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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第一章 『情報部』という存在
19/90

病の正体

電話をかけてきた相手、それは…。


「霧丘か?」

「うん。奏寺さん。お久しぶり。朝からごめんね」


確かに今は朝五時三十分。


俺は電話から少し離れて咳をして、用件を伺おうとした。

そしたら、霧丘が溜め息混じりに呟いた。


「やっぱり、体調崩したんだ…」

「へ?」

「私も、熱がでて学校休んでいて」


確かに、霧丘の声は少し変だった。



俺は過去の記憶を探る。


視界にあるのはいつもの俺の部屋だが、頭の中は霧丘と会った場面が広がっていた。



「霧丘はいつから体調を?」

「えっと…一昨日」



俺と一緒のタイミングか。


だが、ひとつ気になることがある。



「霧丘は咳き込んでないな」

「うん。昨日、私の学校の医療部に看てもらったから」



医療部か。

なんか凄い部活だな。



その後、お互いの症状を確認しあう。



「症状は似てるね。奏寺さんも一緒なのかも」

「そ、そうか」



それにしても、やはりこういう場合は自己判断はいけないな…。

こちらも専門家の保健委員に早く行くべきだったか。



俺は少し反省した。



少し疲れて目を閉じていると、霧丘が言い辛そうに、低い声で言った。



「でもね、ただ安静にしても治らないの、これ」

「…は?」



電話の向こうから、溜め息のようなものが聞こえた。

どうやら霧丘も、だいぶ体力は低下しているらしい。


霧丘は少し声を小さくして、話し出す。



「やっぱり奏寺さんは専門家に行ってないんだ」

「ま、まあな」

「これ、毒だよ」



霧丘のその一言に、一瞬言葉を失った。


少し遅れて、驚きの声が上がりそうになるが咳に埋もれてしまう。



「ちょ、ちょっと!大丈夫?」

「ああ…気にすんな」


喉が渇いたので、冷蔵庫まで這っていく。

ペットボトルに手を伸ばしながら、頭に浮かんだ大量の疑問や思いを口にした。



「いつ?というか、どうやって服用したんだ俺は?それにしても不覚だったなー…」

「ふふ…」



霧丘の小さな笑い声が聞こえた。



「なんだ?その笑いは?」

「あ、ごめんなさい。気にしないで」



気にしないでと言われましても。



霧丘が咳をする。

これは体調の関係ではなく、ただの咳払いらしい。



「色々聞きたいことはあると思うけど、とりあえず奏寺さんは、まず専門家の所にいった方がいいと思う」

「そうだな。これじゃあまともに会話できないし」



電話を終えた後、俺は根性で立ち上がった



幸いなことに、寮の中にも保健委員所有の教室がある。


まずは、簡単に電話してこれから向かうことを伝えようか。


もちろん、これが毒かもしれないことは伏せて。





「うーん、怖いね」

「ですね。なんかもう、情報部に同情しちゃいますよ」



保健委員会の委員長と、保健の先生がひそひそ話をしている。


見ての通り、思いっきりこちらに聞こえているが。



ちなみに保健委員会に属する生徒は少し特殊で、授業を受けなくても良いことになっている。


その代わり、一日のほとんどを保健委員の教室で過ごし、色々な研究をしているらしい。



保健の先生が、ベットに横たわる俺に近付いてきた。


この人は『音波修(おとなみ しゅう)』先生。

それなりの歳になっているはずだが、見た目はまだ三十歳ほどの男性教師だ。



「奏寺くん。これを…」



そう言って音波先生は、透明の小瓶を俺に差し出す。

中に入っている液体は、深緑色をしていた。



「君の体内から、ちょっとした毒物反応が出てきてね」



やはりそうなのか。

さすがに精神的にも傷つく。



それにしても、いつ盛られたのか。



「食べ物にでも、盛られたんですかね」



俺がそう聞くと、音波先生は首を振った。



「いや、その可能性は低い。毒物関係に詳しい小林くんという生徒がいるんだが…。

彼曰く、空気中から肺で取り入れた可能性が高いらしいぞ」

「毒物関係に詳しい小林くん…?」

