(55)
しばらく歩いて、たどり着いたのは小さな部屋だった。
それまで通ってきた部屋とは違い、中には石像が一体も無い。
ガランとした室内に、ひび割れた石版が一枚立てかけられているだけの部屋だ。
石版はディドが思い描いていたものよりも大きく、そして風化が進んだ粗末なものだった。
「石版というより石碑って感じだな」
「どう思う?」
「う~ん、状態からして重要なものには見えないけど……」
「でしょ? だからゲートキーパーとは関係ないものなのよ」
アシュレーがおもむろに石版に近づく。
ディドも続こうとしたが、思い直して少し離れたところからその石版に目を凝らした。
平らな石の上部には丸い何かがあり、中央には大きな扉と思しきものが、そしてその下にに二人の人物を象ったと思われる図柄があった。
さらに下には楔形の記号が連なっている。
「確かにこれが扉といわれれば、そう見えなくもないけど……」
この時、頭を悩ませているアシュレーとは違いディドは全く異なる疑問を抱いた。
(なんで二人?)
仮に丸い何かが楽園だとすると、扉と思しきものが楽園への“ゲート”、ここまではわかる。
その下の二人の人物、おそらく“ゲートキーパー”を表す図柄がなぜ二人も描かれているのだろう?
(もしかして、ゲートキーパーは二人いるの……?)
「触ったらまずい?」
「別に問題ないわよ」
アシュレーの突然の提案にディドは我に返った。
「えっ、良いのか? う~ん…… ますます重要なものでは無さそうな気がしてきたな」
アシュレーがそっと手を伸ばす。 ディドはゴクリと唾を飲み込んで見守った。
石版にそっと触れると赤茶けた砂が指先につき、一部はカラカラと地面へと零れ落ちる。
「これはひどいな。 もう少し力を入れたら崩れそうだ」