(5)
ディドたちは門を潜り抜け、長い階段を上り、王宮へと続く庭へと到達した。
辺りは開放日とあって、一般人や生徒達の姿があちこちに見える。
と、
ディドが突然足を止めた。
「どうかした?」
「……フォルナ、この像は?」
庭のちょうど真ん中。
ディドの目の前には立派な像が立っていた。
「え? トラ神だけど…… まさかディドちゃん知らないの?」
「……うん」
「うっそ! この国に居てトラ神を知らないとか、ありえないんですけど」
「そんなこと言ったって、知らないものは知らないし」
「ふぅ。 ホントに困った子なんだから。 ……良いわ、私がこの国の歴史についてレクチャーしてあげる。 でもその前に、サリュエル様への取次ぎを済ませちゃいましょ!」
フォルナはディドの腕を掴むと、ぐいぐいと突き進み内郭門も抜けた。
王宮内に入り更に先へ進もうとすると、二人は兵士に呼び止められた。
話を聞くと王宮の解放日と言えど解放されるエリアは決まっており、二階以上は全て立ち入り禁止だというのだ。
(どうしよう。 これじゃサリュに会えない)
しかたなくディドは事情を説明し、サリュエルに会いたい旨を伝えた。
すると、兵士は半信半疑ながらも彼女の言葉を上階へと取り次いでくれた。
それからしばらく経った頃、別の兵士がやってきた。
「すまない、待たせたね。 話は伝えたんだが、サリュエル様は今直ぐには降りてこられないらしい。 正午の鐘が鳴ったら中庭の噴水前で待っていて欲しいとのことだ」
「ありがとうございます」
ディドが愛らしくお辞儀をする中、隣ではフォルナが手を合わせ目を輝かせていた。
「これで本当にサリュエル様にお会いできるのね! あ〜今すぐ正午にならないかしら!」
「フォルナ、時間は常に一定間隔でしか進まないのよ」
「わ、解ってるわよ! 言葉の綾じゃない。 ディドちゃんって変なところで真面目なんだから。 ほら、取次ぎも済ませたし時間まで歴史の勉強をしに行くわよ!」
恥ずかしさをごまかすように、ぐいっと腕を掴むとフォルナはずんずん次の場所へと向かっていった。