教室の看板を指差した。


「奏寺さん、生徒会室ってここじゃないの?」


俺は霧丘が指差した方向に目を向け、軽く頷いてから簡単に説明をした。


「ああ。会長は今、音楽室にいるから」

「音楽室…?第一高校ってそんなものあるんだ」


意外そうな顔をして、霧丘は納得した。



…やはり音楽室なんて、普通このあたりの高校じゃ無いよな…。


そんなことをぶつぶつ考えていると、あっという間に音楽室に着いた。


一応ノックをしてから入ると、皆の視線が俺の後ろにいる霧丘に向く。


「失礼します」


霧丘はその視線に臆することなく、堂々と笑顔で教室に入った。


「式条会長、この人が以前話した湖上高校の霧丘です」


俺が紹介をすると、式条会長と霧丘がお互いに礼をして、何か色々と話しを始めた。



二人の雰囲気はいつもと違い、なんというか大人っぽかった。

何というか『社交界』という文字が頭に浮かぶ。


さすがは生徒会の人間だ。



希月達も少し驚いているのか、誰も口を開こうとはしない。



式条会長が話の区切りを見計らい、話題を思い切り変えた。


「霧丘さん、あなたの目的はやはり『友好関係』ですよね」

「ふふ、はい。すぐにはとは言いませんが、ご検討してくださることを、期待します」


霧丘が目を細めて笑う。


二人のやりとりに見入っていた俺の肩を、希月が叩いてきた。


「奏寺くん、友好関係っていったい…?」

「学校と学校が結ぶ約束の一つだ。友好関係を結ぶと、お互いに攻め込むことは不可能になり、あらゆる面で助け合うことが約束される」

「つまり、第一高校と第八高校みたいな関係ってことか」


希月が納得して、再び式条会長と霧丘を見た。


以前起きた第三高校の警報装置のコードが切られた件では、その第八高校も切られたという理由により、第一高校は疑われずに済んだ。


それも、友好関係を結んでいたためである。



そのあと霧丘は、音楽室にあったテレビにカメラを繋ぎ始める。


写真をテレビ画面に出力すると、霧丘が俺の隣に来て、意味もなく小さな声で話しかけてきた。


「昨日の分もこのカメラに入っているから、安心して」

「あ、ああ。ありがとう」


こうして、第二高校の写真の鑑賞会が急遽始まった。



そのほとんどは、校舎の周りに植えてある花が写されたものだった。しかもそれは敷地の外から撮った写真ということもあり、凄く小さい。


「第二高校って、本当に植物だけは良いわよね」


城戸がそう呟くと、式条会長が笑顔で頷いた。


「そうだねぇ。第一高校にも自然がほしいところだよ」


なぜか少し和やかな会話が始まった。


しかし第一高校の五人の目は、犯人が偶然に写っていないかを細かくチェックしていた。


先ほど事情を知った霧丘も、人影だけは探しているようだった。



そして映し出された写真が三十枚を超えたとき、俺は思わず声を上げそうになる。



────校舎がわりと大きく映っている写真。


その校舎にある窓から、建物の中がよく見えた。



この写真を見て、冷川風紀委員長がぼそりと式条会長に言った。


「おい、誰かいるぞ」


式条会長が注意深く写真を見つめる。だが、首を傾げて冷川風紀委員長に聞き返した。


「どこに?」

「窓から覗ける、廊下のところだ」


全員がそこに注目した。

霧丘が少し怯えた小声で呟いた。


「この人…こっち見て笑ってる?」


霧丘の言うとおり、写真に写った人影はカメラ目線で微笑んでいるように見える。




小さくてもよくわかる、爽やかで楽しそうな笑顔。


あれは…間違いない。




白池先輩だ。




…なるほどな。



俺はその笑顔から、あることを察した。


「とりあえず次の写真を見てみましょう」


俺がそう言うと、霧丘が慌てて次の写真を映し出す。


次に映し出された写真には、先ほどの人影の近くにもう一人、新たな人物が写ったいた。


