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「リンツ!!!」
「だめだ!!!」
彼の下へと駆けつけようとするミーチェをアシュレーは押さえつけた。
「しばらく目を閉じて、じっと伏せているんだ」
「いやよ放して! リンツを助けないと! リンツが死んじゃう!!」
「リンツは死なない! 俺が助ける。 君まで怪我したら誰がリンツの治療をするんだ!」
「あ……」
「頼む、ここで伏せていてくれ」
涙でぐしゃぐしゃになった顔でミーチェが頷く。
アシュレーも頷き返し力を振り絞り立ち上がると、未だ渦巻く風の中、まっすぐに元凶を見つめた。
少しでも気を抜けば、一瞬で吹き飛ばされるだろう。
無数の刃が肌を切り裂き痛みがはしる。 それでも、一歩ずつ踏みしめながら彼はディドに近づいた。
アシュレーは近づきながら、これが“お触れ”の本当の意味を悟っていた。
彼らが欲しいのは“楽園への案内人”ではない。 その者の持つ“強大な力”なのだ。
戦争が起ころうとしているこのご時世、これほどの力は未知なる楽園よりもはるかに現実的で魅力的だ。
その気になれば、何百人でも何千人でも容易く薙ぎ払う“力”。
ディドはこの力のために追われているのだ。