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街の東に位置する大きな丘。
“獅子の丘”とも呼ばれるこの場所は、この都市の創始者“クラトスの獅子”が眠る神聖な場所だ。
クラトスの獅子とは、かつての闇の神との対戦の折、ノヴィアの初代国王・英雄クラトスの右腕であった黄金の獅子のことである。
街から続く路を上ると開けた広場のような場所に出る。
そこから僅か、左の丘を上ると奥には神殿や古代の遺跡がそのままの形で残っていた。
広場を右に上ると、高さこそないが広い庭をもつティエルモン卿の屋敷が鎮座している。 そして、真っ直ぐに丘を上ったその先には壁の外からも見える、あの鮮やかな宮殿がそびえ立っていた。
主の屋敷よりも宮殿を重視していることからも、この街の獅子への信仰心の厚さを物語っている。
発達した街とは対照的に周囲には手付かずの自然。風に揺れる木々が爽やかな庭。
そんな庭を静かに眺めていた彼女の下に一人の来客が訪れた。
「いつ見てもここの庭は美しい。 王宮の庭でもこれほどの景観はなかなかありませんよ。……まあ、少々街からの上り坂は大変なようですが」
風に乗り突如現れたサリュエルに、ティエルモンは小さく笑みを浮かべた。
「そんな不憫なところまでようこそ。 もっとも、魔法を使う貴方には不要の言葉でしょうけど」
「いえ、卿直々のねぎらいのお言葉を頂けるとは光栄ですよ」
サリュエルは屋敷に続く石畳の上を歩き、屋敷前で待つティエルモンの下へと近づく。
そして跪いて彼女の手を取ると、手の甲にキスをした。
「まあ、ご丁寧に」