(63)
「……!」
一瞬目を疑った。
日の光を反射した一振りの剣が自分めがけて振り下ろされているではないか。
悲鳴すらあげられない。
(もうダメ!)
思わず目を閉じた彼女の耳元で甲高い金属音が響いた。
痛みも衝撃もない。
恐る恐る開けた視界には黒く風になびく髪が映る。
褐色の服を纏った逞しい背中。
そこには振り下ろされた刃を受け止めるアシュレーの後ろ姿があった。
「何のつもりだ、危ないじゃないか!」
「……素直に指示に従えば良いものを、こうなれば殺さぬ程度に痛め付けてでも黒髪の女を卿の下へ。 お前達はこの場で処分してやろう」
「冗談じゃないぞ。 さっきあんたは任意だって言ってなかったか?」
「忘れたな」
不適に笑うと再び剣を振り下ろす。
アシュレーはその剣を再度受け止めるとディドから離れるように攻撃を仕掛け続けた。
「急にどうしたってんだ?」
アシュレーの言葉にディドは辺りを見渡す。
確かに変だ。 先ほどまで会話をしていた兵だけではなく他の兵たちまでもが抜剣し4人を取り囲んでいた。
どの兵も紳士的な雰囲気は消えうせ、恐ろしいほどの殺気を放っている。
これは普通じゃない。
「黒髪の少女以外は殺せ!!!」
一人の兵の掛け声と共に彼らは一斉にアシュレーたちに襲いかかった。