(62)
「お待ちを」
「まだ何か?」
「卿はどうしてもその方にお会いしたいと仰せで、判断に迷ったのならとりあえず連れて来るようにと申し付けられているのです。 万一誤りであった場合は卿自らが謝罪申し上げ、最高のおもてなしをする、とも」
「それじゃ、半ば誘拐じゃないですか」
「とんでもない、あくまでも任意です」
「なら、辞退させてもらいます」
アシュレーはさっと会話を切り上げると、他の3人を促して広場を出ようとした。
(よかった)
ディドがほっと胸を撫で下ろしたその時……
“それでは手緩すぎますよ”
微かな声と共に一陣の風が砂埃を巻き上げながら辺りを吹き抜けた。
「きゃあ、なに!?」
「ミーチェ、大丈…… うわっ!」
突然の出来事に4人は慌てて目を瞑り体を縮める。
「ディド、大丈夫か?」
「大丈夫」
「イタっ! 目に砂が…… ちょっとリンツ! 防御呪文の一つくらいかけてくれなきゃダメじゃない!」
「なんだよそれ! ミーチェだって魔術師だろ!?」
「リンツは男の子でしょ!」
「はぁ!?」
二人が言い争う中ディドは砂をはらって立ち上がる。
そして背後にただならぬ殺気を感じて振り返った。