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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第一章 『情報部』という存在
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証拠

空がすっかり真っ暗になったころ、俺と希月、城戸は寮の入り口に着いた。


城戸とまず別れ、希月に俺が正面から寮に入れない理由を述べて、別れる。


俺はひとりで寮の部屋に戻り、急いで香藤部長に電話をかけた。



「香藤部長、お願いがあります!春崎先輩と雪平先輩って、今どうしてます?」



あまりにも勢いよく聞き過ぎたせいか、珍しく香藤部長が怯んでいた。



「か、奏寺、落ち着け。何があった?」

「あ、すみません」


生徒会室の出来事に捕らわれ、俺は少し取り乱してしまったようだ。


いけないいけない。


「実は城戸と希月、式条会長と冷川風紀委員長と話したんですが…」


俺は生徒会室で希月が語った推理と、犯人の疑いがある生徒、つまり『容疑者』について調べてほしいことを伝えた。


途中一切口を挟まなかった香藤部長は、俺が話し終えると、少し笑った。


「話は分かった。…それにしても、どうしたんだ?今までお前は冷川のことを、裏では呼び捨てにしてたじゃねえか」

「あははっ、ちょっと見直しましたので。それでもまだ風紀委員は怖いですけど」

「まあ、そこは別に良いだろう。とりあえずお前はもう休め。後は俺たちが調べておく」


そう言って、香藤部長は電話を切った。多分、俺を早く休ませるためだろう。



ここはお言葉に甘えてしまうか。


今思い出したが、俺は病み上がりだったんだ。






「おはよう…ございます」


次の日の朝、俺は午前六時から訪ねてきた情報部の先輩達を、眠い目を擦りながら部屋に案内する。



…日曜日なんだから、もう少し遅くてもいいのに…。



大きな欠伸をしたあと、香藤部長と春崎先輩と雪平先輩にお茶を出す。


そんな俺を横目で見て、雪平先輩が心配そうに話しかけてきた。


「奏寺、体調はもう平気か?」

「はい。お陰様で…」


半分、夢の世界にいるような思考で俺は返事をした。


最近この時間でも寝ていることが多かったせいか、なかなか頭がはっきりしない。



俺が座布団の上に座ると、さっそく香藤部長が話を始める。


「よし、じゃあ昨日の成果を報告する。俺がクラッキングで得た情報は、これだ。…これがこの第一高校の中枢にあったデータだ」


そう言いながら、香藤部長はノートパソコンを開く。

手早くパソコンを立ち上げると、デスクトップから一つのファイルを選択し、中にある『個人情報』と書かれたデータをクリックした。



…それより、中枢のデータってそんな簡単にとれるものなのか?


