穏やかな時
目が覚めると、青空が見えた。
澄んだ青の中に、時々現れる白い雲。
太陽の日差しが少しきついが、その熱を優しいそよ風が緩めてくれる。
心地よい平和な時がゆっくりと流れ、次第に心が安らいできた。
いま感じられるのは穏やかな風、暑さと暖かさが混じる日光。そして、コンクリートの冷たさ。
…コンクリート?
「…あっ!」
こんなことをしている場合じゃない。
俺はすぐに飛び起きた。
すると、腹部に痛みを感じる。
「いてて…」
鼓動が早まるなか、腹部を抑えながら辺りを見渡す。
どうやら、ここは校舎の屋上らしい。
3メートルほどの柵が、この場所を囲っていた。
「奏寺さん!良かった…」
後ろからドアが開く音と、声が聞こえた。
振り返ると、そこに霧丘がいる。
「霧丘?」
「その、すみませんでした」
頭を下げる霧丘を見て、ようやく先ほどの出来事を鮮明に思い出すことができた。
「そうだ。あの時激痛が走って…」
「ほ、本当にごめんなさい」
霧丘がずっと俺に謝ってくる。
なぜだろうか?
ふと、冷静になり考えてみる。
あの時、俺と霧丘以外の人間が側にいる気配はなかった。
そして痛む、この左側の腹部。
その後、気絶した俺。
「ま、まさか…」
苦笑いする俺に、もう一度頭を下げた霧丘が恥ずかしそうに言った。
「うん…つい奏寺さんを殴ってしまい…まして」
「あは、ははは、は…」
この非力そうな霧丘が、男子高校生を一撃で気絶させた。
…こいつは、恐ろしい話だ。
「霧丘、お前は何者なんだよ?」
「か、奏寺さんこそ、何者なの?」
互いに自分の素性を話さない。
これではお互いに話は進まないまま。
そう思ってしまうが、実はこちらは大変有利な立場にいる。
なぜなら、俺の素性は公開して良いからだ。
「俺は、第二高校の生徒でも、ここの第三高校の生徒でもないけど」
「ええっ?!」
霧丘は驚いていた。
その後、俺は自分が第一高校の生徒だと説明し、ここに潜入捜査に来ていることを教えた。
もちろん、白池先輩のことは伏せて。
同じ潜入者だとわかると安心したのか、霧丘は自分の素性を教えてくれた。
「私は、湖上高校から来たの」
「湖上高校?!あんな所から?」
湖上高校はここより20キロメートルほど北に離れた場所にある。
高校の校舎は湖に囲まれており、まるで湖の上に建っているように見えるから、湖上高校というらしい。
湖上高校の敷地に入るには湖に架かる橋を渡る必要があり、なかなか攻め込みにくい高校として有名だ。
「湖上高校はその立地条件により他校から攻め込まれにくい。
それと生徒たちが『平和主義』だから、極力戦闘行為を行わないと聞いていたけど」
俺が純粋な疑問を投げかけると、霧丘が少し俯きながら教えてくれた。
「そうだけど…。でも、敵の戦力を知らなきゃ自衛もできないから」
「だから潜入して、それぞれの高校の戦力を調べていたと」
霧丘は頷いた。
俺はあることに気づく。
「霧丘、ここや第二高校に潜入するとき、校門の侵入者対策装置どうした?」
「装置に電流を供給するコードを切ったの」
なるほど。
だから俺たちも、霧丘のおかげで侵入できたと。
というか、霧丘が切れる範囲によくコードがあったな。
とりあえずそれは納得できたものの、不可解な疑問があとひとつ。
「じゃあ、霧丘のその腕力は…?」
「…へ?」
「いや、だから力強いじゃん。何かこう、守衛関係の部活でも入って鍛えてるのかなって」
霧丘はぽかんとしながら答えた。
「私は所属している生徒会に専念するために、部活動はしてないよ。力も、女子の中では強い方だけど、男子には適わないから」
いやいやいや。
この人は何を言っているのか。
その時、放送が入った。やや雑音も聞こえる。
それは凄く聞いたことのあるような、機械音声だった。
「ただいま三階に、火災が発生しました」
霧丘が驚き、あたふたし始める。俺は冷や汗が流れるのを感じていた。
これは、白池先輩だ。
また情報操作をするらしい。
しかし、多分これから始まるのは、あの時みたいな『遊び』ではない。
大真面目な『救出』だ。




