(6)
フォルナが案内した先は、王宮内の一室だった。
どの部屋よりも静寂に包まれているその部屋には壁一面に大きな絵画が飾られている。
(……凄い!)
絵に息を呑むディドを手招きして、フォルナは部屋の隅へと移動する。
そして、壁の上部を指差すと自国の歴史についてゆっくりと語り始めた。
「昔々、神々が闇と光に分かれて争っていた時代。 ある闇の神が人間の世へと降り立ちました。 彼は人間の世を支配しようと考えていたのです。
そんな闇の神に怒った光の神の一人『トラ』は、地上に降り立ち人々に力を与え闇の神に抗う術を教えます。
彼は、妹神である『アンテラ』、『シリス』を率いて人間と共に闇の神と戦いました。
そして長い年月をかけ、人間と光の神たちはついに闇の神を封印することに成功したのです」
ディドはフォルナの話を聞きながら、彼女の歩調に合わせゆっくりと壁沿いを歩いた。
どうやら見上げている絵画は、その歴史を表現しているものらしい。
「人間の世に平和が戻った後、トラ神は共に戦った人々のために王国を築きます。
そして彼自身は妹神と共に国の守護神となり、今日に至るまで王国の民を見守り続けているのです」
「それが私たちの住む国?」
「そうよ。
神の加護を受ける大陸で一番平和な国、我らがノヴィア王国!」
話を終え得意げに胸を張るフォルナ。
同時に鐘の音が遠くで響く。
「でね、初代国王様はトラ神から最初に力をいただいた方なんだって」
ディドは思わず彼女に拍手を贈っていた。
「フォルナが少しだけ賢く見える」
「少しだけじゃないでしょう」
「それならもう少しだけ」
「全然足りないわ!
って、そんなことより今、正午の鐘鳴ったわよね!?
サリュエル様との待ち合わせ時間じゃない!急いで中庭に行きましょう!」
フォルナは再びディドの腕を掴むと、急いで部屋を後にした。