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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第一章 『情報部』という存在
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信じたいこと

話を聞き終えた二人の先輩は、苦い顔をした。



「もう、ただの謎解きじゃねえか」

「俺たち情報部は、推理は苦手なんだよな…」


こうやって香藤部長と雪平先輩の口調を聞くと、似ているなと思う。


ちなみに先に言ったのが香藤部長、次に言ったのが雪平先輩だ。



香藤部長が少し唸る。



「だがな、情報部としてこれは調べるしかないな」



雪平先輩もそれには同意した。


「ああ。久々の大仕事だ。犯人を見つけ出すまではできなくても、情報部の名誉にかけて、情報だけは集めておくか」



何やら先輩たちはやる気になっていた。


俺も自分が被害にあっていることもあり、やる気は人一倍ある。



「では香藤部長、情報部はこれからこの毒事件をメインに調べるってことで、いいんですね?」

「ああ、今更な感じもするがな」



こうして、情報部の大仕事が始まった。








次の日、俺はだいぶ回復していたが、念のため今週は休むことにした。


というより、保健委員に止められた。



「さてと…」



どうやって毒事件を調べようかと考えていたとき、外から雨が降る音がした。




最近雨が多い気がする…。




そしていきなり、携帯電話が鳴る。



最近このパターンが多いな。



「もしもし」

「あ、奏寺さん。例のことについて、わかったこと、ある?」



電話はは霧丘からだった。



そういえば昨日、霧丘が毒を盛った犯人の可能性があるという話もでた。



確かに霧丘が犯人なら、わりと話はまとまる。



しかし湖上高校には他校に喧嘩を売るメリットは見当たらない。


そして霧丘の人柄は良い。

もしそれが全て演技だったとしたら怖いが。



だからといって、疑ってばかりでは始まらない。

俺たちは霧丘を信じるという、賭けに出ることにしたのだった。



「ああ。ある」



俺は昨日の春崎先輩が取ってきてくれた情報を教える。


内容を聞いた霧丘は驚いたあと、少し納得したような反応をした。



「ああ…」

「何かわかったのか?」

「うん。まあ、かなり危うい仮説レベルだけど」



かなり危うい仮説レベルか。

それでもまだこちらは、仮説すら立てられない状況だ。



その時、窓から一瞬光が溢れ、少し遅れて大きな音がした。

どうやら雷まで鳴りだしたらしい。



霧丘の方では雷は鳴っていないのか、はたまた気付いてないだけなのかはわからないが、普通に話を進めていた。



「でもその前に、こっちが分かった情報を伝えるね。もしかしたら、奏寺さんも何かに気付くかも」



そう言って霧丘は、慎重に話し出した。



「私達に盛られた毒なんだけど、どうやらあれ、植物性のものらしいの」

「…?」

「毒には色々あるらしくて。生物が持っているのとか、こう…公害でできちゃうやつとか。私もよく理解できなかったんだけど」



俺も、そういう物があるのか、程度にしかわからないのだが。



「とりあえず!私達を苦しめた毒は、植物から採取して、人の手により毒という兵器となったものってことらしい」

「なる…ほど。だが、それがどうしたんだ?」

「ここからは推測なんだけど…植物って聞いて、何を思い付く?」



曖昧な質問に、俺は考え込む。



植物と聞くと、光合成とか花弁とかを思いついてしまうんだが…。



しかしながら、霧丘が言いたいのはそんなことでは無いのだろう。



…うーむ。



どんどん強くなる雨音に気付かないほど、俺は真剣に考えていた。



三十秒ほど悩んだところで、霧丘が口を開く。



「第二高校の景色、覚えてる?」

「え?ああ。木がたくさんあって、花も色々と………っておい、まさか!」

「推測過ぎるけどね」



『推測』を強調して霧丘が言った。


確かに、それだけで疑うのは理不尽かもしれない。


しかし可能性が0ではないのが、恐ろしいところだ。



「それで、その毒の元になった植物の写真を、図鑑で見せてもらったんだけど…」



霧丘が口ごもる。

俺が代わりに、答えてみた。



「…覚えてるわけないよな」

「うん。…ごめん」

「いや、謝んなって」



というより潜入先の植物を一つ一つきっちり覚えておくなんて、誰にだって出来ないだろう。



