見つけた物と芽生えたモノ
霧丘はゆっくりと話していたものの、だいぶ混乱しているようだった。
「あ、奏寺さん久しぶり、だけど、ごめんなさい。今、少し大変なの」
「お前…今、第二高校の近くにいるだろ?」
「そう。それでつい人を投げちゃって…って、どうしてそれを?」
霧丘が驚き、少し早口になった。
もしかして、さらに混乱させてしまっただろうか?
「それより、お前に投げられちゃった人は?」
「走って校舎に逃げていった」
「なら、お前も逃げた方がいい。援軍が来るかもしれないから」
霧丘は小さな声で「わかった」と言った。
走り出したのか、テンポの早い足音が聞こえる。
「それにしても、何で写真なんか撮ってたんだ?」
「な、何でそこまで…?」
「俺が…情報部だから」
春崎先輩がいることを出来るだけ伏せたいので、てきとうに答える。
霧丘は空気を読んでくれたのか、それ以上追及してこなかった。
「あの毒事件の疑惑の植物が、外から見える範囲に無いか探してて…。その過程で一応写真にも撮っておこうと思ったの」
「なるほど。それで写真にね…」
…うん?写真?
いや、確率は低いが、もし…。
「なあ、それいつから撮ってた?」
「今日は一時間前から。昨日は…いつだっけ?」
「今からお前のところに行くから、それ見せてくれないか?」
俺が少し必死になって頼むと、霧丘が少し動揺する。しかしすぐに落ち着いてくれて、普段通りに話し出した。
「えっ、いいけど。…それなら、私が第一高校行ってもいい?」
「俺は構わないが…いいのか?」
「うん!」
心なしか、霧丘は少し嬉しそうだった。
その理由がわからない俺は、とりあえず話を進めた。
「じゃあ校門で待ってるから、よろしくな」
「うん、任せて」
電話を切ると、全員の視線がこちらに向く。
何か言われる前に、俺は先に事情を話すことにした。
「例の湖上高校の生徒か…なるほどねぇ」
式条会長が俺の説明を聞き、何か納得したような笑みを浮かべる。
冷川風紀委員長がそんな式条会長を不審な目で見ながら、話しかけた。
「何ニヤついているんだ?」
「いやぁ、湖上高校がうちに関わってくる理由が、何となくわかったからねぇ」
そんな先輩たちの会話に少し耳を傾けながら、俺は校門へ向かい走り出した。
校門に着いて十数分ほど経ったとき、走ってくる霧丘が目に入る。
霧丘は湖上高校の制服である、薄紫色を基調としたセーラー服を着ていた。
第一高校周辺の学校の制服はほとんどブレザーであるため、その格好はかなり浮いている。
きっと第二高校周辺でも、浮いていたんだろうな…。
俺が呆れていると、霧丘が笑顔で手を振ってきた。
「奏寺さん!」
少しスピードを緩めながら、霧丘は俺の目の前でぴたりと止まる。
「元気そうだな」
「うん。奏寺さんこそ」
霧丘は制服の胸のポケットから、手帳のようなものを俺に差し出してきた。
見たかぎり、どうやらこれは霧丘の生徒手帳のようだ。
「よその高校の者が入るなら、許可をとらなきゃいけないんだよね?」
「ああ。じゃあ直々に会長のところに、許可もらいに行くぞ」
そう言って霧丘を音楽室まで案内する。
音楽室に行く途中、霧丘は廊下にあったある教室の看板を指差した。
「奏寺さん、生徒会室ってここじゃないの?」
俺は霧丘が指差した方向に目を向け、軽く頷いてから簡単に説明をした。
「ああ。会長は今、音楽室にいるから」
「音楽室…?第一高校ってそんなものあるんだ」
意外そうな顔をして、霧丘は納得した。
…やはり音楽室なんて、普通このあたりの高校じゃ無いよな…。
そんなことをぶつぶつ考えていると、あっという間に音楽室に着いた。
一応ノックをしてから入ると、皆の視線が俺の後ろにいる霧丘に向く。
「失礼します」
霧丘はその視線に臆することなく、堂々と笑顔で教室に入った。
「式条会長、この人が以前話した湖上高校の霧丘です」
俺が紹介をすると、式条会長と霧丘がお互いに礼をして、何か色々と話しを始めた。
二人の雰囲気はいつもと違い、なんというか大人っぽかった。
何というか『社交界』という文字が頭に浮かぶ。
さすがは生徒会の人間だ。
希月達も少し驚いているのか、誰も口を開こうとはしない。
式条会長が話の区切りを見計らい、話題を思い切り変えた。
「霧丘さん、あなたの目的はやはり『友好関係』ですよね」
「ふふ、はい。すぐにはとは言いませんが、ご検討してくださることを、期待します」
霧丘が目を細めて笑う。
二人のやりとりに見入っていた俺の肩を、希月が叩いてきた。
「奏寺くん、友好関係っていったい…?」
「学校と学校が結ぶ約束の一つだ。友好関係を結ぶと、お互いに攻め込むことは不可能になり、あらゆる面で助け合うことが約束される」
「つまり、第一高校と第八高校みたいな関係ってことか」
希月が納得して、再び式条会長と霧丘を見た。
以前起きた第三高校の警報装置のコードが切られた件では、その第八高校も切られたという理由により、第一高校は疑われずに済んだ。
それも、友好関係を結んでいたためである。
そのあと霧丘は、音楽室にあったテレビにカメラを繋ぎ始める。
写真をテレビ画面に出力すると、霧丘が俺の隣に来て、意味もなく小さな声で話しかけてきた。
