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「ディド! 止めるんだ!」
必死の叫びもむなしく、風に掻き消されて全く届かない。
風は唸り声をあげ、アシュレーの体を傷つけ続けた。
もっと近くへ!
なんとか足を踏み出すものの、既に立っているのがやっとだった。
傷口からは血が流れ、体力を奪っていく。 それでもアシュレーは足を進めた。
「ディド! もう終わったんだ! もういいんだ! 今すぐ風を止めてくれ!!!!」
ようやく彼女の目の前までたどり着いたアシュレーは、その様子に背筋を凍らせた。
虚ろな瞳は闇色に染まり、意識がないように見える。
ただ直立しているだけ。
それでも体中から溢れる魔力は、風の刃となり辺りへと飛び続けていた。
「ディド!!!!!」
ふっと一瞬、ディドの瞳が揺らいだような気がした。
ただ、その瞳のなんと恐ろしく悲しいことか。
アシュレーは最後の力を振り絞り、夢中で彼女を抱き寄せた。
体に激痛が走り、意識が遠のく。
「頼むディド。 もう止めてくれ。 これ以上はさすがに俺もまずいんだ……」
力なく呟いたアシュレーは彼女を抱きかかえたまま、その場に倒れこんだ。