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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第一章 『情報部』という存在
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希月の依頼

「毒なんて非道な手段を使っている相手なんですよ!潜入がどうだとか言っている場合じゃないんです」

「…で?」

「だから、潜入より重いことをしている相手に、潜入がどうだとか言ってる場合じゃないんですって」



熱く語る城戸を、冷川は冷めた目で見ていた。

その目線がゆっくり、俺に向けられる。



「おい情報部、何を言っているんこいつは?」

「困った時にだけ、俺を頼らないでくださいよ…」



実際、俺も頭を抱え困り果てていた。



まさか城戸が、このような理由で説得しようと思っていたとは。

…まあ、気持ちはわかるが。



希月の方に目をやると、希月はひとり黙々と考え事をしているようだった。



仕方なく俺が城戸に、少し説明をすることにした。



「なあ、城戸。毒を盛ったのが、確実に第二高校だという証拠がないのは分かっているよな?」

「ええ」

「つまり第二高校や他から見れば、単なる言いがかりだろ」

「…勝って証拠を見つければいいでしょ」

「そうなるとお前の理屈で、第三高校とかが第一高校にてきとうな理由をつけて、攻め込む事も一応出来てしまうんだが…」



城戸は少しだけ考えた後、きっぱりと言った。



「証拠も無いのにいきなり攻め込むのは、理不尽だと思う」

「ああ。つまり、そういうことだ。こんな理由じゃ生徒会も認めてくれない。今の俺たちにはしっかりとした証拠が必要なんだ」

「うーん」



城戸が不満そうな顔をした。


俺と冷川が同時に溜め息をつく。

風紀委員と気があうのは、これが初めてかもしれない。


「とりあえず、この件は却下だ」


冷川が断言した。


その答えに、式条会長は面倒が減ったと安心していた。


城戸は納得いかないのか、冷川を睨む。


俺もこればっかりは仕方がないと諦めた。



だが、まだ希月は腕を組んで考えている。


「いや、ちょっと待って下さい」



希月は俯いたまま、静かに言った。


「これ、何か引っかかる…。初めからきちんと、おれに詳しく教えてください」



希月の真剣な顔に、全員が緊張を覚えた。

あの冷川まで、口を挟めないでいる。



いったい、希月はどうしたのだろうか。



とりあえず俺は、葉山副会長からの依頼のメールの場面から話し出す。


「…と言うわけで、第二高校と第三高校の体育祭の日時を調べる事になった」

「どうして第二高校と第三高校だけ?」



希月が質問をしてきた。


「特に仲が悪いかららしい」


俺がそう答えると、式条会長が補足した。


「そこまでする必要があるかと、生徒会役員会議で疑問の声もでたんだがねぇ。葉山と滝、あと冷川も念の為調べたいといったんだよ」

「そう言えば言ったな。だが全部調べるのは大変だろうって滝がその二つに絞ったんだ」

「ああ、情報部の負担を少なくするとか、何か言っていたねぇ」


式条会長と冷川が、少し懐かしそうに話していた。

特に冷川は心の底から懐かしんでいるらしく、つり目が少し緩んでいた。


希月はそんな二人の事など一切気遣わず、無言で俺に説明の続きを催促した。



俺は慌てて第二高校での潜入の件を話す。


「…ということで、俺は行事予定表から。もう一人は生徒会室と役員から情報を得た」



簡単に説明し終えると、冷川が呆れた目で俺を見てきた。



「何考えてんだ?生徒会室漁るのは、まあいいとしよう。だが生徒会役員から直接聞くなんて…」

「いや、生徒会室漁るのもどうかと思うけど」


城戸もぼそりと呟いた。


さすがの俺も、この白池先輩の行動には驚かされたので、苦笑いしかできない。


式条会長はそんな俺達を見て笑い、希月はまた無言で催促していた。



さて、次の第三高校の潜入のことを話したら、どんな小言を言われるのやら。



「…と言うわけだ。今回俺は、湖上高校の生徒と共に毒を盛られ、もう一人の部員に助けられた」

「お前、仕事出来てないじゃないか」


冷川の率直な意見が、地味に俺に突き刺さる。

そして城戸も言葉という名の武器で、俺の心をえぐってきた。


「奏寺くん。あなた、潜入に向かないんじゃない?」

「そんなこと分かってるよ…」



俺が落胆していると、式条会長が「そういえば」と、話を切り出した。



「その後、第三高校の人達がうちを訪ねてきたねぇ」


城戸と冷川も、それを聞いてあの日の出来事を思い出したようだった。



「そういえば来てた!あの時、奏寺くん揉め事起こしたんだよね?」

「…懐かしい話じゃねえか。なあ、情報部…?」



楽しそうにあの出来事を思い出す城戸と、お前はあの時も問題を起こしてくれたよな?と無言で語る冷川の目線が、同時に俺に向く。



さすがにもう、勘弁してほしい。


「まあ、もう過ぎた話ですから…な?」


希月に同意を求めるが、考えるのに熱中しているらしく、返事はない。


むしろ何かぶつぶつと呟いている。



「生徒会の体育祭の依頼で……あ、でもそこで毒が…いや、でも第三高校の人達は」

