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「バケモノ!!! あんなの人間技じゃないわ! 出てって! 今すぐウチからもこのティエルモンからも!!」
「ミーチェ、私……」
「出てって!!!」
「……ごめんなさい」
そう小さく呟くと、ミーチェの狂ったような叫びから逃げるように部屋を飛び出した。
涙が溢れそうになるのを必死で堪え、肩で大きく呼吸する。
ディドは廊下の隅で影に溶け込むかの様にうずくまって歯を食いしばった。
(バケモノ…… そうよ、バケモノなんだわ。 私は人を巻き込んで、傷つけてばかり。 きっとこの先も!)
王都に戻ろう。
ディドは心の中でそう呟いた。 利用されようがなんだろうがもう構わない。 サリュエルならきっとこの力も上手く制御してくれるだろう。
荷物をまとめるため、アシュレーの眠る部屋へと戻る。
「ディド」
「!」
ディドは目を見張った。目を覚ました彼は身支度を整え、荷物をまとめているのだ。
「アシュレー、怪我は」
「ん? ああ、もう大丈夫だ。 ぐっすり眠ったら良くなった。 それより、昼過ぎにでもここを出ようと思うんだけど、体調は?」
「……大丈夫だけど」
いつもの爽やかな笑顔に、思わず返事をしてしまう。
「よし! じゃあちょっと買い出ししてくるから、ディドはここで待っててくれ。大丈夫、すぐ戻るから!」
「待っ……!」
有無を言わさないアシュレーの行動にディドは丸め込まれてしまう。
王都へ戻る。 その気持ちに嘘は無いが、アシュレーの真っ直ぐな性格にディドの心は再び迷いはじめていた。
第3章・完