夕方の生徒会
俺たち三人は、黙々と生徒会室に向かって長い廊下を歩いていく。
なんというか、面倒くさいことになったな…。
少し下を向いていると、希月と城戸が同時に嬉しそうな声を上げた。
「あ!雪平先輩」
俺が思わず頭を上げる。
目の前には、爽やかな笑顔で手を振る雪平先輩がいた。
おおっと、やばい。
雪平先輩は校内で情報収集していたのか。
俺は無関心そうな表情でそっぽを向き、雪平先輩に近付いていく城戸と希月から離れる。
このように校内で他の情報部員と会うことは、少なからずある。
もちろん話したりしたら、先輩達が情報部であることがバレてしまうため、通常は今回のようにスルーする。
「お久しぶりです、雪平先輩」
「お元気ですか?」
城戸と希月が嬉しそうに話しかけている。
雪平先輩は優しい声と笑顔で、それに応えた。
「ああ。久しぶり。それにしても二人が一緒にいるなんて、珍しいね」
城戸と希月が苦笑いになる。
ついでに俺も、それにつられて苦笑いしそうになった。
雪平先輩は情報部では偉そうな口調でのびのびとしているが、他では違う。
このように好青年を装って、色んな人と交流を持ち、情報を集めている。
つまり、策略的な二重人格者だ。
雪平先輩と別れると、またあの険悪な雰囲気に戻る。
この雰囲気が改善されないまま、俺たちは生徒会室に到着した。
「さて…許可をもらいに行きますか」
「ああ」
しかし城戸が生徒会室のドアをノックする寸前に、希月が急いでそれを止め、質問した。
「ちょっと待って!許可って、もしかして」
動揺する希月を見て、城戸が自慢気になっている。
「そうよ。攻め込みの許可をもらいに行くの」
「本気か?!」
希月を無視した城戸が、今度こそドアをノックして中に入っていった。
どうせ葉山副会長しか居ないのだろう、と思いながら俺も城戸に続く。
希月も急いで俺に続いた。
城戸は希月が入ってきたことに気付いていたが、もう放っておいている。
中に入ると、生徒会室にある大きな窓から夕焼けの赤い光が入り込み、俺達に眩しさを与える。
それと共に、何か懐かしいものを俺は感じた。
思わずぼうっとしていると、面白そうに呟く声が耳に入る。
「これは…一年生が勢ぞろいだねぇ」
あれ?この声は…?
夕焼けの光を手で遮りながら生徒会室の中をよく見ると、葉山副会長の姿はなかった。
その代わりに、想定外の人物が目に入る。
俺は思わず叫んでいた。
「せ、生徒会長?!何でここに?」
生徒会長専用の椅子に座って足を組んでいる『式条赤門』会長が、怪しい笑みを浮かべた。
いつの間にか横にいた城戸が、冷たい目で俺を見る。
「何驚いてるのよ。会長がここにいるのは当たり前でしょ」
いやいやいや。
当たり前ではない。
当たり前ではないから、葉山副会長は闇鍋を使って役員に怒りをぶつけたのだ。
俺が動揺していると、夕焼けを背中に背負った式条会長が椅子から立ち上がる。
「さて、どうしたのかな?」
真っ直ぐ俺を見て式条会長が聞いてくる。
「奏寺くん、会長は君に聞いているみたいだよ」
俺の左側にいた希月が、耳打ちしてきた。
それは、わかっている。
俺は首を横に振り、気を落ち着かせる。
「何してるの?」
俺の右側にいた城戸も、不審な動きをした俺に耳打ちしてきた。
「わ、悪い。何でもないんだ…」
城戸にそう言ってから、俺は式条会長に用件を伝えた。
「俺たちは生徒会に、とある許可をもらいにきたんです」
「許可を?」
「はい。詳しくはこちらの戦闘部からお話します」
俺は城戸を式条会長に紹介し、一歩下がる。
城戸は真剣な顔で、式条会長に交渉を始めた。
「私たち戦闘部は、第二高校に攻め込みたいんです」
「攻め込みか…あれ、面倒くさいんだよねぇ」
式条会長が思いっ切り嫌そうな顔をする。
なんとも、てきとうで面倒くさがりやで有名な式条会長らしい反応だ。
