生徒会からの依頼
生徒会副会長『葉山純』。
身長180㎝の男子生徒。3年生。特技は料理。趣味も料理。
生徒会の合宿では会議の資料作りより、合宿中の献立作りに力を入れるという、あの…。
ちなみに委員会もしくは生徒会に所属すると、部活動に所属する事が出来なくなる。
よって、葉山副会長は部活には所属していない。
そんなお方が情報部に何の用だろうか。
とりあえず、内容は直接伝えたいとのことなので、待ち合わせ場所の生徒会準備室に向かうことにした。
しかし寮から離れて10歩ほど進んで、少し寄り道。
アイス1個くらいなら食べでも良いだろう。
運良く風紀委員に会うことなく、準備室の目の前に辿り着いた。
だが、油断は禁物だ。
もしこの部屋に風紀委員長が潜伏していたら、俺はアウトだ。
準備室の周りを見渡して、一応逃走経路を確認する。
最悪の場合に備えて、色々なアイテムは所持している。よし、行くか。
準備室のドアをノックした。
そうすると、中から足音が近付いて来る。
葉山副会長だけでありますように。
葉山副会長だけでありますように!
念じながらも、余計なことを考えていた。
そういえば葉山副会長って、2年の美化副委員長と付き合っているって噂があるんだった。
ついでに調べてみよう。
その時、ついにドアが開いた。
「やあ、奏寺君。よく来てくれた」
ドアを開けてくれたのは、葉山副会長ではなかった。
とっさに一歩後退し、近くの窓に向かって走る。
さっき逃走経路を確認しておいて本当に良かった!
ここは2階だが、この窓の下には掃除用具の中型倉庫がある。そこを利用すれば…。
「奏寺君!俺は風紀委員じゃない!体育委員だ!」
右足を窓枠に乗せた時に、ドアを開けてくれた男子生徒が叫んだ。
あまりの声量に驚いて、思わず振り返る。
「…あっ!滝体育委員長!」
思わず叫んでしまった。
滝体育委員長と叫ばれた男子生徒が笑い出す。
「ははは!そんなに風紀委員と仲が悪いのか?」
「悪くはないですよ」
右足を下ろし、滝体育委員長のいる準備室に入った。
中には、葉山副会長と滝体育委員長の2人がいる。葉山副会長が優しい笑顔で話し掛けてきた。
「奏寺君。助かるよ」
「それで、依頼内容は何でしょうか」
葉山副会長が何か文字の書いてある紙を渡してきた。
簡単に見てみると、どうやらそれに依頼内容が書いてあるらしい。
そして個人的には、大きく書かれた単語に目が行った。
「体育祭…?」
「そう。体育祭」
俺は首を横に傾けて見た。
「確かこの学校には、体育祭は無いと聞きましたが」
滝体育委員長が頷く。
「ああ、そうだ。なんせ今年から初めてやろうとしている行事だからな」
滝体育委員長は嬉しそうに言った。
それはそうだろう。
発案はこの滝体育委員長なのだから。
実を言うと、情報部は既にこの情報を掴んでいた。
ただ、体育祭なんてどうでも良かったので、依頼内容に関係してくるなんて考えてもいなかった。
知っていたことを伏せるため、少し驚いてみてから質問した。
「体育祭を開催するためには、情報部の力が必要なのですか?」
その問いに葉山副会長が頷く。
「必要なんだ。実はこの第一高校と、あまり仲がよろしくない第二高校と第三高校の情報が欲しい」
第一高校は、第二高校と第三高校とは特に仲が悪い。
理由は色々あるが、第二高校とは学校が近い。
そのため、お互いに土地争いが一番しやすく、小競り合いも一番多い。
第三高校と仲が悪い理由は、あまりはっきりとしていない。
土地も離れているどころか、このふたつの高校の間には、第五高校があるくらいだった。
葉山副会長が封筒を取り出しながら言う。
「このふたつの高校も体育祭を開催しているのか。もし開催しているなら、それはいつなのか。
…この2点を調べてほしい」
なるほど。そう言うことか。
「つまり、体育祭の時に攻めてこられるのを防ぐんですね」
「そう。できれば日時を一緒にしたいところなんだ」
滝体育委員長が少し真剣な顔をする。
「ちなみに、この情報収集にどれくらいかかる?」
「そうですね…。まあ、早くて3日、長くても1ヶ月ですかね」
「おいおい。差が大きいぞ」
滝体育委員長が苦笑いした。
「では、情報の提出期限を設定して頂けるとうれしいですね」
「…なるほど」
葉山副会長が考え込む。その後、ペンを取り出し、紙に書き込み始める。
「夏休みに入る前、はどうかな」
「今日は6月27日。…夏休みは7月20日からでしたよね。わかりました」
「頼りにしているよ。じゃあこれは捜査費用」
葉山副会長から封筒を受け取る。
「良いんですか?」
「ああ。もちろん、別途に報酬も出すから」
体育祭は学校の行事。だから安全性を高めるにはお金は惜しまないと。
これはありがたい。
「ところで奏寺君。情報部にいて辛くないか?」
滝体育委員長が目を逸らしながら聞いてきた。
「はい。わりと部活動は楽しんでますよ」
「部活動は、か」
滝体育委員長が少し寂しそうに言う。奏寺はさっと席を立って、2人に笑顔で礼をした。
「では早速調査を準備を始めますので、失礼します」
「うん。よろしく」
「頼んだぞ」
2人の声を背中で聞きながら、準備室を出た。
生徒会からの依頼。
…これは、大仕事だ。
なんとなくワクワクしてしまう。
奏寺が去った生徒会準備室では、2人の生徒会の人間が話をしていた。
「情報部か…」
滝が呟いた。葉山が心配そうな目で滝を見る。
「心配なんだね、彼が」
「…奏寺は良い奴ってことは皆知っているのにな」
「そうだね。でもこれは、人柄だけではどうしようもないよ」
滝が舌打ちした。
「ったく。何で学校は情報部なんて部活作ったんだ?」