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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第一章 『情報部』という存在
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消える笑顔

「やあ、無事だった?」


玄関の所に、白池先輩が靴箱に寄りかかっていた。

ほんのりと笑顔が浮かんでいる。


「ありがとうございました」

「でも珍しくね。奏寺がしくじるなんて。しかも、女の子相手に殴られていたね」


俺は苦笑いしかできなかった。


すぐにでも今日のできごとを話したいところだが、その場面を霧丘に見られ、霧丘に白池先輩が情報部だと気付かれたらまずい。


「詳しくは寮で話します。諸事情により、バラバラで帰った方がいいのですが」

「了解。じゃあ奏寺が先に学校を出て。僕は後から行くから」


俺は白池先輩に礼を言い、先に校門を出た。




第三高校は遠いので帰るのも一苦労だが、何とか日が暮れる前には寮に着くとこができた。


いつも通り外の階段を使って、自分の部屋に戻る。


しばらくすると、白池先輩と香藤部長が訪ねてきた。


香藤部長が欠伸をしながら、低い声で俺に話しかる。


「奏寺、お疲れ」


隣にいた白池が笑い出す。


「勇雅は基本、土日は午後の2時まで寝てるんだよ」


俺も笑顔で香藤部長を見た。


「わー。香藤部長って生活習慣もきっちりしてるイメージだったのに」

「黙れ」


香藤部長が低い声で短く言った。



こうやって見ると、よくニコニコしている白池先輩と、一見不機嫌そうな香藤部長は対照的だ。


この2人が親友だと聞いたとき、最初はちょっと信じられなかったのを覚えている。


「それで奏寺、今日何があったの?」


白池先輩が俺に聞いてきた。

俺は今日起こった出来事を、全て2人に伝えた。


白池先輩が頷いていた。


「なるほど、あの子が霧丘さんか」


その横でメモをとっていた香藤部長が、首を傾げた。


「しかし、その霧丘ってのは本名なのか?その名前は第二高校に居たときに名乗ったものだろ?」


俺は頭を縦に振る。


「はい。本名らしいです。とっさに名乗ってしまったとか言ってました」

「…つくづく潜入に向かない奴だな」


香藤部長が呆れた顔になる。

今度は俺が白池先輩に聞いた。


「ところで屋上にたくさんの生徒を向かわせたのって…」

「ああ、ちょっと色々やってね。人が一気に来たら、敵も怯むし逃げやすくなると思って」


白池先輩が笑顔で語った。

その横で、香藤部長が苦い表情になる。


「確か情報操作をさせないために、奏寺を監視で付けたはずなんだが」

「あはは…すみません」

「まあ、『遊び』じゃないなら良いだろう」


俺は白池先輩の顔を見た。


いつも通りの笑顔だ。


しかしその笑顔は満面の笑みではないようなので、本気で俺を助けるためだけに情報操作をしたのだろう。



基本的に、白池先輩が嬉しそうな笑顔になるのは『遊び』が出来たときだけだ。


「それより、さ。大切なこと忘れてない?」


白池先輩が俺と香藤部長を交互に見ながら聞いていた。

香藤部長は無表情のまま、右手を白池先輩に差し出す。


「忘れてない。体育祭の情報だろ?教えろ」

「相変わらず偉そうだなー」


そう言いながらも、白池先輩は報告のために姿勢を正した。


「第三高校は体育祭は行いません、ってさ」

「そうですか…わかりました。では明日、生徒会に報告に行きますね」


じゃあ僕たちは退散するよ、と白池先輩と香藤部長は言い残し、この部屋を去った。



またこの部屋は静まり返る。


俺は自分のパソコンを立ち上げ、葉山副会長に提出する報告書を作り始めた。





そして月曜の朝。

俺は少し遅めに登校した。


なぜ遅くしたのかというと、ただ単純に寝坊したからだ。


報告書の作成が日曜日までかかったせいか、疲れがあまりとれなかったらしい。



朝食も食べれなかったし、購買で何か軽食買っていくか。



そんなことを考えながら校門付近を歩いていると、後ろから怒りの混じった男子の声が聞こえた。


「おい、奏寺!」


俺の名が呼ばれたので、振り返る。

そこにいたのは、俺のクラスメートの相宮(あいみや)だ。


相宮はどこにでも居そうな男子生徒のひとり。

しかし、少々短気だったりする。


表情が険しいところを見ると、こいつが俺を呼んだらしい。


「なに?」


俺は素っ気なく聞き返す。

相宮が早足で近づいて来て、小声で話してきた。


「さっき第三高校の生徒会の奴らが、うちの生徒会を訪ねてきた。

…話したいことがあるんだとよ。お前、何かやったのか?」


ほほう。なるほどね。



ちなみに、このように他校の生徒が堂々と訪ねてくることは、少なからずある。


大半は土地争いの為の殴り込みであるため、こちらは追い返さなければならない。


しかし今回みたいな『話し合い』の希望では、追い返したり、逆にこちらが訪ねてきた人を攻撃するのはマナー違反だ。



それにしても、相宮はなぜ俺が何かしたと思うのだろうか?


「何で俺が何かやったと思うんだよ」

「他校に干渉する部活は限られている。その中でもそんなヘマするのは、お前みたいな奴だけだ!」


顔が怒りのせいか少し赤くなっている。

それより、気になる言葉があった。


「ヘマって、なに?」


冷たく俺は聞き返す。

それが気にさわったのか、ついに相宮は大声を出してしまった。


「まだしらばっくれるつもりかよ!第三高校の校門の警報装置のコードを切ったのはお前だろ?!」


大声に驚いた周囲にいた生徒が、一斉にこちらを向く。


相宮は周りが見えなくなっているのか、全く気付かない。


そして俺は周りは見えているが、気にはしない。

だが溜め息はでてしまった。


「はぁ…。それは、俺じゃねぇよ…」


それは、霧丘だよ…。


だがもちろん、霧丘のことを言うわけにもいかない。


「情報部は、そんなわかりやすい証拠を残したりはしない」


俺が断言すると、相宮が少し怯んだ。


周りにいる生徒は、俺が情報部の奏寺だと知りひそひそ話をしている。


そんな中、俺ではなく相宮を見ている2人組が視界に入った。



香藤部長と白池先輩だ。


香藤部長は、今にも相宮に向かって怒鳴りつけてやろうか、という憤りの表情をしていた。


白池先輩は冷めた笑顔で相宮を見つめている。



どちらも周囲の人々と、表情も雰囲気も違いすぎたため目立っている。



俺は2人に気を取られ、思わず苦笑いをしてしまった。

それが相宮には気に食わなかったらしい。


「聞いてんのか?!」


相宮が俺の胸ぐらを掴んだ。

さすがの俺も、少し頭にきた。


「相宮、お前調子に乗るなよ…」


より一層険悪になり、周りは静まり返る。


香藤部長が思わず相宮に向かって歩き出そうとした。

しかし、白池先輩が肩を掴みそれを止める。


「白池、止めるな」


香藤部長は小声で白池先輩に向かって言う。


「駄目だよ。ここで僕たちが奏寺に関わったら、奏寺の今までの苦労が無駄になるかもしれない」

「だが…」

「もちろん、あいつが暴力をふるったら…助けに入るよ」


白池先輩の笑顔も、もう消えていた。

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