「昨日の分もこのカメラに入っているから、安心して」
「あ、ああ。ありがとう」
こうして、第二高校の写真の鑑賞会が急遽始まった。
そのほとんどは、校舎の周りに植えてある花が写されたものだった。しかもそれは敷地の外から撮った写真ということもあり、凄く小さい。
「第二高校って、本当に植物だけは良いわよね」
城戸がそう呟くと、式条会長が笑顔で頷いた。
「そうだねぇ。第一高校にも自然がほしいところだよ」
なぜか少し和やかな会話が始まった。
しかし第一高校の五人の目は、犯人が偶然に写っていないかを細かくチェックしていた。
先ほど事情を知った霧丘も、人影だけは探しているようだった。
そして映し出された写真が三十枚を超えたとき、俺は思わず声を上げそうになる。
────校舎がわりと大きく映っている写真。
その校舎にある窓から、建物の中がよく見えた。
この写真を見て、冷川風紀委員長がぼそりと式条会長に言った。
「おい、誰かいるぞ」
式条会長が注意深く写真を見つめる。だが、首を傾げて冷川風紀委員長に聞き返した。
「どこに?」
「窓から覗ける、廊下のところだ」
全員がそこに注目した。
霧丘が少し怯えた小声で呟いた。
「この人…こっち見て笑ってる?」
霧丘の言うとおり、写真に写った人影はカメラ目線で微笑んでいるように見える。
小さくてもよくわかる、爽やかで楽しそうな笑顔。
あれは…間違いない。
白池先輩だ。
…なるほどな。
俺はその笑顔から、あることを察した。
「とりあえず次の写真を見てみましょう」
俺がそう言うと、霧丘が慌てて次の写真を映し出す。
次に映し出された写真には、先ほどの人影の近くにもう一人、新たな人物が写ったいた。
「あっ!」
それを見た希月と城戸が立ち上がり、同時に叫ぶ。
冷川風紀委員長は目を見開き、式条会長は静かに目を閉じた。
その状況を見て察した霧丘が俺を見て、静かに聞く。
「写真に写っている片方の人…あの人が『犯人』なんだ?」
「ああ…。これで、証拠は揃った」
俺が式条会長に目を向ける。
式条会長はゆっくりと目を開き、真面目な顔で、力強く言い放った。
「第一高校は今すぐに、第二高校へ攻め込みの宣告を行う!」
その後の第一高校は慌ただしいの一言だった。
特に生徒会と戦闘部からは、怒鳴り声のようなものまで飛び交っていた。
城戸も策略担当の仲間達と混じり、最後まで作戦のチェックに当たっている。
式条会長は冷川風紀委員長に怒られながら、忙しそうに歩き回っていた。
しかし、俺が出きることは証拠の提出までだ。
ここからは、何も出来ない。
唯一静かな屋上に寝転がり、ひとりで空を見ながら俺は溜め息をつく。
その時、どこからか声が聞こえてきた。
「奏寺くん、暇そうだね」
俺は体を起こし、声のした方を探す。
「希月か」
希月は少し微笑んで、腰に手を当てた。
「霧丘さんを駅まで送ってきたよ。奏寺くんが送った方が、彼女は喜んだんじゃない?」
「なんでだよ。守衛部の方が確実に安全だろう?」
「はぁ…。わかってないなぁ…」
希月がわざとらしく溜め息をついた。
…何が言いたいんだ、こいつは。
俺はそのまま立ち上がり、校庭を眺めた。
「皆忙しそうだな…」
「うん。他校に攻め込むのなんて、今年の一年は初めてだし」
「おい希月。そういうお前は準備しなくて良いのか?」
俺が聞くと、希月も校庭を見ながら薄ら笑いをした。
「守衛部は生徒を守る部活だから。攻め込みには、あまり必要とされないんだ」
「なるほど」
「というか奏寺くんこそ、攻め込みに参加して、いなくなった部員を探さなくて良いのか?」
「そんなことできるか。俺は戦闘力がないから、足手まといになる。だから行けない」
少し俯きながら、俺は答えた。
その数秒後、希月が声を上げて笑い出した。
あまりにも突然だったため、俺は思わず一歩引いていた。
「な、なんだよ希月…」
「ああ、いや。ごめん。奏寺くんって頭良さそうに見えて、ダメなところはダメだよね」
「何言ってんだよ…」
話が読めない俺は、半分困惑し、半分呆れていた。
それに気付いた希月が、笑顔で自分を指差した。
「では奏寺くん、ここにいる守衛部を使ったら?」
「…は?」
「君の身を守る守衛部がいるなら、戦場でもそんなに足手まといにはならないと思うよ」
「…!だ、だが」
躊躇う俺に、希月は隠し持っていた木刀を見せた。
「自分で言うのもアレだけど、おれの木刀の腕はそこそこだから安心して。それに奏寺くんがいた方が、部員探しは楽だろうし」
「有り難い話だが…」
俺は、一呼吸置いて希月を見た。
「なぜ、そんなことを自分から提案する?もしかしてお人好しってやつか?」
俺が真剣に聞くと、今度は希月が呆れだした。
「お、おい。酷いな。おれは友だちを思って言ってやってるのに」
「お前の…友だち?俺が?」
驚き過ぎて、若干声が裏返る。
希月がそれに気付いて、吹き出した。
「そんなに驚くことか?!」
希月は笑いながらそう言うと、右手を差し出してきた。
「さあ奏寺くん。この提案に乗っとく?」
まさか、こんな展開になるとは。
だが、希月は…。
「良い奴だな…」
下を向き、誰にも聞き取れないほど小さな声で俺は呟いた。
そして笑顔で顔を上げ、俺も右手を差し出す。
「ああ、頼んだ」




