語る城戸
「おー!良い風だ!」
放課後、俺は屋上にいた。
潜入捜査で霧丘に連れてこられた屋上は、割と居心地が良かった。
だから、自分の高校の屋上にも行ってみようと思ったのだ。
想像通り、気持ちが良い。
風紀委員が来ない事を祈り、そこら辺に座った。
「…」
結局あの後、相宮も暮谷も話しかけては来なかった。
これで暮谷がなぜあの騒動に関わったのか、謎のままだ。
「面倒くさいな…」
それよりも、だ。
あの騒動のせいで、非常に生徒会室に行きにくいのだが。
頼まれた情報の報告書は、未だに渡せずにいた。
幸いなことに期限までまだ日はある。
とりあえず今日は、止めておこう…。
床の上に横になろうとした時、携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし」
「あ、奏寺くん?」
この声は…城戸か。
「ああ、お疲れさま」
「そちらこそ。朝は色々あったみたいね」
「まあな」
軽く受け流す。
城戸もそんなに朝の騒動に興味が無いのか、すぐに本題に入っていく。
「情報部さん、いつものちょうだい」
「あー、まいど」
戦闘部はいつも、他校の情報を定期的に買っていく。
その情報とは色々あるが、大体は新聞部がボツにしてしまうほど、小さなネタだ。
例えば、新聞部は『第八高校、第九高校に勝利』、『第三高校、新たな機械を導入』などといった、大きな出来事は新聞に載せる。
ただ『第八高校、侵入者が入るが逃がす』、『第三高校、第五高校に殴り込み』など、よくあることは載せない。
しかし戦闘部はそういった小さな情報も把握しておきたいらしい。
城戸が、力強い声で話し出す。
「でさ、料金のことなんだけど。今回はこちらも情報で払って良い?」
「情報で?」
「そう。もちろん私には情報の価値なんて分からないから、過不足があったらちゃんと言って」
不足があったら、ではなく過不足があったらか。
さすが、城戸はそういうところはしっかりしている。
前例は無いが、俺達が渡す情報に見合ったものなら、香藤部長達も良いと言ってくれるだろう。
「良いけど。いったい何の情報?」
「ふふ…暮谷くんの情報。もしかしたら奏寺くん、気になってるんじゃないかなって思って」
俺は少しドキリとした。
…なるほど。
城戸は意外と交渉が上手いのかもしれない。
とはいえこれは俺だけが欲しい情報だ。
部活には俺がその分、支払おう。
電話から、城戸の嬉しそうな笑い声が聞こえる。
「交渉成立ね。じゃあ話すわ」
「え、今?しかも電話で?」
「うん。だって盗聴されて困るものじゃないでしょ」
そうだけれども。
「いつも通り、こちらは報告書作って渡すから、城戸たちは1日先払いになるけど」
「あーいいのいいの。それより、忘れちゃいそうだから、早く言わせて!」
城戸は少し早口で言った。
どうやら本当に忘れてしまいそうだ。
「わかった。頼む」
「うん。任せて。
まず、これはこの前の金曜日。三日前になるのかな?
偶然、校門の前で暮谷くんと会って、話してたの」
偶然、というのは実は城戸の嘘である。
暮谷と城戸は周りには秘密で、少し前から付き合い始めているのだ。
だから、本当は校門で待ち合わせでもしていたのだろう。
ちなみにこの情報は、たまたま暮谷が城戸に告白する現場を見てしまった、白池先輩の情報である。
「それで暮谷くんと話してたら、生徒会長がこれまた偶然来たの。
それで暮谷くんを見て
『あ、お前暮谷ってやつだろ?なぜか俺、お前のこと知ってる。元気か?』
みたいなことを言ってきたの」
「ああ、相変わらずてきとうな会長だな」
「でしょ?」
この高校の生徒会長は、面倒くさがり屋かつてきとうな性格で有名だ。
ついでに性別は男。
「そしたらその会長が、
『暮谷ってあの情報部の奏寺ってやつと同じクラスだろ?どんなやつだ?』
って聞いてきて」
「…え?会長が俺のことを?」
「そうよ」
俺は少し驚いた。
城戸はそんな俺に構わず、話し出す。
「暮谷くんは『奏寺くんとあまり話したことないからよく知りません』って答えたの。
でも、私は奏寺くんと同じ中学でよく知ってるから、代わりに中学の時の奏寺くんのこと教えた」
「よ、余計なことを…」
「あら、別に良いじゃない」
城戸は楽しそうに言った。
まあ、実際に構わないことなのだが。
問題は、暮谷ってことか。
暮谷は俺の中学生の時の姿を、聞いてしまったのか。
「…それで、俺のことはなんて説明した?」
俺は立ち上がり、屋上からグランドを見渡した。
なんとなく、暮谷の姿を探す。
「ん?そこ気になる?まあ、いいけど。
私は『中学校の時の奏寺くんは、暮谷くんと三割くらい似てた』ってまず言った」
「三割?微妙だな。それって似てるのか?」
「多分。そしたら暮谷くんに、どこが似てるの?って聞かれたから、『学級委員長やっていて、クラスの皆をまとめていた人気者のところ』
って答えた」
「…」
確かに、俺は中学校では学級委員長を任され、クラスの中心にいた。
俺が何か言うのかと思ったのか、城戸は少し黙り込んだ。
しかし沈黙が続くだけだと察し、再び城戸が口を開く。
「それを聞いた暮谷くんは驚いてた。だけど性格は全然違うとは言ったかな。うん。確か」
その通りだ。
暮谷は持ち前の正義感により、クラスメートからも教師からも信頼され、クラスをまとめていた。
中学の時の俺は、ただ楽しいことを皆でしたかった。それに皆がついてきてくれて、クラスをまとめられた。
おかげで教師からは冷たい目で見られていた記憶がある。
「…そうか。それで?」
「会長は『そうなんだ』って言ってどこか行っちゃった。でも暮谷くんは、考え事を始めた」
俺はまだグランドを見渡していた。
暮谷は見つけられない。
「それで、暮谷くんが独り言で『俺は何も知らなかっただけなのか?』みたいなことを言ったの。それが、朝の騒動に暮谷くんが関わった理由じゃない?」
俺は思わずため息をついた。
城戸が笑い出す。
「なによ、そのため息?」
「あははっ。よくわかんないかな、俺も」
暮谷をグランドから見つけられない俺は、少し空を見上げる。
「それで奏寺くん、料金は足りたかな?」
「そうだね。…ちょっとオマケつけて、明日報告書を渡すよ」
「え、いいの?やった!」
城戸が無邪気に喜びだした。
今更だが、城戸は自分の彼氏のことを、こんなに話してしまって良いのだろうか?
その後、少し会話をしてから電話を切った。
「…」
色んな感情や考えが、頭の中で交差する。
少し、整理をしたい。
そう思い、屋上の柵を握り締めながら目を瞑る。
その時のだった。
「…あれっ?」
後ろから、男子の声がした。
俺が目を開いてから振り返ると、そこには意外な人物がいた。
「あっ、すいません。先客いたんですね」
屋上の扉を半分開いた状態で、男子生徒が軽く頭を下げながら喋ってきた。
こいつは、『希月 徳』。
守衛部のエースだ。