俺が心の中で疑問に思っていると、画面が大きく変わっていた。


そこにはびっしりと、生徒の名前や様々な個人情報が載っている。


それを見た雪平先輩が、顔をひきつらせながらぼそりと呟いた。


「これほどの個人情報…。さすがにこう、罪悪感が芽生えるな」

「た、確かにそうですね」


俺もそれに同感したが、春崎先輩は全く動揺していなかった。


やはり受付をしている俺や、校内で聞き込むことで情報を入手する雪平先輩に比べ、二人はこういう物を見慣れているのだろう。



静まり返るなか、香藤部長が画面の下の箇所を軽く指差した。


「これだ」


俺たちが画面を覗くと、容疑者の学年の生徒名一覧が出てきた。

一つ一つ全員で該当する名前を探すが、容疑者の名前は見つからなかった。


全員が思わず香藤部長を見ると、部長は小さく頷いてから話し出した。


「ああ。つまりあいつは第一高校のデータ上、いない」

「でも、なぜバレなかったんですね?だって『彼』は…」


俺が言葉を言いかけたところで、春崎先輩が様々な大きさの紙を取り出した。


「…犯人かもしれない『彼』は、地味に頑張っていたみたい…。その中枢のデータ以外の全ての文書が偽装されている…」


春崎先輩から受け取った座席表や、成績一覧表などには『彼』の名前が載っていた。


「ちなみに……勇ちゃんお願い」


そう言いながら春崎先輩が香藤部長をちらりと見た。


いつも通りの固い表情で、香藤部長がまた別のデータを開く。


「これが、容疑者のクラスの担任が管理しているデータだ」


見せられたそのデータはテストの結果なのか、様々な教科の点数と共に生徒の氏名が書かれていた。


そしてその中には…。


「あ、ここにも名前がある!」


俺が思わず叫んでしまった。



中枢のデータには容疑者の名前は無い。

だが、担任が持つデータなどからは名前が見つかる。



どうしてだ?と俺が悩んでいると、雪平先輩が納得したような顔をした。


「なるほど。犯人はその中枢のデータには、さすがに手を付けられなかった。だが、この担任教師のデータには干渉出来たのか!」

「おお、なるほど…?」


俺が曖昧な相づちを打つと、春崎先輩が説明をしてくれた。


「中枢のデータって言うのは、とても大切な情報が集まっているの…。

…だから中枢のデータが入っているコンピューターや、データを守るセキュリティーのレベルは高いの。

けどクラスの担任教師程度が持つコンピューターやデータのセキュリティーなら、ある程度レベルが下がる…」

「つ、つまり犯人はセキュリティーレベルの低い担任教師のデータのみ、いじれたって事ですか?」

「…ええ、そういうこと」


俺は何かを記憶する事は得意だが、代わりに物事を理解する事が少し苦手だ。


ゆっくりと理解を進めている俺の横で、雪平先輩と香藤部長が話をしていた。


「だが香藤、中枢データは正しいのに、どうしてバレなかったんだ?」

「多分学校側は、中枢のデータを大切にし過ぎて、あまり触られることがなかったのだろう。この中枢のデータの最終閲覧日は一年以上前だ」


ううむ。

とりあえず、あれだ。


中枢のデータを盗める香藤部長は凄い、ということか。


…いや。頑張って理解しよう。



とりあえず自分の中でまとめ、話を進めた。


「えーと、じゃあ犯人は担任教師がもつ情報をいじり、第一高校の生徒になりすましていた。

だから、犯人の名前が無いこの中枢のデータを、証拠として見せればいいんですかね」


俺が聞くと、香藤部長が少し呆れた顔になった。


「馬鹿かお前は。自分の学校の中枢のデータを盗み見た事がバレたら、さすがに問題になるぞ」

「…そうですよね」


俺は苦笑いしながら、春崎先輩の持ってきてくれた資料だけを預かる。


「じゃあ会長に上手く言って、自らの目で中枢のデータを見てきてもらいますよ」

「ああ。会長ならそれくらい可能だろうからな」


雪平先輩が頷いてくれた。



俺は忘れない内に携帯電話を取り出し、式条会長に電話をかける。


理由を話すと、式条会長は若干面倒くさそうだったが、了解してくれた。



…しかし、これで犯人はあの人になってしまうのか。


なんというか少し、悲しい。



俺が複雑な思いでいると、香藤部長がまた一つ、違うデータを見せてくれた。


「ちなみに、犯人の名前は第二高校のデータにあったぞ」

「本当ですか?…あ、でもその情報って…」

「クラッキング情報だ」


春崎先輩が溜め息を着いた。


「やはり犯人が第二高校という証拠を、第一高校から入手するのは難しいかも…」

「だな」


雪平先輩も苦い顔になってしまった。


よく見ると先輩達の表情は、悔しさと申し訳無さに満ちていた。



いやいやいやいや!


俺は慌てて、先輩達に声をかけた。


「なんて顔しているんですか!こんな凄い情報集めたんですから、ここは喜んでいきましょうよ!」


わざといつもより明るく言うと、先輩達は俯いてしまった。



うっ、余計なことしたか?