「なんだお前、怖い奴だな」


冷川がやや引きながら、希月に向かって冷たく言い放つ。



確かこいつ、俺と初めて会ったときもこうやってぶつぶつ呟いていたな。



そんな希月を見て、城戸は溜め息をつきながら腕を組んだ。


「まーたやってる…」

「また?!」



俺と冷川が、思わず同時に城戸に聞き返した。その後すぐ俺たちはお互いに嫌な顔で向き合い、そっぽを向く。


その一部始終のタイミングがぴったりだったらしく、城戸が笑い出した。



「あはは!あんた達、実は仲良いんじゃない?」

「まさか」


俺が即答した。

冷川は俺たちを見下すような笑いをして、やはり否定をする。



「つまらない冗談を言うな。それに戦闘部、目上の人物には敬語を使うように」

「はーい」


城戸はわざと明るい返事をした。

冷川はそれに苛ついて、城戸と言い合いを始めてしまった。



そういえば静かだけど、式条会長は…?


俺はちらりと横目で会長の方を見る。



あ、だめだ。寝てやがる。



左を見ればひとりで何かぶつぶつ呟いている守衛部と、居眠りしている生徒会長。


右を見れば言い合いをしている風紀委員長と戦闘部。



…俺は、何をしたんだっけ?



頭が痛くなり、近くにあった壁に寄りかかる。


そしてふと、白池先輩のことが頭によぎった。



…先輩は無事だろうか。



いや、身体的に無事なのは確かなのだ。


ここの土地では、無意味に人を傷つけるのは禁じられている。

人質なども、もちろん禁止になっている。


だから本当は、城戸の言うとおり毒事件などあってはならないものなのだ。



だが、現状は…。


「………」



俺の視線は下に行き過ぎて、床と自分の足しか見えなくなっていた。



その時、突然希月の声が大きくなる。


「もしかして…いや、これは有り得てしまうかも」



俺は驚いて前を向いた。


言い合いをしていた城戸と冷川も、希月の方を向く。


式条会長はびくっ、として目を希月に向けた。

…どうやら、希月の声で目が覚めたらしい。


「希月、どうしたんだ?」


俺が希月に声をかける。


すると、ずっと俯いていた希月が俺の方を向く。


その表情は苦しいものなのか、喜びのものなのか、とにかく何とも言い難いものだった。


「奏寺くん…一つ、一つだけ、思いついてしまった『疑い』がある」

「え?」

「もし俺の『疑い』が正しいなら、この毒事件の犯人、この第一高校にいる人物かもしれない」

「ちょ、ちょっと待て!よく意味が分からないんだが」



希月の言ったことを理解するため、俺はまずは落ち着こうとした。


だが希月がそわそわしていて気が散る。



「もしかして希月くんとやら。推理ってやつかい?」


式条会長が面白そうにして、希月に聞いた。

何やら目が輝いている。



希月は焦って首を横に振った。


「そんな大層なものじゃないですよ。少し、こじつけてるところもありますし…」



そのやりとりで、やっと俺も希月の言いたいことが分かった。


「つまりだ。希月は色々と考えた結果、この第一高校の生徒に毒事件の犯人がいると思ったんだな?」

「うん」


真剣な顔で、希月は頷いた。


それを見た城戸は、少しだけ笑みを浮かべた。


「面白そうね。ぜひ聞きたいわ」


冷川も、無言で頷く。

希月は少しだけ言い辛そうに、口を開く。


「まず率直に言います。おれが疑っている人は……」


希月がその人の名を発したとき、外から悲鳴が聞こえた。


その後、すぐに守衛部らしき人が駆け寄ったらしく、悲鳴を上げた生徒がお礼を言っている。


どうやら、第三高校からの侵入者が現れたようだった。



だが、生徒会室に居た者達は、その悲鳴を耳が受け付けなかった。


聞こえていたのは、希月の声だけだ。


希月は犯人の名前と、そう思った理由を簡潔に述べていた。


「…以上、これがおれの『疑い』です」



希月が軽く礼をして、そのまま俯く。



俺も誰も、口を開くことが出来なかった。


たぶん誰もが、希月の考えを否定する箇所を探していたのだろう。



「一つ、質問だけど…」


式条会長が希月に、真面目な顔で質問をした。


「犯人は第一高校にいるのは分かった。だけど、そいつはデータ上『どこの高校の生徒』になるんだい?」

「それは…何とも言えないですね。ただ、第一高校か第二高校だとは思います。

だから、それを調べてみてほしいんです。…頼んでいい?奏寺くん」


希月は俺を見て、そう言った。

さすがの城戸も真剣に、全員に向けて言った。


「もし希月くんが推理した犯人が、この高校に入学したデータが無かったら…攻め込む理由にできますか?」


その問いに、冷川が目をそらして答えた。


「他校から色々と言われる可能性は高いが…これは一大事だ。許可しよう。

だができれば、やつが第二高校の生徒だという証拠も、ここの高校から見つけたいものだ」


四人が俺の方を向いた。


俺は少しだけ下を向いて目を瞑る。



全く、冷川風紀委員長は無茶を言うなあ。



心で少し文句を言うと、俺は目を開き、皆の顔を見た。


「わかりました。情報部はこの依頼を喜んで受けましょう」

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