「ああ、頼もしいだろう!」


音波先生が得意気に腰に手を当てた。


この学校に、そんなスペシャリストまでいるとは知らなかった。



まあ、味方なら心強いかと思い、それ以上深く聞くのはやめた。



「なるほど。空気中に拡散できるくらい軽い毒物ってことですか…。いやもしかして、気体?」

「そのあたりはなんともいえないらしい。とりあえず毒を盛られるような危険なことはしないように」



正論を述べられ、俺は何も言えなくなった。


視線を先生から手元の小瓶に移し、観察してみる。


小瓶を軽く振ると、液体もすぐにその動きに追いつく。

どうやらこの液体は、水みたいにさらさらしているらしい。



「先生、これはなんですか?」

「君の薬だ。まあ我々に取っては毒だがね」

「?」

「つまり、君の体内の毒をこれで中和させるんだ。この液体には、その作用が期待できる」



俺は、ふと、中学生時代の理科の授業を思い出す。



酸性とアルカリ性の液体を微量に混ぜ込みながら、中性にする実験。なんだか懐かしい。


きっとこの毒も、それと似たような原理なのだろう。


しかしあの実験は俺達には難しく、なかなか見事な中性に出来なかった記憶があるのだが。



「あの。これ飲めば治るんですよね?」

「ああ、多分。きっとどうにかなるし、今よりかは症状か改善する可能性があるぞ」



なにやら曖昧な表現が大量に出現した気がするが、ここは信じるしかない。


俺は思い切って小瓶の蓋を開け、一気に飲み干した。



「おお!本当に飲んだ」

「すげー!」

「情報部…意外とやるな!」



保健委員たちや音波先生の歓声が聞こえてきた。



………大丈夫かこの委員会。そして俺。




液体の味は、想像していた薬の苦さなどはなかった。

むしろ味など無く、水を飲んでいる感じだ。


これなら、例え食事に混ざっていも分からないかもしれない。


怖い話だが。




毒に恐怖を感じながらも、とりあえず瓶を置いた。



「ちなみに一応毒を飲んだことになるから、今からは特に安静に。この保健室のベッドで寝てなさい」

「いえ、自分の部屋で休みます。本当にありがとうございました」



ここから出ようとした時、君の勇気に感動した!と、保健委員が部屋まで送っていくと言ってくれた。


しかし、部屋がばれてはいけないため、丁重にお断りする。




なんとか保健室を出て、腕時計をそっと見た。



十一時か。


この時間はまだ授業中のため、寮にはまだ生徒はいない。



エレベーターを使って部屋に戻るか。



そう思い、エレベーター乗った。




部屋に戻るころには、咳が止まっていた。


毒の知識なんて物語で読んだ程度でしか知らないが、保健委員がくれた毒はすぐに効いたため『即効性』の毒とかいうのだろう。


そして俺が知らない間に盛られていた毒は、『遅延性』の毒。



そうか、そういうことなんだな。



てきとうに解釈し納得した俺は、布団に横になって、携帯電話を取り出す。



「もしもし、霧丘か?毒は治してもらった。しかしお前も、毒飲むなんてなかなか度胸あるな」

「え…?毒を飲んだ?な、なにやってるの?!死んじゃうよ!」

「…え?」



話を聞いたところ、霧丘がいる湖上高校にはちゃんとした薬があったらしい。


湖上高校は医療部があるなど、もしかしたら医学が進んでいる高校なのかもしれない。




湖上高校の話を聞いたあと、霧丘に俺の治療方法を話した。


驚いたのか呆れられたのかはわからないが、霧丘は沈黙してしまった。


いたたまれなくなった俺が、先に口を開く。



「湖上高校って、凄いんだな」

「え、ええと」



霧丘が焦りながら、言葉を探しているらしい。早口になっていた。



「そ、そう!でも奏寺さんのおかげで、薬ができるかもしれないよ!」

「そ、そうだな」



でも…、と霧丘が小さな声でつぶやき、力強い声で続けた。



「何か異常がでたら、遠慮しないでうちの高校に来て。診察したうえで、ちゃんとした薬を処方してもらうから」



霧丘の優しさに、申し訳ない気持ちと、感謝の気持ちが溢れた。


だが、なんだか自分が情けない。


「あ、ありがとう…」

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