焦りながら次の言葉を考えていると、香藤部長の方から、変な声が聞こえた。


「くくっ…」


それに続くように、雪平先輩や春崎先輩からも声が聞こえた。


「ふっ…」

「ふふ…」


ようやく真意に気付いた俺は、肩を落として溜め息をつく。


「人の励ましで笑わないでくださいよ…」

「わ、悪い…あまりにもわざとらしくてな」


香藤部長が、笑った顔を手で隠しながら謝ってきた。

雪平先輩は豪快に笑い出し、春崎先輩は静かに笑っていた。


「あ、春崎先輩が笑顔になってる!珍しい!」


俺がそう言うと、春崎先輩は笑顔のまま驚いていた。


「そ…そんなに珍しいこと?」

「そういえば、あまり見ないな」


雪平先輩も笑いを引きずりながら、同意した。春崎先輩が顔を赤らめて少し困りだす。


「ゆ、雪ちゃんまで…」


先輩達はもう暗い顔などしていない。


少し安心して、俺も少し微笑んだ。



けど、白池先輩が居てくれたら、もっと明るくなれただろうな…



少し暗いことを考えていると、春崎先輩が立ち上がっていた。


「もう七時ね…。一応、私は第二高校の周辺に行ってみる…。何かあったら連絡ちょうだい」

「ああ。頼む、春崎」


香藤部長の言葉に、春崎先輩が頷いて答える。

そして鮮やかに俺の部屋の窓から出て行き、音を立てることなく消えていった。


ちなみに俺の窓からの逃走術は、春崎先輩から直々に教えてもらったものだ。


「よし、俺たちも頑張って証拠探すか!」


雪平先輩が元気よくそう言って、部屋を出ようとした。


その時、俺の携帯電話に着信が入る。


「もしもし」

「ああ、情報部か?冷川だ」


つい癖で電話を切りそうになるが、なんとか抑えた。


危ない危ない…。


俺が風紀委員への反射的な行動であたふたしていると、冷川風紀委員長は構わず用件を話し出した。


「お前の言ったとおり、中枢のデータには奴の名前はなかった。これは一つの証拠として受け取っておく」

「あ、お願いします。でも、なぜ冷川風紀委員長がその連絡を?」


ごもっともな質問を冷川風紀委員長にぶつけると、不機嫌な声で返事が来た。


「式条はもう攻め込みの手続きを始めている。そのせいで報告を俺に押し付けてきたんだ」

「ああ…」


余計な事を言って、冷川風紀委員長の怒りの矛先を、こちらに向けられるのはごめんだ。


そう思い、急いで電話を切ろうとするが、冷川風紀委員長はまだ言葉を続けた。


「それで、第二高校にいるという証拠はあったか?」

「いえ…。でも、第二高校に彼のデータがあるのは確かなんですが」

「だか、どうせ潜入かなんかで得たものだろう?」

「はい」


冷川風紀委員長の溜め息が、こちらまではっきりと聞こえてきた。


それどころか、近くにいた雪平先輩と香藤部長にまで聞こえていたらしい。

雪平先輩は苦笑いをしており、香藤部長は頭を抱えていた。


「す、すみません…」

「…まあ、第二高校というのが間違いではないなら、最悪どうにかする。だが、ギリギリまで証拠は探しておいてくれ」

「はい」


冷川風紀委員長は「頼んだ」とだけ言い残し、電話を切った。


その直後、俺はどっと疲れが出て、冷川風紀委員長並みの大きな溜め息をついてしまった。


「はあ…」

「お疲れだな、奏寺」


雪平先輩が俺の肩を軽く叩いた。




その後、香藤部長と雪平先輩は、証拠を探しを再開した。


俺と城戸と希月は式条会長に呼び出され、音楽室に集まる。



席に座りながら音楽室の中を見渡す城戸が、疑問を口にした。


「何で音楽室に集合なのかしら?」

「多分、生徒会室だと犯人に会う可能性があるからだろ。音楽室なんて、存在すら知らない人が多いだろうし」


俺も音楽室を見渡しながら答えた。


ひとり教室内を歩き回り、楽器を間近で見ていた希月が、ひょいと俺を見た。


「実はおれ、音楽室があるなんて知らなかった。奏寺くんが知っていて良かったって思ったし」

「あ、私も知らなかったから、それ思った」

珍しく希月と城戸が和やかに会話していた。


この穏やかな雰囲気が、続いてくれれば良いんだが…。


それを崩すかのように教室のドアが開き、式条会長と冷川風紀委員長が入ってきた。


希月が慌てて、俺の隣の席に戻る。


「お待たせ。いやー、仲の良い第八高校に連絡したり、役所に申請したり……疲れた」


式条会長が笑顔のまま椅子にもたれかかる。

それを見て、冷川風紀委員長が舌打ちした。


「お前は能力は高いんだ…日頃からこのくらい働け」

「冷川は真面目すぎだよねぇ」


生徒会役員の人間関係が垣間見え時、俺たち一年生は隠れて笑うことしか出来なかった。



その後、復活した式条会長が仕切り始めた。


「それで、戦闘部としてはいつ攻め込みたいんだい?それによって準備をしたり、しなかったりするけど?」

「そうですね。今日の午後にできたら最高ですね」


城戸が真面目な顔で答えた。

希月と式条会長、冷川が唖然とするなか、俺は以前に似たような経験があったため、冷静でいられた。


「城戸、無茶言うな。と、言いたいところだが。俺も賛成」


白池先輩が心配だからな。


と、心の中で付け足した。



城戸は嬉しそうに俺を見た。


「でしょ?」

「おい、待て」


冷川風紀委員長が、やっとの思いで口を開いた。


「今日の午後って…。今、午前十時だぞ?」

「あ、午後って言っても、七時とかでいいですから。攻め込みって、実は平日じゃあやりにくいんですよ」

「その攻め込みをするのに、相手に宣告をするのは知ってるよな?それはどうするんだ!」

「宣告したら、相手の返答に二時間は待たないとですから…今すぐ宣告しましょう!」


昨日の生徒会室の風景と同じように、城戸と冷川風紀委員長が言い合いを始めてしまった。


前回と違うのは、希月が仲裁をしようと話に割り込んだところだろうか。


式条会長は時計を見ながら、言い合いが終わるのをのんびりと待つようだ。



さて、俺はどうするか。


そう考えようとしたとき、俺の携帯電話が鳴った。


式条会長を見ると「出て良いよ」と、手を使ってジェスチャーしてくれたので、急いで電話に出る。


「もしもし」

「…あ、奏ちゃん?」


電話の相手は、春崎先輩だった。


「今、第二高校の周辺にいるんたけど、ちょっと変な女の子がいて…」

「変な女の子ですか?」

「ええ…。それでその子、湖上高校の制服着てるから…奏ちゃんの知り合いの子かも」



湖上高校の、変な女の子、か。


「その、変というのは?」

「その子、第二高校の周辺から、敷地内を写真に撮っていて…。不審に思って声をかけた第二高校の男子を、背負い投げしてた…」

「あー…」


思い当たる人物がいる。


それは多分、霧丘だな…。


「わかりました。ちょっとこちらから連絡してみます」

「ええ…。それじゃあ」


電話を切った後、すぐに霧丘の電話番号を入力する。



「何かあったのか?」


希月たちが俺の方を見て、不思議そうな顔をしていた。


俺は苦笑して頷く。


「はい。湖上高校の生徒が第二高校の周辺で、不審な行動をしているらしいです」

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