(73)
アシュレーから目をそらすようにふと視線を部屋に戻す。
(そうだ、あの二人は!?)
部屋に二人の姿はない。
(まさか何かあったの?)
不安になり重い体を引きずってベッドを抜け出ると、人を探しに部屋を出た。
扉を開けると、ちょうど向かいの部屋からミーチェの声が聞こえてきた。
(良かった…… 無事みたい)
声をかけようと扉に手を伸ばす。
「リンツ…… 早く目を覚ましてよ。 ……ねぇリンツぅ…… ぐすっ」
(リンツ!?)
ノックすることも忘れ、ディドは扉を勢いよく開ける。
そこには、驚愕した顔で振り返るミーチェと、ベッドに横たわったリンツがいた。
「リンツは……」
「来ないで!!!!」
「きゃ!」
ミーチェの怒号とともに、水の入った器がディドへと飛ぶ。
何とか直撃は避けたものの、代わりにミーチェの表情がディドの心を突き刺した。
「近づかないで! これ以上リンツに何をするつもり!?」
「何って、私は何も! ただ心配で」
「どうしてよ!! リンツはあなたを守ってたのに、どうして!? 魔法が使えないなんて嘘じゃない、あんな……!!!」
「……魔法?」
(まさか、また私がやったの!? リンツも、アシュレーも!)
あの時、兵士を倒そうと思った。 それは覚えてる。 でもその後の記憶が無い。