これまでに
俺は悪戯っぽく希月に話しかけた。
「守衛部も戦闘部を見習って情報買ってみたら?」
「え?!戦闘部って情報部を利用してんの?!」
希月は、俺が一年生だと知った時より驚いていた。
それもそのはず。
自衛に徹する守衛部より、他校に攻め込んで勝利を掴む戦闘部の方が、派手で華やかである。
そのためか戦闘部の方が注目されており、守衛部は苦い思いをしてきたようだ。
ゆえに守衛部は、少し戦闘部をライバル視している。
希月が横目で、グランドで戦闘の演習をしている戦闘部をちらりと見た。
「あの戦闘部がね…。情報部を利用していたと」
「まあ戦闘部の正義は『敵に勝つこと』だし。いいんじゃないか?」
俺は堂々と戦闘部を見る。
その時の俺は、暮谷を探していたことなど、すっかりと忘れていた。
希月は少し唸る。
「うー。っていうか、奏寺くん。お客様の情報を勝手に流していいの?」
俺は再び希月を見て、頷く。
「ああ。戦闘部は契約時に公開しても構わないと言っていたから。…まあ、珍しいことだが」
ちなみに契約をしに来た戦闘部員は、城戸だ。
明らかに独断で、公開しても構わないと言っていたが。
まあ、問題になっていないから良いのだろう。
屋上に少し強い風が吹く。
俺は、はっとして腕時計を見た。
「もう三時か」
今日は生徒会室には行かないと決めていたが、なんだかどうでもよくなってきた。
生徒会用と戦闘部用、同時に二つの報告書を抱えるのは避けたいので、今から行ってしまうか。
「じゃあ、俺はそろそろ失礼するよ」
そう言って屋上の扉に向かう。
希月はそんな俺を目で追って、手を振ってきた。
なんだか、霧丘を思い出すな…。
「ああ、じゃあな」
俺は扉を開いたとき、少し希月の方を向く。
そして無意識に、言葉が漏れていた。
「…ありがとな」
友達と話す、その楽しさを思い出した気がした。
だからこの言葉が出たのだろう。
すっかり監視に戻っていた希月が、驚いてこちらを見てきた。
なんだか急に恥ずかしくなり、俺は走って屋上から離れる。
思っていた以上に全力で駆けていた俺は、息を切らした状態で生徒会室の前にいた。
荒い呼吸のまま、ドアをノックする。
「はい」
ドアの向こうから、葉山副会長の声が聞こえた。
俺はドアを開け、中に入る。
「…って、奏寺くん?」
葉山副会長が驚いて、少し大きな声を出す。
滝体育委員長も、つられて俺を見る。
「奏寺くん、凄い汗だな。風紀委員から逃げてきたのか?」
息を整えた俺は、生徒会室の椅子に座っていた。
相変わらず、生徒会室には葉山副会長と滝体育委員長しかいない。
「…なんでお二人以外の役員は、ここに居ないんですか?」
滝体育委員長が首を傾げる。
「いや、俺も普段はここにはいないぞ?お前が来るときに偶然居るだけだ。だから通常、葉山ひとりだろう」
それを聞いた葉山副会長が苦笑いした。
「そうだね。本当は会長や書記がいても良いはずなんだけど」
「…まあ、来ないだろう。あの自由人達は」
つい葉山副会長に同情しそうになるが、次の言葉でその心が揺らぐ。
「だから今度、生徒会役員だけで闇鍋を開こうと思うんだけど…奏寺くん、見学に来る?」
葉山副会長は笑顔で聞いてきた。
しかも、『参加する?』ではなく、『見学する?』か。
何をする気なんだ…。
「い、いえ。風紀委員長もいらっしゃるでしょうし」
「そう?面白いものを見られるかもしれないのに」
残念そうに葉山副会長が呟く。
終始闇鍋の話題にノーコメントを貫いた滝体育委員長が、話を変えてくれた。
「それより、用があって来たんだろ?」
「あ、そうなんです。例の体育祭の件で」
俺は二人の前に報告書を出した。
滝体育委員長が驚き、葉山副会長が感心する。
「早いな」
「へぇ…これなら準備にも時間をかけられる。ありがとう。奏寺くん」
俺は自然と笑顔になって、軽く礼をした。
「いえ、このくらい」
生徒会の二人は、もう頭は体育祭の段取りを考えているらしい。
特に滝体育委員長の目は楽しそうだ。
「それにしても、早かったね…。まだお礼の準備してなかったよ」
「今度でいいですよ」
俺がそう言うと、葉山副会長が申し訳なさそうにした。
