第三高校の煙
霧丘は焦りながら、自分が居る校舎を見ようと、柵にくっつき下を眺める。
その過程で、この校舎ではなく、その隣の校舎から煙が出てるのを確認した。
ここからは20メートルほど離れている。
「うそ…!」
焦る霧丘には全く気付かず、俺は考えていた。
白池先輩はきっと、俺が霧丘に気絶させられた現場を、偶然目撃した。
もしくは、気絶した俺を霧丘が運ぶのところを見たのかもしれない。
そんな場面を見たら、誰だって俺が捕まったと思うだろう。
そして俺を『救出』するため、白池先輩は動き出した。
「…どうしよう」
俺と霧丘は、同時に同じことを言う。
横に来た霧丘が焦りながら、俺の腕を掴んできた。
「早く逃げよう!」
「え?でも火災になっているのって向こうの校舎だろ?」
「そうだけど!こらから火が移ったりとかしたら大変だし、煙とかこっちに届きそうだし!」
そう言われても。
白池先輩だってさすがに放火はしない。
だからあの煙は偽物のはずだ。
白池先輩が策略的にこれを行っているなら、俺は下手にここから動かない方がいい。
「そうだな…うん。霧丘、お前は逃げろ」
「何言ってるの?!」
「いや、だってさ。侵入者が2人で行動してたら目立つじゃん」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!命の方が大切だから!」
落ち着いている俺と、パニックになっている霧丘の会話は、はたから見たらおかしなものだろう。
しょうがない。
煙が偽物だと気付かせるか。
「霧丘、冷静になれ。
あの校舎から出ている煙は真っ白だろ?
普通火事の煙は黒っぽい。
それに炎も見えないし、焦げたにおいとかもしないし」
「奏寺さん、あなた本物の火事をみたことあるの?」
霧丘が怖い顔で聞いてきた。
「無いけど」
「じゃあだめよ。誤った知識かもしれない。もしあれが本当の火災だったら、全てが遅いんだから!」
もしこれが本当の火災だったら?
つまり、白池先輩が放火という犯罪を犯したことになる。
よって情報部は風紀委員と警察から追われる。
それはさすがに嫌だ。
俺と霧丘が感じている危険は、明らかに別物だった。
力ずくで霧丘が俺を連れて行こうとする。
これはまずい。勝てる気がしない。
ここに残る方法を必死に考えていた時、屋上のドアが勢いよく開いた。
「えっ?」
霧丘が思わず一歩引いた。
開いたドアからは、勢い良くこの第三高校の生徒が出てきた。
生徒たちは俺や霧丘に気付くことなく、煙の出ている校舎が見えるフェンスに集まる。
「わっ、ほんとだ」
「うわ!煙すごい…」
「嘘じゃ無かったのか」
第三高校の生徒が煙を見て、思い思いの言葉を放つ。
屋上は8割方、生徒で埋まってしまった。
その状況を見て、霧丘は目を見開き、驚きすぎたのか動けずにいる。
これはチャンスだ。
「霧丘、大丈夫か?」
話しかけると、霧丘は溜め息をついた。
「はぁ…、何とか」
「じゃあ、俺は帰るから」
そう言って、俺は出口めがけて走り出した。
「…え?ちょっと、待って!」
霧丘の手が俺の後ろの襟を掴む。
「…!?く、苦し…」
「あ、ごめんなさい!」
首が締まり、苦しそうにした俺に霧丘がまた頭を下げる。
…なぜ襟に手がいくのか。
腕の方が掴みやすい気がするのは、気のせいだろうか。
そんな俺に謝り終わると、霧丘は携帯電話を取り出した。
「ねえ、もしもの時の為に連絡先教えて」
「へ?」
思わず聞き返してしまった。
「お願い!かわりに第一高校には潜入しないから!」
「いや、霧丘がうちの学校来たら一発で捕まると思うけど」
思わず本音が出てしまった。
痛いところを突かれた霧丘が、悲しそうな表情を浮かべる。
慌てて俺も携帯電話を出した。
「あ、いや、でも、連絡先がわかると今後楽だしね」
正直なところ、情報部には湖上高校の情報はあまりない。
霧丘と連絡がとれるのは有り難いことだ。
電話番号をお互いに登録し終えると、霧丘が少し笑顔になった。
「それじゃあ、またね」
霧丘が小さく手を振る。
俺も片手を上げて、屋上から早足で去った。
さて、白池先輩に謝らないと。
俺が居なくなった屋上では、第三高校の生徒が煙を見て、まだ大騒ぎを続けている。
そんな賑やかな中、霧丘はひとり、寂しそうな表情を浮かべていた。




