情報部と戦闘部と守衛部が
「じゃあ今、第三高校の生徒が色んな所に忍び込んでいるんですか?」
「色んな所って言っても、仲の悪い所と近所だけらしいが」
香藤部長がパソコンを取り出し、情報を集め出す。
その間に、春崎先輩に話しかけた。
「つまり春崎先輩は、第二高校に侵入した第三高校の生徒が追われている隙に、薬品研究部に忍び込んだんですね」
「ええ…。彼らが居なければ、私は忍び込めなかった。…それほど、警備が厳重だった」
「なら、白池先輩は無理に薬品研究部に入ろうとして捕まったんでしょうか?」
俺の問いに、春崎先輩は少し考え込む。
実は春崎先輩はかなりの美人だが、雰囲気が暗いせいであまり気付かれていない。
俺もしばらくしてから気付いたのだが。
「白ちゃんは私よりも用心深いから…それは考えにくいかも。
ただ…彼も人間だから。動揺して判断力が低下したら突っ込んじゃうかもね」
「そ、そうなんですか」
白ちゃんとは、つまり白池先輩のことだ。
ちょうどその時、香藤部長がキーボードから手を離し、こちらを見た。
「わかったぞ。第三高校の奴らが侵入したのは、第一高校と第二高校、第五高校と第六高校の四つだ」
「仲の悪い俺達と第二高校、近くにある第五高校と第六高校ってことですね」
「ああ、まあ妥当だろう」
そう言うと、香藤部長はまたパソコンに集中し始める。
その様子を見ながら、俺はふと、疑問を持った。
「お二人は白池先輩のこと、あまり心配していないんですね」
「ん?少しくらいはしてるぞ」
「まあ…白ちゃんなら大丈夫な気がするけど…」
そう言いながらも、二人の表情は少し固い。
心の底では白池先輩を心配している証拠だ。
その言葉と表情が、密かに俺を責める。
俺は白池先輩に対して疑いを持ってしまった。
なのに二人は白池先輩を疑うこともなく、信じて助けようとしている。
後悔の念がどんどん大きくなり、心臓が圧迫されているような感じがする。
「俺…白池先輩に早く会いたいです」
会って、謝りたい。
多分、白池先輩は第二高校にいるだろう。
それなら…。
「俺、第二高校に行ってきます」
「は?」
香藤部長が驚いて、こちらを見た。
春崎先輩もきょとんとしている。
「戦闘部が第二高校に攻め込むらしいんです。その裏で動いて、白池先輩をより早く探します」
「…いや、お前は行かない方が良い。戦闘部の邪魔になる」
香藤部長が即答した。
春崎先輩も、言いにくそうに俺の提案に反対する。
「…戦闘部が戦うような場では、想像出来ないところに敵がいたりするから…危険ね」
「う。でも…」
「感情に走るな。戦闘部に任せておけば良い」
香藤部長がきっぱりと言い切り、再びパソコンと向き合う。
確かに俺が第二高校に行ってもできることはない。
…なんだか、もどかしい。
俺が下を向いていると、春崎先輩が香藤部長に話しかけた。
「戦闘部が動く…これは大事になりそうね」
「ああ…だが生徒会はよく許可したな」
二人の話に俺が割り込む。
「あ、生徒会にはまだ話すらしていないと思います。多分これから城戸が交渉に行くかと」
二人がこちらを同時に見て、香藤部長が先に口を開く。
「なるほど。で、攻め込む理由は?」
「この毒事件を理由にするみたいですが」
「…それ、理由になるか?」
香藤部長が渋い顔になった。
表情を変えることなく、春崎先輩が首を振る。
「…難しいと思う。本来、第一高校は毒事件に関わらないはずだったし…」
「あ、そう言えば」
毒を盛られた場所は第三高校。
そこに偶然居合わせた俺と霧丘が、たまたま被害者となっただけ。
「しかも毒の原料が第二高校にあるかも、って言うだけで攻め込むのも無理があるな」
「ええ…。証拠を掴んでも、侵入したのがバレるかも…しれない」
言われてみれば、そうだ。
…ではなぜ城戸は、あんなに自信があったのだろう。
「まさか…第三高校と手を組んだとかでしょうか?」
「それはない。もしそうなら第三高校の奴らはうちに忍び込まないだろう」
香藤部長の否定されると、声も理由もはっきりしているせいで何も言えなくなる。
「奏ちゃん、…それを言っていたのってあの城戸さんって子でしょう?」
「はい」
「その子に直接、聞いてみたら…?」
「…はい」
ごく当たり前なことを言われた俺は、再び携帯電話を取り出し城戸に確認をとる。
城戸はくすりと、楽しそうな笑い声を上げて、軽く言った。
「そうね。じゃあ生徒会への交渉に一緒に行ってみる?その代わり、奏寺くんも協力してね」
城戸との待ち合わせ場所である、学校の靴箱に着く。
だが城戸は、まだきていないようだった。
俺は周囲を、というより風紀委員を警戒しながら城戸を待つ。
少し経った所で、背後から俺を呼ぶ声がした。
「あっ、情報部!」
これは、男子の声。
つまり城戸の声ではない。
以前の俺なら、窓に向かって走って逃げていただろう。
だが、今日の俺は一味違う。
捕まらない為の、良い理由がある。
俺は声のする方に勢いよく振り向き、大きな声を出した。
「残念だったな風紀委員!俺は病み上がりで、お前等につき合っている体力も時間も……」
言葉は途中で止まった。
自分の顔が引きつるのがわかる。
声の主が、苦笑いして謝ってきた。
「あ、ごめん。奏寺くんを情報部って呼ぶと、凄い反応をしてくれるって聞いたから、ついやってみたくて…」
「希月…お前なあ…」
希月はごまかし笑いをしながら、俺に近付いてきた。
「ところでその病み上がりが、どうして休日の学校に?」
「ああ、それはだな…」
城戸の事を説明しようとした瞬間に、ご本人が現れた。
「あ、奏寺くんお待たせ。…って、うわっ!」
城戸が希月を見て、あからさまに嫌な反応をした。
希月も城戸の方を見て、似たような反応をする。
「げっ!戦闘部」
二人は微妙な距離を保ちつつ、睨み合う。
守衛部が戦闘部をライバル視しているのは知っていたが、仲が悪いとは知らなかった。
城戸が先に口を開く。
「あら、守衛部がこんな所に何のご用?あ、暇なの?」
希月が負けまいと言い返す。
「いやー。戦闘部こそ。何事で?」
「ふふっ。私は情報部の方と仕事で会う約束をしていまして。悪いけど、席を外して下さる?」
「いやいや、そんなわけには」
俺は二人のやりとりを見て、思わず頭を抱える。
「喧嘩してる場合かよ…。しかも希月は嫌味言えてないし」
「う…」
希月が恨めしそうに城戸を見る。
城戸は勝ち誇ったような笑顔をして、歩き出した。
「さ、奏寺くん行きましょ」
「あ、ああ」
俺も城戸に続いて歩き出すと、希月もついて来る。
それに気付いた城戸が、露骨に嫌そうな顔をした。
「何でこっちに来るの?」
「いや、病み上がりの情報部を、怖い戦闘部から守らなくてはと」
「こ・な・い・で」
城戸が希月に強く言い放つ。
それでも希月はついて来た。
どうやら、半分意地になっているらしい。
城戸もさすがに諦めたのか、何も言わなくなった。
前を歩く城戸と、後ろからついて来る希月に挟まれ、険悪な雰囲気の間にいることになった俺は、溜め息混じりに呟いた。
「お前ら、確か同じクラスだろう…」




