(4)
月に一度の王宮の解放日。
大勢の人たちが自分の前を笑顔で通過していく。
すれ違う人たちと視線を合わせることはないが、時折哀れむような眼差しを感じる。
「フォルナ、まだかな」
目を伏せ思わずため息をつくとようやく待望の声が届いた。
「ディドちゃ〜ん! ディドちゃ〜ん! ディ・ド・ちゃ〜ん!」
(やめてフォルナ……)
独りで待つのは決まりが悪かったが、大勢の前で名前を連呼されるのはもっと恥ずかしい。
短い言葉でフォルナを呼ぶと、彼女もすぐにディドの姿を捉えた。
大きく手を振った後、人ごみを器用に掻き分けながら目の前まで駆けてくる。
「お待たせ、ディドちゃん!」
「もう! フォルナ、何やってたの! すっごい遅刻!」
「ごめんごめん、服がなかなか決まらなくてさ」
彼女の言葉に服へと視線を移したディドは思わず顔が引きつった。
「フ、フリフリ……」
「ね、このワンピースどう?」
(どうって……)
フォルナはスカートの裾を摘んで可愛らしくポーズを決める。
(恥ずかしいから人前ではやめて!)
喉から飛び出しそうだった言葉を必死にこらえ、ディドは彼女を先へ促した。
歩き始めてすぐフォルナは思い出したように声を上げる。
「ねえ、サリュエル様とはどこで待ち合わせているの?」
「待ち合わせなんかしないわよ? これから取り次いでもらうんだもの」
「え!? これからって…… 大丈夫なの!? 結局会えなかったなんてオチ、私承知しないわよ!」
「大丈夫よ、今度会うのは休校日だって約束したもの。 サリュは嘘をつかないわ」
「そうよね……サリュエル様だものね!」