だが第二高校は薬物を扱う部活があるくらいだ。

これはこちらで詳しく調べたほうが良いだろう。



「なあ、その図鑑の植物の写真を、写メで送ってくれないか?」

「いいよ。じゃあ送るから、電話は切るね」

「あ、ちょっとストップ!」



慌てて俺は、電話を切ろうとする霧丘をとめた。


「その、さっきの仮説とやらを聞きたいんだが…」

「あっ、そう言えば言ってなかったね」



霧丘は、かなり危うい仮説の存在を忘れていたらしい。


まあ俺自身も第二高校のせいで、一瞬忘れていたが。



「まず、第三高校の被害者さんって四十人なんだよね?」

「ああ」

「あの第三高校潜入して…火事がおきたとき、屋上に集まった人数もそれくらいだと思って」



俺を救出するために、白池先輩が屋上に呼び出した生徒か。


確かに、四十人はいたような…。




ちなみに霧丘はあの火事、というより煙の真実をまだ知らない。




「それで、奏寺さんがあの時言った通り、あれは火事の煙じゃなかったらしいよ。火事も実際起きてなかったみたい」

「やっ、やっぱり?」



俺は苦笑いに近い、ごまかしの笑いをした。



実は知っていたとは、今更言い辛い。


霧丘は、電話の向こうで困る俺には構わず、話を続けた。



「だからあの煙がもしかしたら、毒だったんじゃないかなって」

「はは、まさか。そんなわけ…」



その時、また雷が鳴る。

同時に俺は、頭の中で嫌な想像をしてしまった。


いけないいけない…。



「あ、やっぱり?」


霧丘も、この仮説にそこまで自信が無かったのか、あっさりと同意した。




そうだ。


これは、仮説。


かなり危うい仮説なんだ。


あの煙は、白池先輩が俺を助けるため、火事に見せかけて起こした、無害な煙だ。



「わ、悪かった。色々ありがとう」



なぜか俺は声が震えそうになった。


必死でこらえる。



「うん。じゃあ後で写メ、送るね」



俺と霧丘は電話を切った。




風が吹き、雨が勢いよく窓ガラスにぶつかり大きな音を立てた。



俺の頭の中では、あの仮説が巡りに巡っている。




────校内放送で、校内にいた四十人ほどの生徒が屋上に来る。


そして、あの『煙』を見る。


その煙に混じった毒は舞い上がり、密かに屋上の生徒たちを襲う。




つまり毒事件の犯人は、生徒を呼び出し、煙を上げた人物………。




…やはりありえない。


こじつけ過ぎる。



「…あ」



その時、メールが届いた。


霧丘が図鑑の写真を送ってくれたようだ。




そうだ。


白池先輩に頼んで、第二高校にこの植物があるか探しに行ってもらおう。


なんたって白池先輩は、第一高校の情報部だ。




俺は白池先輩に電話をかけるが、電源を切っているらしく繋がらなかった。



気を取り直し、今度は香藤部長に電話をかける。



「もしもし…奏寺か?」

「香藤部長、お疲れ様です。あの、白池先輩いらっしゃいますか?」



俺は無意識に早口で聞いていた。

香藤部長は低い声で、溜め息をつく。



「いや、それがあいつ昨日から戻ってないんだ。連絡も寄越さねえし、繋がらねえし」

「…え」

「一応今日の放課後、やつの潜入先の第二高校へ春崎に行ってもらう予定だ。……授業が始まる。またな」



電話は切られた。



白池先輩は、第二高校から戻っていない。


過去にそんなことあっただろうか?



俺はどんどん嫌な方にいってしまう想像を、否定できる情報を記憶から探す。



「あー!」



もやもやしすぎてしまった。


気晴らしに外に出るか。



とはいえ一応学校を休んでいる身なので、下手に外を出歩けない。



おもむろにエレベーターに乗り込むと、あるボタンに目がいく。




『屋上』か。





エレベーターを降り屋上に出ると、俺は激しい雨に打たれた。




寮の屋上に来るのは、これが初めてだ。




俺はふらふらと屋上の真ん中に立ち、下を向いた。




何度も何度も首を振り、嫌な想像を振り払う。




最悪の想像、それは白池先輩が実は第二高校の生徒で、第一高校に長期に渡り潜入していた、今回の毒事件の主犯。



ありえないとは思うが、白池先輩は今、毒の元となる植物があるかもしれない高校から、戻って来ない。



「でも、俺は…」



白池先輩を、信じたい。



そう心の中で思った時、俺の意識は遠のいていった。

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