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「捜索については、ある程度目星をつけてあります」
ティエルモンの心中を知ってか知らずかサリュエルは淡々と話を続ける。
「どうやってそんなことを?」
「何、大したことではありませんよ。 昨朝から街で話を聞いて周り情報を集めただけです。 そしてついでに彼等にお願いも」
「この広い街でいったい何人に話を聞いたのです?」
「そうですね、話を聞いたのは二十人くらいだったかと。 もっとも、お願いしたのは数え切れないぐらい大勢ですが」
不適に笑うサリュエルにティエルモンは妙な不安を覚えた。
「まさかとは思いますが、不特定多数に向かって魔法を使用したわけではないでしょうね? その行為は違法ですよ」
「とんでもない。 私が行ったのはあくまでも“お願い”です。 ある二つの言葉を聞いたら、三つ目の言葉を思い出して欲しいとお願いしただけです」
それは暗示魔法ではないのか。
そう直感的に思ったが、ここでは敢えて追求しなかった。
相手が大罪人ならば領民を守るためにも早急に見つけだすことが最優先だ。
多少のことは目を瞑らなければならない。
「そう。 その言葉もちろんわたくしにも教えていただけるのでしょう?」
「ええ、喜んで。 何せ、それが後者のお願いに繋がりますので」
「それで、何と?」
「一つ目は“ディド”。 少女の名です。 二つ目は“ゲートキーパー”。 そして思い出していただく言葉は“獅子の丘”です」
はっと、ティエルモンはサリュエルを見る。
「私はゲートキーパーである彼女をこの丘で保護します。 必ず通るあの広場は、もともと人々が集まり神に祈りを捧げるための場所。 神殿側まで来ないと隠れる場所がありません。 普段は人も少ないようですし、実に好都合な場所だと思いませんか?」
「獅子の丘に現れるのを、ひたすら待つというのですか?」
「ええ、そうです。 これなら貴女からお借りする兵も少なくて済むでしょう?」
「時間がかかりすぎます。 それに、少女があの丘に行こうと思わなければ何の意味もなさないわ」
「何、彼女ならきっと近いうちに現れますよ。 あの子はそういう子です」
自信ありげに街を見下ろすサリュエルの内心を探ろうと、ティエルモンはその横顔をじっと見つめるのだった。