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「どういうこと? だって信じてないんでしょう? 嘘ついたの?」
「まあ、半信半疑ってとこかな。 伝承に興味があってさ。 いるなら会ってみたいくらいなものだよ。 君みたいに信じていない人にそんなこと話したって笑い飛ばされるのがオチだろ? だから、ディドは恥ずかしくて咄嗟に嘘をついたんだ」
「なーんだ、そういうことだったの。 素直に言ってくれれば良かったのに。 そうそう、リンツなんてしっかり信じ込んでるのよ。 学校での討論も白熱しちゃってさ」
アシュレーが何食わぬ顔で話に乗っかり出すと、戻らないミーチェを呼びに来たリンツも話に加わってきた。
「なかなか戻ってこないと思ったらこんな所で話し込んでいたのか。 それよりミーチェ、ゲートキーパーはちゃんと存在するって言ってるだろ。 たまたまこの国に現れていないだけだって!」
「はいはい。 わかってますってば」
「わかってない! 丘の遺跡の石版、一緒に見たじゃないか!」
「石版?」
アシュレーがその言葉に食いつく。
「ゲートキーパーと関係があるって言われてるものさ」
「あんなのはデタラメよ。 ちょっと変わった模様があるからって、みんなすぐに伝承とかに結びつけたがるのよね」
「デタラメじゃないって! 父さんの本にも……」
「まぁまぁ、二人とも。そんなに睨み合うなって。 折角だしその遺跡とやらに案内してくれないか? 一応関係してるかもしれないから、ちょっと見てみたいんだ」
「アシュレー!」
ディドは慌てて彼を止めようとするが、ミーチェ達も乗り気になり、もはや手遅れだった。
「いいよ。 本当は部外者に見せるのは不本意だけど、興味があるっていうなら案内するよ」
「ちょっと何仕切ってんのよ! 案内するのはワ・タ・シ!!!」
「はぁ!!!?」
「ゲートキーパーって聞いた瞬間から、獅子の丘に案内しようと思っていたんだからねー!」
仲が良いのか悪いのか、二人は言い争いながらも早速出かける準備に取り掛かっている。
そんな二人を見ながらディドは、またも勝手に話を進めたアシュレーに苛立ちをおぼえた。
(一体何を考えてるの?)
ディドの素性を知りながらも一緒に逃亡の旅を続ける彼は、一体何を考えているのか。
果たして彼について行っていいものなのか。
苛立ちと共に少しずつ不安を感じ初めていた。