だが、城戸にとっては想定内の出来事だったのだろう。そのまま言葉を続ける。
「会長、この数日で深刻な事件があったのを知っていますか?」
「事件?」
それから城戸は、俺が話したことを一通り説明をした。
きりのいいところまで話したとき、式条会長が俺の方を見た。
「奏寺も毒の被害者になったのか?」
「まあ、俺の不注意ですが」
「…ふぅん」
式条会長は顔を一瞬曇らせてから、腕を組んで考え込んだ。
「攻め込みねぇ…まあ、いっか。いいよ」
「ほ、本当ですか?」
城戸が嬉しそうな声を上げる。
しかし、希月は不思議そうな顔をしていた。
「なんで?面倒くさいのは変わらないのに…」
「そ、そうだな」
希月に曖昧な相づちをした後、俺は式条会長と目を合わせる。
すると式条会長はにこりと笑って、軽く頷いた。
全く、この人は変わらないな。昔から…。
俺は軽く礼をして、部屋から出ようとした。
だが、ドアのぶに手を伸ばした瞬間、そのドアが勢いよく開き、ドアに俺の顔面がぶつかった。
「いでっ!」
「奏寺くん大丈夫?」
希月が駆け寄って来てくれた。
やや顔がひりひりするが、なんとか大丈夫そうなので軽く頷く。
それにしても誰だ。
いきなりドアを開けやがったのは。
憤りを感じながら、犯人を睨む。
だが次の瞬間、俺は固まってしまった。
そこにいたのは、なんと風紀委員長の冷川だった。
「式条!攻め込みなんて良いわけがないだろう!」
冷川は怒鳴りながら部屋に入り、式条会長の目の前の机を叩く。
どうやら冷川は、俺をドアで攻撃したことに気付いていないらしい。
憤りを感じながらも、残念ながら恐怖が押し寄せてくる。
に、逃げるか?
そろりとドアに近づくと、冷川がこちらを振り返る。
「ったく、情報部はどうしてこう、厄介事を持ち込むんだ!」
「あ、俺が居たの気付いてたんですか」
「当たり前だ!…攻め込みのこと、俺にも詳しく教えろ」
俺は嫌な顔をしたが、城戸が冷静に説明を始める。
説明を聞き終わった頃には、冷川もだいぶ落ち着いた様子だった。
「なるほど。情報部はあの体育祭の件で潜入をしたのか」
「ええ。そうですよ」
冷めた表情で、俺と冷川が短い会話をする。
その風景に城戸と式条会長は呆れ、希月は少し俺に同情しているようだった。
そんな希月がふと、疑問を口にした。
「ち、ちょっと待って下さい。体育祭って?」
「あー。あれだろ?滝が発案して、情報部に依頼したやつ」
式条会長が冷川と俺に同意を求めてきた。
どうやら生徒会はあの依頼を隠すつもりは無いらしい。
「はい。その件で俺たちは潜入しました」
俺が断言すると、城戸と希月が少し驚き、冷川が頭を抱えた。
「つまり戦闘部、お前らが提示した攻め込みの理由…。これは潜入により得た情報だろう?」
冷川の質問に、城戸は素直に頷いた。
「はい」
「これを理由にしたら、潜入したのがバレるだろうが」
「何言っているんです!」
城戸は強い声を出して、注目を引きつけた。
何やら城戸はこれから、俺たち情報部も気になっていた、生徒会から許可を得られるほどの『理由』を話してくれるらしい。
生徒会室にいる全員の視線が、城戸に向いた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
少しだけ、お知らをさせて下さい。
そろそろ『彼が噂の情報部』も、とりあえずですが一区切りがつきます。
その区切りでいっそ完結させてしまおうかと散々考えましたが、確実にばらまいた伏線が回収できないので、まだまだ続けさせて頂きます。
実はまだ出せていないキャラクターもいますし…。
続けるということで、今更な感じですが章管理を始めたいと思います。
早ければ明日には設定するつもりでいます。
どうかこれからもよろしくお願いします。