しかし、その横にいる滝体育委員長がすぐにでも計画を立てたそうだったので、俺は早めに去ることにした。
退室の一言を言い、部屋を出ようとしたとき、葉山副会長が俺の名を呼んだ。
「闇鍋は今度の金曜日の夜7時から、寮の会議室を貸し切りにして行うんだ。…この情報、好きに使って」
「えっ?良いんですか?」
生徒会や人気のある部活のネタは、新聞部が高く買ってくれる。
葉山副会長はにっこりと笑って、頷いた。
「早く情報をくれたお礼。おまけみたいなものだよ。ただ、『闇鍋』って言うのは伏せてくれる?」
生徒会メンバーには鍋パーティーって言ってあるから。と、葉山副会長が付け足した。
なるほど。
葉山副会長も、なかなか良い性格をしていらっしゃる。
「了解しました。ありがとうございます」
そう言って生徒会室を出た。
俺は風紀委員に気をつけながら、寮の部屋に戻る。
窓を全開にして、床に寝転がった。
季節は夏だが、ここは比較的涼しい土地なので過ごしやすい。
何より、風の気持ち良い。
…だが、屋上には負けるな。
そう思いながら、最近の出来事を振り返る。
思えば、この数日でいろんな人と話した。
普段俺は情報部員か城戸、常連の新聞部くらいしか話さない。
なのに、葉山副会長や滝体育委員長、暮谷に相宮といった人物と少しだけだが話をした。
中でも強く印象に残ったのは、霧丘と希月だ。
あの二人とは、またどこかで話すことになるだろう。
そう直感で感じた時、電話が鳴った。
しかしこれは携帯電話ではなく、寮の部屋の電話だ。
俺は急いで受話器を取る。
「もしもし」
「お、生有、久しぶり」
俺の下の名前の『生有』を使って、俺を呼ぶ者は少ない。
理由はただ単に読めないせいなのか、『いう』が言いにくいせいなのか、どちらかは分からない。
よって俺を生有という相手は、限られる。
「もしかして…隆也?」
「おう!いやー、懐かしいなー。元気か?」
『古谷隆也』は、俺の中学生時代からの友人だ。
確か彼は地元の高校、つまりこことは遠く離れた学校に進学した。
「ああ、久しぶり。隆也も元気か?」
「たりまえだ!こっちは皆元気だ」
隆也のテンションは高く、こちらまでつられそうになる。
「っていうか、生有の学校ってなんなんだよ?電話かけるもの一苦労だったぜ?」
「だろうな。ここのことは一般的には伏せられている。知ってるのも未だにお前だけだろう?」
「まーな」
この辺りの学校に入るには、様々な方法がある。
俺の場合は、俺の高い記憶力を聞きつけたこの学校から、スカウトが来た。
そのスカウトされた現場に偶然居合わせた隆也は、この学校のことを知ったのだ。
どうやら隆也は、この学校のことを秘密にするのを条件に、俺と連絡を取れるよう許可をもらったらしい。
俺としても嬉しい話だ。
「懐かしいな…。皆に会えるのはいつになることやら」
「本当だよ!つーか、生有、お前将来何になるんだ?」
俺はその問いに、答えることは出来なかった。
…将来か。
正直、俺にもまだ分からない。
ただ、表舞台に立つようなことはない気がする。
その後、一時間ほど世間話や思い出話で盛り上がった。
「あははっ!そんなことあったな!」
「今思うとやばいよな!っていうかこの会話、お前の学校の教師とかに筒抜けなんだろ?いいのか?聞かれて」
「まあ、今更だ。気にしない気にしない」
会話もそこそこ落ち着いてきたころ、隆也に別の電話がかかってきた。
「やべ、先輩だ。じゃあ悪い、またかける」
「ああ、じゃあな」
俺が受話器を耳から話そうとしたとき、隆也が少し心配そうな声で言った。
「あと、お前大丈夫か?」
「…?何が?」
「いや…」
隆也が言いにくそうにした。
だが、言うと決めたのか、その後はっきりと教えてくれた。
「お前、口調変わったから」
「えっ?」
「それだけだ!じゃあな!またかける!」
早口で別れを言われた後、電話は切れた。
俺は、少しきょとんとした。
口調が変わった?
俺は考え込む。
特に俺の地元では、これと言った方言などはなかったが…。
悩んでも、心当たりは見つからない。
自分のことだというのに、少し悔しいな…。
明日、報告書を渡すときに城戸に聞いてみようと決め、俺は夕飯の支度を始めた。
2月8日、誤字を訂正しました。