「あっ!」


それを見た希月と城戸が立ち上がり、同時に叫ぶ。


冷川風紀委員長は目を見開き、式条会長は静かに目を閉じた。


その状況を見て察した霧丘が俺を見て、静かに聞く。


「写真に写っている片方の人…あの人が『犯人』なんだ?」

「ああ…。これで、証拠は揃った」


俺が式条会長に目を向ける。


式条会長はゆっくりと目を開き、真面目な顔で、力強く言い放った。


「第一高校は今すぐに、第二高校へ攻め込みの宣告を行う!」




その後の第一高校は慌ただしいの一言だった。


特に生徒会と戦闘部からは、怒鳴り声のようなものまで飛び交っていた。


城戸も策略担当の仲間達と混じり、最後まで作戦のチェックに当たっている。

式条会長は冷川風紀委員長に怒られながら、忙しそうに歩き回っていた。



しかし、俺が出きることは証拠の提出までだ。


ここからは、何も出来ない。



唯一静かな屋上に寝転がり、ひとりで空を見ながら俺は溜め息をつく。


その時、どこからか声が聞こえてきた。


「奏寺くん、暇そうだね」


俺は体を起こし、声のした方を探す。


「希月か」


希月は少し微笑んで、腰に手を当てた。


「霧丘さんを駅まで送ってきたよ。奏寺くんが送った方が、彼女は喜んだんじゃない?」

「なんでだよ。守衛部の方が確実に安全だろう?」

「はぁ…。わかってないなぁ…」


希月がわざとらしく溜め息をついた。



…何が言いたいんだ、こいつは。


俺はそのまま立ち上がり、校庭を眺めた。


「皆忙しそうだな…」

「うん。他校に攻め込むのなんて、今年の一年は初めてだし」

「おい希月。そういうお前は準備しなくて良いのか?」


俺が聞くと、希月も校庭を見ながら薄ら笑いをした。


「守衛部は生徒を守る部活だから。攻め込みには、あまり必要とされないんだ」

「なるほど」

「というか奏寺くんこそ、攻め込みに参加して、いなくなった部員を探さなくて良いのか?」

「そんなことできるか。俺は戦闘力がないから、足手まといになる。だから行けない」


少し俯きながら、俺は答えた。

その数秒後、希月が声を上げて笑い出した。


あまりにも突然だったため、俺は思わず一歩引いていた。


「な、なんだよ希月…」

「ああ、いや。ごめん。奏寺くんって頭良さそうに見えて、ダメなところはダメだよね」

「何言ってんだよ…」


話が読めない俺は、半分困惑し、半分呆れていた。


それに気付いた希月が、笑顔で自分を指差した。


「では奏寺くん、ここにいる守衛部を使ったら?」

「…は?」

「君の身を守る守衛部がいるなら、戦場でもそんなに足手まといにはならないと思うよ」

「…!だ、だが」


躊躇う俺に、希月は隠し持っていた木刀を見せた。


「自分で言うのもアレだけど、おれの木刀の腕はそこそこだから安心して。それに奏寺くんがいた方が、部員探しは楽だろうし」

「有り難い話だが…」


俺は、一呼吸置いて希月を見た。


「なぜ、そんなことを自分から提案する?もしかしてお人好しってやつか?」


俺が真剣に聞くと、今度は希月が呆れだした。


「お、おい。酷いな。おれは友だちを思って言ってやってるのに」

「お前の…友だち?俺が?」


驚き過ぎて、若干声が裏返る。

希月がそれに気付いて、吹き出した。


「そんなに驚くことか?!」


希月は笑いながらそう言うと、右手を差し出してきた。


「さあ奏寺くん。この提案に乗っとく?」



まさか、こんな展開になるとは。


だが、希月は…。


「良い奴だな…」


下を向き、誰にも聞き取れないほど小さな声で俺は呟いた。


そして笑顔で顔を上げ、俺も右手を差し出す。


「ああ、頼んだ」

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