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怪しまれないよう地元民のミーチェとリンツの後にディド達は続いて行く。
広場の入り口前には兵士がざっと十人以上。 明らかに自分達を待ち伏せている。
不安で身を縮ませたその肩に突然手が置かれた。
「!」
ビクッと手の主を仰ぎ見ると、視線の先ではアシュレーが優しく微笑んでいた。
「任せておけって」
不安が消え去ったわけではない。 でも何故だか胸の奥が暖かくなるような、そんな気持ちをディドは感じていた。
4人は何食わぬ顔で彼らの横を通り過ぎる。 しかし、ちょうどディドが通り過ぎようとした時、予想通り呼び止められた。
「何か用ですか?」
アシュレーが答えると兵士は思いの外紳士的な態度で答えを返してきた。
「失礼ですが、そちらのフードをかぶったお嬢さんはディド・アーサーさんではありませんか? ティエルモン卿がお探しの方ではないかと思うのですが」
「生憎、彼女はそんな名前ではありません」
「……そうですか、これは失礼を。 卿がおっしゃる“珍しい黒髪の少女”という条件に一致していたものですから、もしやと思いまして」
「交流が盛んなこの街なら黒髪も珍しくないんじゃないですか?」
「いえ、旅人でも黒髪の方は未だ珍しいのですよ。 かつて、奴隷として連れられて来た苦い歴史もありますからね、あまり北部へは来たがらないのです」
「へぇ…… あぁ、すみません。 先を急ぐので失礼します」